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第二章 切断された首についての考察

切断された首についての考察

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 12月26日。
 午前8時30分。

「犯人は何故烏丸さんの首を切り落としたのでしょうか?」

 食堂での会合がお開きになった後、わたしは再び城ヶ崎の部屋に戻って事件の不可解さについて話し合っていた。

 今回の事件のメインの謎は、何といっても切断された首だ。
 名探偵を集めて推理ゲームをしようというような狂った犯人なのだから、事件を派手に見せようという狙いは当然あっただろう。
 だが、首を切ったことにはそれ以外にも何か重要な意味があると思えてならない。
 何故なら首を切断するという行為は、想像以上に重労働だからだ。

 首を一刀両断するには力は勿論、上手く関節を狙う必要がある。腕のいい処刑人ですら失敗することがあったのだ。

「犯人が被害者の首を切断する理由で、最初に考えられるものは何だ?」
 城ヶ崎がわたしの疑問に対して質問で答える。

「そうですね。最もスタンダードな理由は、死体の身元を分からなくする為でしょう。顔というのは個人を特定する情報の塊のようなものです。死体の身元が分からなければ、事件の捜査は大幅に遅れることになりますから。あとは死体と犯人とのなり替わりですね。首なし死体に自分の服を着せて自分が死んだように見せかければ、犯人として疑われませんし、その後も自由に行動することができます」

 しかし、今回はそのどちらのケースにも当てはまらない。
 切り離された首は部屋の外に見つかり易いように放置してあり、あまつさえその首は生体認証をパスしたのだから、これ以上の首実検くびじっけんはない。

 殺されたのが烏丸詩帆しほ本人であるということに、もはや疑いの余地はないだろう。

「首に残った何らかの痕跡を消す為というのはどうでしょう? 例えば犯人は被害者を扼殺し、被害者の首に残った手の跡を誤魔化そうとして……」

 そこまで言って、わたしはこの推理がはずれであることに気が付いた。
 烏丸の部屋に飛び散った血液の範囲から、烏丸が生きたまま首を切られたことは間違いないだろう。従って、首に扼殺やくさつの跡が残ることは考えられない。

 これではダメだ。
 もっと多角的に考えねば。

「他に首を切断する理由として考えられるのは、誰かが疑われるように仕向ける為でしょうか。今回の事件で言えば、剣の達人である切石さんが真っ先に疑われました」

 切石勇魚犯人説。
 実際に口にしたのは鮫島だけだったが、あの首の切断面を見た瞬間、全員の脳裏に切石の居合いの構えが過ぎった筈だ。

 そして切石は刀を見せることを固く拒んだ。
 わたしは切石の刀が血で赤く濡れているのを想像する。

「だが、その効果が首を切断する手間に見合うとは到底思えないな。確かに素人にあそこまで綺麗に首を切る技術はないだろうが、今この館にいる探偵たちは全員腕に覚えのある武闘派ばかりだ。更に首を切る道具にしても、地下室に行けば誰でも簡単に手に入れることができた。切石だけに疑いを向けさせるにしては、あまりにも稚拙と言わざるを得ない」

「……確かにそうですね」
 わたしは自説の弱さを認めた。

 他にどんな理由があるか暫く考えてみるも、首を切る労力に見合うようなものは思い付かなかった。

「ちなみに先生は首を切断した理由をどのようにお考えですか?」
 わたしは城ケ崎の意見を訊く。

「現段階ではまだ情報が不十分だとしか言えんな。ただ犯人にとって、どうしても首を切断しなくてはならない理由があった筈だ」
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