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『腸』――9日目
118.『夜の時間(2)』
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――――PM23:10、小桃の部屋
佐倉 小桃
「……………………」
(シャワーを浴びてから自室に戻ったあたしは、ベッドに腰掛けながら呆然としていた。
正直言って、先日の乃木坂くんの一件から、ここ最近のあたしはずいぶん浮かれていた。
…………それなのに。
…………あんな、…………ことがあった。
弥重が惨殺されるのを、ただ眺めることしか出来なかったあたしは、…………あたしは、バチが当たったのかも知れない……。
弥重を気にかけてるふりをして、善人ぶって、そのくせに乃木坂くんのことで浮かれていたから、
…………過去の、乃木坂くんのことで弥重を傷付けてしまった一件がありながら、罪を忘れて、浮かれてしまったから…………だから弥重は、あんなことになったのかも知れない。
…………あたしの、せいなのかも知れない……)
佐倉 小桃
「…………弥重……」
(じわじわと、涙が滲んだ。
いっそのこと、八木沼さんのように大声をあげて泣きたかった。
…………けれど、ショックが大きすぎて、声すら出なかった。
……………………そのとき)
プルルルルルル――――
(電話が鳴った。
相手はひとりしかいない…………乃木坂くんだわ。
…………放っておいてほしい気持ちと、罪悪感と、焦りと、…………喜び)
佐倉 小桃
「…………はい、もしもし」
(迷った結果、わたしはイヤホンマイクを装着した。
…………混乱した気持ちで)
乃木坂 朔也
「≪もしもし? …………佐倉?≫」
佐倉 小桃
「…………はい」
乃木坂 朔也
「≪…………大丈夫か≫」
佐倉 小桃
「ええ…………。
…………心配して、かけてきてくれたの?」
乃木坂 朔也
「≪ああ。…………泣いてるんじゃないかと思って≫」
佐倉 小桃
「≪乃木坂くん…………平気よ、あたしは≫」
(嘘をついた。
心配をかけたくない気持ちと、それでも気にかけて気付いてほしい、そんな、矛盾した感情だった)
乃木坂 朔也
「≪…………ごめんな。…………都丸のこと。
俺も…………どう気持ちを整理すれば良いか、わからない……、
けど、佐倉のことが心配で……≫」
佐倉 小桃
「乃木坂くん…………あたしのせいなのかな?」
乃木坂 朔也
「≪うん…………?≫」
佐倉 小桃
「……弥重も昔、あなたのことが好きだったの。
秋尾くんと付き合うようになって、その気持ちは影を潜めたけど…………けど、あたし、あのとき」
乃木坂 朔也
「≪……都丸と、俺のことで気まずくなったんだろ?
…………知ってる、でも、過去のことだ。
それに…………都丸が殺されたこととは、なんの関係もない≫」
佐倉 小桃
「…………でも、乃木坂くん」
乃木坂 朔也
「≪……………………≫」
佐倉 小桃
「…………あたし、浮かれてた。
あなたに告白して、改めて返事をくれるって言われて…………弥重のことは省みないで、気にかけてるふりをして、浮かれてた……。
…………嫌な女なの、あたし…………」
(言いながら、涙が出てきた。
……こんなのじゃダメだ。彼に余計に心配をかけさせてしまう。
けど…………)
佐倉 小桃
「こんなだから、…………あたし、白百合さんには勝てないんだわ」
乃木坂 朔也
「≪佐倉…………美海は、関係ないだろ?≫」
佐倉 小桃
「………………」
乃木坂 朔也
「≪……ごめんな。俺、…………美海が好きだ。
たぶん、…………ずっと好きだと思う≫」
佐倉 小桃
「………………」
(……失恋のショックも重なって、涙が止めどなく流れた)
乃木坂 朔也
「≪けど、…………こんな俺だけど、
…………君の力になりたい。本当だ≫」
佐倉 小桃
「…………乃木坂くんっ」
乃木坂 朔也
「≪佐倉…………話くらいなら、聞けるから。
だから、…………少しずつ、元気になっていこう、
…………みんなで、少しずつ≫」
佐倉 小桃
「うんっ…………うんっ……」
(そして…………その日、乃木坂くんはただ、ひたすらあたしの話を聞いてくれた。
支離滅裂な感情も、言葉も、全て。
…………弥重は死んだ。……殺された。
けど、あたしたちは生きなきゃならない。
明日からは…………これまで通りのあたしに、みんなに戻らなきゃならないんだわ……。
きっとあたしたちが破滅することを弥重は望んでいないから、…………彼女は心が綺麗な子だから…………。
だから…………あたしたちは…………)
**
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