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第四夜-1
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4、
ヒグラシが泣いている。あれは私だ、と清は思った
佐助の葬儀には、島民全員なのではないかという程の人が集まり、皆が一様に「長……」と泣いていた。その中で、昨日、泣き腫らした目で座っていた清は化粧を施されて白い布を掛けられた佐助の冷たく固い手を離そうとはしなかった。
「……火葬の後、灰は海に流す。長は故国に還すから……」
才蔵も充血した目をしていた。清だけが哀しい訳じゃない。それをまざまざと見せつけてくれたのは才蔵だった。六郎が言っていた、才蔵にとっての佐助は腹違いの姉で上司で――想い人だったからだ。身を斬られる思いで毎夜佐助を送りだしていたことは考えるまでも無い。
「……佐助、もう苦しまなくて良いんだね」
「ああ、綺麗な死に顔だった。故国が残っていたら、忍びは何一つ置いて行くことを許されなかったから、ここで死ねた長は幸せだっただろう。――あんたも居てくれたしな」
「私?」
「信じられんかもしれないが、御庭番衆を率いて居た頃の長は、それは冷徹でな。だが、あんたが流されてきて、世話をして……根っこから忍びの人だったのにあんたの身を案じるようになった。可愛かったんだろう。あんたはなんの衒いもなく、彼女に懐いていたから」
才蔵は「だから、あんたの手で故国に還してやってくれ」と佐助の骨壺を、清に預けた。
佐助に助けられた浜辺で、清は佐助を波に乗せた。
――ねえ、佐助。見ていてね。成し遂げて見せるから、必ず!!
暮れ行く海にぼやけた夕陽が映っていた。佐助の骨壺は、それに向かって流れて行っているように見えた。
診療所に戻ると、十勇士が全員集まっていた。
「こんな日に申し訳ない。惣領にはご挨拶が遅れましたこと、平にご容赦頂きたく。――儂は三好清海、隣が伊三でございます」
禿頭の二人は三十代くらいだろうか。忍びにしては随分と恰幅の良い身体つきをしている清海と細身の伊三に、清姫はまずは礼を述べた。
「気にしなくて良いよ。それよりもオランダ船とポルトガル船を連れてきてくれてありがとう。おかげでイスパニア側に一泡吹かせられた。貴方達のおかげだ」
「もったいなきお言葉、恐悦至極」
「ところで、さ……ディアスは船長の任を解かれたと聞いたけれど、まさか皆、それだけで満足している訳じゃないよね?」
仄暗い目の清に、十勇士はぞくりと寒気を覚えた。
「無論、制裁は終わってるぜ」
ディアスには遺書を書かせた上で両手の指をすべて切り落とし、イスパニア船のメインマストに吊った。あくまで自殺にみせかけるように。
甚八からその報告を受けると、清は「ご苦労」と言い放った。佐助を失ったのは確かに痛手である。長年、長の地位にあった博識の女頭領――それだけでも士気が違った。だが、佐助の穴を埋めるには程遠いが、この娘と才蔵ならば、士気が落ちる事はないだろうと甚八は目を細める。
「イスパニアはとんだ化け物を目覚めさせてくれたもんだぜ」
「なんの話?」
甚八の呟きにやや疲れた様子の六郎が尋ねるが甚八には「独り言だ。歳は取りたくないねえ」とはぐらかされた。
「イスパニアに対する制裁が終わっているなら、取り急ぎ、次の話に移りたい。――まず、のんびりしている場合ではないけど、甚八と小助、私が船に慣れるまでの補助は変わらず頼みたい。こればかりは焦っても仕方がないから地道に行きたい。異論は?」
「ございません。次は一週間の航海に出て頂きます」
「よろしく頼む。私が不在の間は才蔵に任せる」
才蔵は軽く会釈をする。
「次に、清海と伊三。オランダとポルトガルからの具体的な支援内容を教えて欲しい」
「はっ。オランダからは長崎に常駐していたオランダ人で日本語ができる水夫を十人貸してくれるとのこと。彼らは長崎の出島での暮らしが長かったので、食料の調達も任せられましょう。無論、経費の負担もオランダ側が負担してくれると」
「……親切すぎるな」
「商館長の話では先代と交流があったそうです。彼女の蘭語と医学はこの商館長の紹介で学んでらしたと。ヤン・ドンケル・クルティウスという男ですが、彼の周囲の人間も先代をよく存じ上げておりましたゆえ、信頼に足ると判断致しました」
まだ納得がいかない面持ちの清に、才蔵が斜め後ろから補足をする。
「姫、クルティウス商館長ならば、俺も面識があります。共に蘭語と医学をご教授下さった温厚な方ゆえ、先代も信頼に足る人物としておりました」
「……解った。二人の言葉を信じよう。では、次にポルトガルの報告を」
今度は伊三が書面を広げ読みあげる。
「ポルトガルよりは主船の補佐として多少年季は入っているものの頑丈な船を二隻と調査に必要な物資および資金援助を。資金は具体的にイスパニアと同額とのことです」
「つまりはイスパニアとポルトガルだけで資金面は問題なくなったということか。……オランダは、まあ、全面的とは言えないが信じよう。しかし、ポルトガルとイスパニアにはいつでも切り捨てられるようにしておいて欲しい。難癖付けて着たらいつでも乗り換えられるように他の国との交渉も秘密裏にお願いしたい。――私が信じるのは佐助の死を心底悼む者だけ。それを忘れないで。では、解散」
清は振り返ることなく、刀を携えて外に出て行く。それを訝しんだ小助の袖を甚八が引く。
「才蔵――長と六坊が行った。気にすることじゃねえ。最後のは忠告だな」
「忠告?」
「姫は十勇士ではない元・御庭番衆の中に間者が居ることに気づいている。それに対する脅しだ」
「間者だと……? あの姫、いつからそれを?」
「俺は長い付き合いだから連中の様子がおかしければ、すぐに気づいた。だがおひいさんは違う。気づいたとしたら葬儀の時だろうな」
小助は清をそら恐ろしく感じる。散々、侮っていた小娘がなんという速さで成長していくのか。
――長……これが貴女が見極めた姫のお姿か。
小助は天に問いを投げる。そんな小助に甚八は海図を広げた。
「おひいさんが言った通りだ。三国以外の諸外国とも繋がっておくべきだろうな。支援を受ける以上、こちらが下に見られがちだがイスパニアの二の舞は御免だ。俺達も気を引き締めねえとな」
「……そうだな」
小助の頭に手を置いて、甚八は次の航海の手順を話し始めた。
◇
清は診療所裏にある洗濯物干しの場で一心不乱に剣を振っていた。だが、身体が重い。剣先と呼吸が乱れる。余計なところに力が入るせいで、無駄に体力を消耗する。滴り落ちる汗を拭い、もう一度剣を構えようとしたのを才蔵が腕を掴んで止めた。
「……なに?」
「言わなくても解ってんだろう」
「姫、これ。冷たい手拭い」
才蔵の後ろから、苦笑した六郎が手拭いを差し出す。清はしばし瞑目して「ありがとう」とそれを受け取った。木陰に座り、目に手拭いを当てると口が勝手に思いの丈を吐露し始めた。
「……落ち着かないの……。これじゃあ大局を見られないとは解っているのに、異人の全てが憎い。佐助を殺したのはディアスだけなのに……」
「違う。もっとガキらしいこと考えてるはずでしょう。どうせ俺と六郎以外聞いてない……いや、まだ居たな。出て来いよ、鎌之助」
「……六ちゃんとは違う、あんたの気配に敏感なところが大っ嫌い」
「昔っから気が合うよな。俺もお前の中途半端に長の気を引こうとして女口調になったところに反吐が出る」
「あは、ははは……十勇士って、なんでこんなに正直なんだろ? 忍びなのに言いたい放題ね」
「才蔵と鎌之助は別格だよ」
「……そうなんだ……あのね、佐助に、逢いたいの……恋しくて、堪らない……!! 心細いよ。ここに着いたときよりもずっと。皆が居てくれるのに、なんて罰当たりなんだろ、って」
手拭いが吸い取り切れなかった涙が幾筋も湧いては流れて行く。
「逢えるなら、俺も逢いたい。……正直、直情的な俺なんかが十勇士を纏められるのか、自信がないからな」
「そんなの!! 俺だって逢いたいよ!! ……逢いたい、よ……」
清の言葉が導火線だったように、才蔵も鎌之助も包み隠さず本心を吐き出す姿に六郎は、忍びでは無く、親を恋しがる三人の子供のように思えた。生きていたら、さぞ呆れられたことだろう。しかし、才蔵の言うようにここには四人しかいない。
せめて今だけは、小さな子供に返って泣きじゃくるのを許して欲しい、と誰ともなく六郎は祈った。
★続...
ヒグラシが泣いている。あれは私だ、と清は思った
佐助の葬儀には、島民全員なのではないかという程の人が集まり、皆が一様に「長……」と泣いていた。その中で、昨日、泣き腫らした目で座っていた清は化粧を施されて白い布を掛けられた佐助の冷たく固い手を離そうとはしなかった。
「……火葬の後、灰は海に流す。長は故国に還すから……」
才蔵も充血した目をしていた。清だけが哀しい訳じゃない。それをまざまざと見せつけてくれたのは才蔵だった。六郎が言っていた、才蔵にとっての佐助は腹違いの姉で上司で――想い人だったからだ。身を斬られる思いで毎夜佐助を送りだしていたことは考えるまでも無い。
「……佐助、もう苦しまなくて良いんだね」
「ああ、綺麗な死に顔だった。故国が残っていたら、忍びは何一つ置いて行くことを許されなかったから、ここで死ねた長は幸せだっただろう。――あんたも居てくれたしな」
「私?」
「信じられんかもしれないが、御庭番衆を率いて居た頃の長は、それは冷徹でな。だが、あんたが流されてきて、世話をして……根っこから忍びの人だったのにあんたの身を案じるようになった。可愛かったんだろう。あんたはなんの衒いもなく、彼女に懐いていたから」
才蔵は「だから、あんたの手で故国に還してやってくれ」と佐助の骨壺を、清に預けた。
佐助に助けられた浜辺で、清は佐助を波に乗せた。
――ねえ、佐助。見ていてね。成し遂げて見せるから、必ず!!
暮れ行く海にぼやけた夕陽が映っていた。佐助の骨壺は、それに向かって流れて行っているように見えた。
診療所に戻ると、十勇士が全員集まっていた。
「こんな日に申し訳ない。惣領にはご挨拶が遅れましたこと、平にご容赦頂きたく。――儂は三好清海、隣が伊三でございます」
禿頭の二人は三十代くらいだろうか。忍びにしては随分と恰幅の良い身体つきをしている清海と細身の伊三に、清姫はまずは礼を述べた。
「気にしなくて良いよ。それよりもオランダ船とポルトガル船を連れてきてくれてありがとう。おかげでイスパニア側に一泡吹かせられた。貴方達のおかげだ」
「もったいなきお言葉、恐悦至極」
「ところで、さ……ディアスは船長の任を解かれたと聞いたけれど、まさか皆、それだけで満足している訳じゃないよね?」
仄暗い目の清に、十勇士はぞくりと寒気を覚えた。
「無論、制裁は終わってるぜ」
ディアスには遺書を書かせた上で両手の指をすべて切り落とし、イスパニア船のメインマストに吊った。あくまで自殺にみせかけるように。
甚八からその報告を受けると、清は「ご苦労」と言い放った。佐助を失ったのは確かに痛手である。長年、長の地位にあった博識の女頭領――それだけでも士気が違った。だが、佐助の穴を埋めるには程遠いが、この娘と才蔵ならば、士気が落ちる事はないだろうと甚八は目を細める。
「イスパニアはとんだ化け物を目覚めさせてくれたもんだぜ」
「なんの話?」
甚八の呟きにやや疲れた様子の六郎が尋ねるが甚八には「独り言だ。歳は取りたくないねえ」とはぐらかされた。
「イスパニアに対する制裁が終わっているなら、取り急ぎ、次の話に移りたい。――まず、のんびりしている場合ではないけど、甚八と小助、私が船に慣れるまでの補助は変わらず頼みたい。こればかりは焦っても仕方がないから地道に行きたい。異論は?」
「ございません。次は一週間の航海に出て頂きます」
「よろしく頼む。私が不在の間は才蔵に任せる」
才蔵は軽く会釈をする。
「次に、清海と伊三。オランダとポルトガルからの具体的な支援内容を教えて欲しい」
「はっ。オランダからは長崎に常駐していたオランダ人で日本語ができる水夫を十人貸してくれるとのこと。彼らは長崎の出島での暮らしが長かったので、食料の調達も任せられましょう。無論、経費の負担もオランダ側が負担してくれると」
「……親切すぎるな」
「商館長の話では先代と交流があったそうです。彼女の蘭語と医学はこの商館長の紹介で学んでらしたと。ヤン・ドンケル・クルティウスという男ですが、彼の周囲の人間も先代をよく存じ上げておりましたゆえ、信頼に足ると判断致しました」
