LOST-十六夜航路-

紺坂紫乃

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ep.

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終、


 ヨーロッパから戦火が上がった。火種はやがて海を超え、世界へと波及した。

 ――世に言う世界大戦の開始である。
 
 無論、アメリカと本宮島も例外ではなく、戦火は広がる。母が予見した通り、海底の覇権を握っていたイギリスが優位であった。しかし、世界大戦では本宮島という島国だけは海軍の鉄壁の防御で、本土での戦いは避けられた。
 太平洋側を護るのは霧隠清助提督率いる「十六夜」戦艦部隊。
 そしてアメリカ側からの攻撃を迎え撃つは『第二の姫提督』霧隠八重率いる「曙」戦艦部隊である。
 両提督はまだ二十歳足らずであった。腰に日本刀を差し、両提督は波と風を操る。諸外国には「無敵艦隊の再来」と恐れられた。



「兄様、滞っている日本の沈没調査は如何になさるの?」

 母に生き写しの妹は、今年で十八になる。引退した十勇士の甚八が教えてくれた、母が清助を産んだ年齢になった。戦時下であってもひっきりなしに来る八重への求婚の申し入れは何通が灰になったかしれない。

「そうだなあ……。イギリスを落として、さっさと海底に潜ろうか」

「では、私にイギリスに行かせて。――縄に括りつけて海に沈めてやる」

 華やいだ顔で鬼の発言をする妹に、清助はもてあそんでいた竹串を噛んで、にっと笑った。

「任せよう。ついでにアメリカが占拠した琉球も取り戻して来いよ」

「はっ!!」

 カッとブーツを鳴らして最敬礼した妹は、機械仕掛けのように反転して母の遺した脇差を打ち直した刀を帯びて清助の部屋を辞した。妹からの吉報を待つ間、清助も働かない訳にはいかない。

「……留守を任されたからには、俺達も居座ってはいられないなあ。じゃあ、行くとしますかね」

 ソファから起き上がった清助もまずは腰に刀を差した。そして、一丁のリボルバー式拳銃を右腿のホルスターに装備すると「行ってきます」と空っぽの部屋に告げた。



 日本の沈没の一端が明らかになったのは清助と八重が眠りについた日だった。小助が提唱した説でもなく、巨大な地殻変動によるものだとテレビで大きく報じられていたが、九鬼家の末裔達は、ただ国の為に尽力した兄妹と、偉大なその父母の伝説を語り継いだ。

 西暦二千十六年四月某日のことである。
 同日、賀谷ノ島の御神木である楠の洞の中で双子の赤ん坊が発見された。手を取り合い、眠る男女の赤ん坊は安らかに眠っている。親の姿は見当たらない。

 ――賀谷ノ島……魂が回帰する場所での不思議であった。

★終...
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