のんきな男爵令嬢

神無ノア

文字の大きさ
87 / 99
調合師教育計画

鬼と名言

しおりを挟む

 集落では皆が慌てふためいた。
「お嬢が倒れた!!」
「病気か!? 暗殺か!?」
 何故暗殺がくる、という突っ込みは誰もしない。それどころかあり得るとまで言い出す始末。

 診断された内容が過労を伴った風邪とくれば、全員がまずは一安心した。
……のだが。
「お嬢ってそこまで働いてたっけ?」
 皆に采配を振るうことの多いマイヤ。動いているのをそこまで見かけていない。
「動いていなくとも過労にはなりますぞい。しかもお嬢様は研究書を仕上げるのに寝食を惜しんでいらっしゃった模様。
 まったく、昔から変わりませんな」
 ヘイノが呆れていた。

 それを聞いた住民たちの大半は。
 己たちの文盲がマイヤを倒れさせたことに罪悪感を持ち、学問所へ通う頻度を高めるのだが。

 それはそれでマイヤの仕事が増えるだなど知るはずもなく。
「平和ですわねぇ」
 一人マイヤがのんきに呟いていた。


「お嬢様、いったいどこが平和なのか教えていただきたい所存です」
 その呟きを拾ったベレッカが食らいつくというところまで様式美なようで、マイヤはしれっと顔をそむけた。
「だって、こうやってゆっくり横になって療養できるんですもの、平和でしょう」
「過労で倒れるところに、平和を感じろと?」
 ぐごごご、とベレッカの顔が近づいてくる。やだ、怖い。

「お嬢様は、私どもに休みを取らせてご自身がお仕事なさっているから問題なんです! お嬢様の代わりは誰も出来ないんですよ! もう少しご自愛下さませ!」
「代わりはいると思う……ごめんなさい、気をつけます」
 マイヤの中では住民たちの代わりはいない。マイヤの代わりなぞいくらでもいるという感覚だ。

 当然、住民たちから見ればその感覚は逆である。マイヤの代わりは誰も出来ない。

「強いて申し上げるなら、双方とも代わりはいない。そうセヴァトスラフ様がおっしゃっておりました。皆様もお忘れなく」
 にこりと笑うものの有無を言わさぬベレッカに、マイヤも住民もこくこくと頷いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

多分怒らせると怖いのは、王太后陛下と公爵夫人、それからベレッカ
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

処理中です...