1 / 208
序章
第1話:白き空間の邂逅
しおりを挟む死んだ、と直感した。
最後に鼓膜を劈いたのは、トラックの激しい金属的なブレーキ音だった。視界は不自然にぐにゃりと歪み、つい先ほどまで足元にあったはずのアスファルトの匂いが、急速に遠ざかっていく。肉体を襲った衝撃はあまりにも一瞬の出来事で、熱さも痛みも、それこそ恐怖を感じる暇さえ僕には与えられなかった。ただ、ぷつりと糸が切れるように、僕の世界はそこで一度、幕を閉じた。
次に目を開けたとき、僕は底も天井も見えない、真っ白な虚無の空間に立ち尽くしていた。
視界の端から端までを埋め尽くす、無機質で圧倒的な白。ここが死後の世界というやつなのだろうか。自分自身の身体を見下ろしても、そこに生々しい傷跡は見当たらない。呆然と立ち尽くす僕の頭上から、静寂を切り裂くようにして、場違いなほど軽薄で高揚した声が降り注いだ。
「やあやあ、災難だったね! 君、本来ならあと60年は生きる天命を授かっていたはずなんだけどさ。あっちの手違い……おっと、不運な事故のせいで、予定よりずいぶん早く死んじゃったわけ。本来の寿命を全うできないまま、中途半端な状態で魂がこっちに来ちゃうなんて、管理側としては計算が狂って本当に困るんだよねぇ」
声の主を探して視線をあちこちへ彷徨わせてみるが、どこまで行っても境界のない白があるばかりで、人影どころか遮るもの一つ見当たらない。ただ、傲慢なまでに四方八方から響き渡るその声が、自分を「神」に近い存在として定義していることだけは、本能的に理解できた。
「このままだと君、『命を全うできなかった罪』として、地獄……とまでは言わないけれど、結構重たいペナルティを受けなきゃいけないんだよね。理不尽に感じる? いやいや、これがこの世界の厳格なルールだからさ。でも、慈悲深い僕から一つだけ、君に特別な提案があるんだよ」
僕の死という重大な事実を語る神の声は、まるでお得なキャンペーンでも紹介するかのような、軽々しい調子だった。
「今、神々の間で『異世界の断罪劇』っていう趣向が流行っててね。凶悪な悪役の魂を転生させて、その無惨な末路を眺めて楽しむ遊びなんだけど、これがまた後の処理が大変でさ。魂を抜き取った後の『空っぽになった身体』をそのまま放置しておくと、世界の理が狂って致命的なバグが起きちゃうんだよね。そこで、君の出番ってわけ!」
神から突きつけられたその提案の内容は、あまりに一方的な「取引」だった。
他人の――それも、かつて一国を滅亡の危機に追い込もうとしたという大悪党の「抜け殻」の中に潜り込み、その天命が尽きるまで身代わりとして生き長らえろという。そうすれば、僕がこの先で受けるはずだった恐ろしい死後の罰を、すべて免除してやるというのだ。
「このまま死んだままの状態で重い罰を受けるか、それとも別人の身体を借りてもう一度だけ人生をやり直すか。……ね、君にとって断る理由なんて、最初からどこにもないでしょ?」
逃げ場なんて、最初から用意されてはいなかった。どこまでも続く虚無の白さに、自分という存在が塗りつぶされて消えてしまいそうな猛烈な恐怖の中、僕はただ、震える声を絞り出して「わかりました」と頷くしかなかった。
103
あなたにおすすめの小説
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
神子の余分
朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。
おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。
途中、長く中断致しましたが、完結できました。最後の部分を修正しております。よければ読み直してみて下さい。
【8話完結】いじめられっ子だった僕が、覚醒したら騎士団長に求愛されました
キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。
けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。
なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」
それが、すべての始まりだった。
あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。
僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。
だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。
過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。
これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。
全8話。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる