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第四章 密室についての考察
死中に活を求める
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そう言うわたしの声は、自分でも驚く程落ち着いていた。
まるで自分の声ではないようだ。
「え!?」
切石、綿貫、飯田が一拍遅れて驚きの声を上げる。
その少し後ろで城ヶ崎が苦虫を噛み潰したような顔でわたしを睨みつけていた。
わたしはそっと城ケ崎から視線を逸らす。
城ヶ崎には悪いが、これがわたしなりのこの事件に対する答えだ。
これがわたしの戦い方なのだ。
「確かに鮫島の死亡が確認された今なら回答は受理されるだろうけど、助手ちゃんは本気で回答権を使う気なの?」
「先に言っておくけど、もう鮫島の使ったような手は通用しなわよ」
飯田と綿貫が交互に牽制してくる。
「ええ、分かっています。むしろ、これから話す内容は皆さんの推理に役立つ情報だと思います。わたしは皆さんにこの事件の犯人を突き止めて欲しいのです」
「……馬鹿な。よすんだ、眉美!」
城ヶ崎が珍しく声を荒げた。
「嫌です」
わたしは城ヶ崎の掴み掛ろうとする手を振り払う。
「ここで回答権を失うことの意味が分からないお前ではないだろう? 犯人ならオレが必ず見つけ出す。だから考え直すんだ」
「……別に先生のことを信用しないわけではありません。けれど、やはりわたしはまだ死にたくない」
「だから、それはオレが必ず……」
「先生はここへ来る前に、自分の身は自分で守れと仰いました。そして死ぬ覚悟ではなく、どんなことをしてでも生き残る意志を持て、と。ならば、わたしは生きて残酷館から出る為に、自分がやれることは全てやっておきたいんです。それで生き残る確率が1%でも上がるのなら、手段は選ばない」
「…………勝手にしろ」
城ヶ崎はそれ以上追い縋《すが》ることをしなかった。
「はい」
口ではああ言ったけれど、実際のところわたしが城ヶ崎を信用しているかについては正直微妙なところだ。
少なくとも、このまま城ヶ崎に命を預けることに抵抗があったことは事実だろう。
加えて、今朝のあの出来事。
わたしを追い出しておいて綿貫を部屋に招き入れていたことに、わたしは少なからず憤りを感じていた。
「前置きが長くなりました。それでは最初に回答した鮫島さんに倣って、まずは犯人の名前を言うことにしましょう」
「待て」
わたしの話を遮ったのは切石だ。
「君が自分の命が助かる為に、我々全員にヒントを出したいということは理解した。だが、わざわざ回答権を使う必要はあるのか? ヒントを言うだけなら回答権を失う必要はないだろう」
「……なるほど」
ここまできたら、とりあえず何であろうとわたしの回答を聞こうと思うのが普通だと思うのだが。
人がいいというか、何というか。
納得出来ないことは放っておけない、切石らしい質問だった。
「ですが、仮にわたしがノーリスクでヒントを話したとして、切石さんはわたしの話を信用しますか? わたしの話した内容は先生の入れ知恵、つまりガセネタであると判断されるでしょう。わたしの話す内容に信憑性を持たせるには、先生にとって不利益な行動をとる必要があるのです。回答はあくまで鈴村眉美の独断であることを、まずは信じて貰わねばなりません」
「……なるほどな。分かった、君の言うことを信じよう」
切石が小さく頷いた。
「そこで犯人なのですが、わたしには正解を言うつもりは毛頭ありません。なので、ここでは絶対に犯人では有り得ない人物の名を挙げることにします。犯人はわたし、鈴村眉美です」
「待った」
今度は綿貫が話の腰を折る。
「助手さんが犯人ではないと言い切る根拠は何?」
「わたしが犯人でないことは、自分が一番良く知っています」
「話にならないね。それはあなたの主観でしょう? 客観的に納得のいく説明がなければ、あなたの話を鵜呑みにすることは出来ないわね」
「…………」
それは当然の疑問だろう。
わたしはチラリと城ヶ崎の顔を盗み見る。
「わたしには確固としたアリバイがあります。烏丸さんが殺された最初の夜、わたしは朝まで先生の部屋にいましたから」
城ヶ崎は目を閉じたままじっと腕組みをしていた。
さて、困った。
この分だと城ケ崎に証言を頼むのは難しそうだ。
城ケ崎を裏切って、勝手に回答権を使っているのだからそれも仕方ない。
このままでは、わたしの話が犯人による狂言だという疑いを持たれかねない。
――拙い。
――どうする?
幾ら頭を捻っても、妙案は浮かんできそうにない。
まるで自分の声ではないようだ。
「え!?」
切石、綿貫、飯田が一拍遅れて驚きの声を上げる。
その少し後ろで城ヶ崎が苦虫を噛み潰したような顔でわたしを睨みつけていた。
わたしはそっと城ケ崎から視線を逸らす。
城ヶ崎には悪いが、これがわたしなりのこの事件に対する答えだ。
これがわたしの戦い方なのだ。
「確かに鮫島の死亡が確認された今なら回答は受理されるだろうけど、助手ちゃんは本気で回答権を使う気なの?」
「先に言っておくけど、もう鮫島の使ったような手は通用しなわよ」
飯田と綿貫が交互に牽制してくる。
「ええ、分かっています。むしろ、これから話す内容は皆さんの推理に役立つ情報だと思います。わたしは皆さんにこの事件の犯人を突き止めて欲しいのです」
「……馬鹿な。よすんだ、眉美!」
城ヶ崎が珍しく声を荒げた。
「嫌です」
わたしは城ヶ崎の掴み掛ろうとする手を振り払う。
「ここで回答権を失うことの意味が分からないお前ではないだろう? 犯人ならオレが必ず見つけ出す。だから考え直すんだ」
「……別に先生のことを信用しないわけではありません。けれど、やはりわたしはまだ死にたくない」
「だから、それはオレが必ず……」
「先生はここへ来る前に、自分の身は自分で守れと仰いました。そして死ぬ覚悟ではなく、どんなことをしてでも生き残る意志を持て、と。ならば、わたしは生きて残酷館から出る為に、自分がやれることは全てやっておきたいんです。それで生き残る確率が1%でも上がるのなら、手段は選ばない」
「…………勝手にしろ」
城ヶ崎はそれ以上追い縋《すが》ることをしなかった。
「はい」
口ではああ言ったけれど、実際のところわたしが城ヶ崎を信用しているかについては正直微妙なところだ。
少なくとも、このまま城ヶ崎に命を預けることに抵抗があったことは事実だろう。
加えて、今朝のあの出来事。
わたしを追い出しておいて綿貫を部屋に招き入れていたことに、わたしは少なからず憤りを感じていた。
「前置きが長くなりました。それでは最初に回答した鮫島さんに倣って、まずは犯人の名前を言うことにしましょう」
「待て」
わたしの話を遮ったのは切石だ。
「君が自分の命が助かる為に、我々全員にヒントを出したいということは理解した。だが、わざわざ回答権を使う必要はあるのか? ヒントを言うだけなら回答権を失う必要はないだろう」
「……なるほど」
ここまできたら、とりあえず何であろうとわたしの回答を聞こうと思うのが普通だと思うのだが。
人がいいというか、何というか。
納得出来ないことは放っておけない、切石らしい質問だった。
「ですが、仮にわたしがノーリスクでヒントを話したとして、切石さんはわたしの話を信用しますか? わたしの話した内容は先生の入れ知恵、つまりガセネタであると判断されるでしょう。わたしの話す内容に信憑性を持たせるには、先生にとって不利益な行動をとる必要があるのです。回答はあくまで鈴村眉美の独断であることを、まずは信じて貰わねばなりません」
「……なるほどな。分かった、君の言うことを信じよう」
切石が小さく頷いた。
「そこで犯人なのですが、わたしには正解を言うつもりは毛頭ありません。なので、ここでは絶対に犯人では有り得ない人物の名を挙げることにします。犯人はわたし、鈴村眉美です」
「待った」
今度は綿貫が話の腰を折る。
「助手さんが犯人ではないと言い切る根拠は何?」
「わたしが犯人でないことは、自分が一番良く知っています」
「話にならないね。それはあなたの主観でしょう? 客観的に納得のいく説明がなければ、あなたの話を鵜呑みにすることは出来ないわね」
「…………」
それは当然の疑問だろう。
わたしはチラリと城ヶ崎の顔を盗み見る。
「わたしには確固としたアリバイがあります。烏丸さんが殺された最初の夜、わたしは朝まで先生の部屋にいましたから」
城ヶ崎は目を閉じたままじっと腕組みをしていた。
さて、困った。
この分だと城ケ崎に証言を頼むのは難しそうだ。
城ケ崎を裏切って、勝手に回答権を使っているのだからそれも仕方ない。
このままでは、わたしの話が犯人による狂言だという疑いを持たれかねない。
――拙い。
――どうする?
幾ら頭を捻っても、妙案は浮かんできそうにない。
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