まだ納得がいかない面持ちの清に、才蔵が斜め後ろから補足をする。
「姫、クルティウス商館長ならば、俺も面識があります。共に蘭語と医学をご教授下さった温厚な方ゆえ、先代も信頼に足る人物としておりました」
「……解った。二人の言葉を信じよう。では、次にポルトガルの報告を」
今度は伊三が書面を広げ読みあげる。
「ポルトガルよりは主船の補佐として多少年季は入っているものの頑丈な船を二隻と調査に必要な物資および資金援助を。資金は具体的にイスパニアと同額とのことです」
「つまりはイスパニアとポルトガルだけで資金面は問題なくなったということか。……オランダは、まあ、全面的とは言えないが信じよう。しかし、ポルトガルとイスパニアにはいつでも切り捨てられるようにしておいて欲しい。難癖付けて着たらいつでも乗り換えられるように他の国との交渉も秘密裏にお願いしたい。――私が信じるのは佐助の死を心底悼む者だけ。それを忘れないで。では、解散」
清は振り返ることなく、刀を携えて外に出て行く。それを訝しんだ小助の袖を甚八が引く。
「才蔵――長と六坊が行った。気にすることじゃねえ。最後のは忠告だな」
「忠告?」
「姫は十勇士ではない元・御庭番衆の中に間者が居ることに気づいている。それに対する脅しだ」
「間者だと……? あの姫、いつからそれを?」
「俺は長い付き合いだから連中の様子がおかしければ、すぐに気づいた。だがおひいさんは違う。気づいたとしたら葬儀の時だろうな」
小助は清をそら恐ろしく感じる。散々、侮っていた小娘がなんという速さで成長していくのか。
――長……これが貴女が見極めた姫のお姿か。
小助は天に問いを投げる。そんな小助に甚八は海図を広げた。
「おひいさんが言った通りだ。三国以外の諸外国とも繋がっておくべきだろうな。支援を受ける以上、こちらが下に見られがちだがイスパニアの二の舞は御免だ。俺達も気を引き締めねえとな」
「……そうだな」
小助の頭に手を置いて、甚八は次の航海の手順を話し始めた。
◇
清は診療所裏にある洗濯物干しの場で一心不乱に剣を振っていた。だが、身体が重い。剣先と呼吸が乱れる。余計なところに力が入るせいで、無駄に体力を消耗する。滴り落ちる汗を拭い、もう一度剣を構えようとしたのを才蔵が腕を掴んで止めた。
「……なに?」
「言わなくても解ってんだろう」
「姫、これ。冷たい手拭い」
才蔵の後ろから、苦笑した六郎が手拭いを差し出す。清はしばし瞑目して「ありがとう」とそれを受け取った。木陰に座り、目に手拭いを当てると口が勝手に思いの丈を吐露し始めた。
「……落ち着かないの……。これじゃあ大局を見られないとは解っているのに、異人の全てが憎い。佐助を殺したのはディアスだけなのに……」
「違う。もっとガキらしいこと考えてるはずでしょう。どうせ俺と六郎以外聞いてない……いや、まだ居たな。出て来いよ、鎌之助」
「……六ちゃんとは違う、あんたの気配に敏感なところが大っ嫌い」
「昔っから気が合うよな。俺もお前の中途半端に長の気を引こうとして女口調になったところに反吐が出る」
「あは、ははは……十勇士って、なんでこんなに正直なんだろ? 忍びなのに言いたい放題ね」
「才蔵と鎌之助は別格だよ」
「……そうなんだ……あのね、佐助に、逢いたいの……恋しくて、堪らない……!! 心細いよ。ここに着いたときよりもずっと。皆が居てくれるのに、なんて罰当たりなんだろ、って」
手拭いが吸い取り切れなかった涙が幾筋も湧いては流れて行く。
「逢えるなら、俺も逢いたい。……正直、直情的な俺なんかが十勇士を纏められるのか、自信がないからな」
「そんなの!! 俺だって逢いたいよ!! ……逢いたい、よ……」
清の言葉が導火線だったように、才蔵も鎌之助も包み隠さず本心を吐き出す姿に六郎は、忍びでは無く、親を恋しがる三人の子供のように思えた。生きていたら、さぞ呆れられたことだろう。しかし、才蔵の言うようにここには四人しかいない。
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