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第四章 密室についての考察

密室についての考察

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 真鍮しんちゅう製の牛の腹部から注意深く取り出された鮫島の頭部は、首の切断面の他はほぼ無傷だった。
 表情は険しく、殺されたことへの悔しさが滲み出ていた。
 この首を使えば、鮫島の部屋の扉を開けて、詳しく部屋の中を調べることが出来るだろう。

「…………」

 鮫島の死。
 それ自体は然程意外でもない。今朝、鮫島を除く探偵たちの生存を確認した時点で、この結果は予想出来ていたことだ。

 しかし、考えてみればこれは明らかに異常事態だ。
 あり得ないことだ。
 犯人はどうやって部屋に篭っていた鮫島を殺害したのか?
 不破殺しで昨日考えた、扉が閉まるまでの五秒の間に部屋に侵入する方法も、部屋の外で不意打ちした後運び込む方法も、鮫島殺しではどちらも使えない。
 鮫島は部屋に籠ってから、一度も外に出ていないのだから。

「よし、では早速部屋を調べよう」
 切石が鮫島の首を向けると、扉は音もなく開く。わたしたちは次々に鮫島の部屋へと入っていった。

「ひやッ!?」
 部屋の中の空気の冷たさに、わたしは思わず近くにいた切石の陰に隠れる。

「どうやら換気窓が開いているようだな。まさか部屋の中を換気をしていたわけでもなさそうだが……」

 鮫島の首から下も烏丸と不破と同様に、ベッドの上に倒れていた。部屋の壁には大量の血が飛び散った跡が残っている。

 はっきり言って、前の二件の殺人と殆ど同じ状況だ。
 大きく違うのは、換気窓が三センチばかり開いていることくらいだろう。窓の隙間に煙草タバコの箱が挟まっている。僅か三センチの隙間とは言え、冷たい外気がピューピュー吹き込み、外と変わりない寒さだ。

「何故窓が開いているのかも気になるけど、一番厄介な問題は如何にして鮫島に部屋の扉を開けさせたかだよね」
 飯田が顎に手を当てて言う。

「鮫島がこの状況で部屋から出るとは思えないし」

 鮫島が自分から部屋を出るとは確かに考え難い。
 回答権を捨ててまで手に入れたかった安全を、みすみす無駄にするわけがない。
 たとえ出るにしても、最終日の明日まで待つのが普通だろう。

 誰よりも犯人を警戒し、リスクを避けていたのは、間違いなく鮫島なのだから、ここで無理をする意味がない。
 部屋に備え付けてある冷蔵庫の中には四日分程度の食料と飲み水が用意されている。飯田のような異常な食欲でもない限り、充分な量と言えた。

「……一つ疑問なんだけど、シャワーは四日くらい我慢するとしても、トイレはどうしてたのかしら?」
 そんな素朴な疑問を口にしたのは綿貫だ。

「それくらい、飲み終えたボトルの中にでもすればいい。用を足した後はあの小窓から捨てればいいだろう」

「じゃあ大きい方をしたいときはどうするの?」

「……そんなこと、私に訊くなッ!」
 切石が顔を赤らめて、口元を歪めた。

 この部屋で手に入る情報は大体こんなところか。

 そろそろ頃合いだろう。

「さて、突然ですがここでわたしの回答権を使わせて戴きます」
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