茶師のポーション~日常編

神無ノア

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八十八夜とお茶と師範と

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「探求者の茶師が一線から退いたというのもかなり痛手だったとお聞きしています。あなたのお弟子さんがお一人しかいらっしゃらない、なおかつ国内のみでの活動ということを残念がる声があるのですけどね」
「私は誰とも師弟関係を結ぶつもりはありませんでしたよ。弟子には探求者を諦めさせるつもりでしたし」
 国外へ連れて行ったのは弟子が諦めなかったからだ。そこで高評価を受けているなど、マスターは知りようもなかった。
 知った時には、弟子は言葉が通じないままコミュニケーションをとれるようになっていたのである。
「あらまぁ」
 静縁は言葉の裏にあるものを悟ったのか、それだけ言って微笑んでいた。

「今度お会いしたら、茶葉入手の依頼でも出そうかしら」
「是非とも弟子の働き具合を見てから決めてください」
 嬉しい言葉ではあるが、己の弟子だというだけで選んで欲しくない。
「勿論ですわ。高名でも無能な探求者にお客様に出すお茶など頼めませんもの」
 一気にまくし立てた静縁に、今まで依頼を請け負った探求者の質の悪さを悟ったマスターだった。

 静縁は「家で楽しむ用」としてマスターセレクトの和紅茶、、、を購入し、慌てて帰って行った。

 恐らく茶会か何かがあるのだろう。この時期はそれなりに非公式の茶会があったはずだと、マスターは思い出した。
「巡り合わせとは不思議なものですねぇ」
 小さな少女が母を想い、この店に来た。そこから繋がる縁に。

 そして、これからも繋がれるであろう縁にマスターは心を躍らせるのであった。
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