虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨

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序章

第1話:白き空間の邂逅

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 神から突きつけられたその提案の内容は、あまりに一方的で、僕に拒否権など最初から存在しないに等しいものだった。 

 他人の――それも、かつて強大な力を振るい、国そのものを滅亡の危機に追い込もうとしたという凶悪な悪役の「抜け殻」に潜り込み、その器の寿命が尽きるまで身代わりとして生き長らえろという。そうすれば、僕が本来受けるはずだった「死後の罰」を免除してやるという、あまりにも歪な取引だった。

「その器の名前はレリル。国一番の天才魔導師だったんだけど、まあ性格が救いようがないほど最悪でさ。傲慢さのあまり国中に敵を作った挙げ句、最後には捕らえられて、一生を塔に閉じ込められたまま魔力を絞り取られ続けるだけの『機械』になるか、あるいはその場で魔力石に加工されて心身を削り取られるか、二つに一つの選択を迫られたんだ。彼は前者の生を選んだけど、魂の復讐心が強すぎて僕らとしても扱いづらいから、中身だけ別の世界に飛ばしちゃったんだよね」

 クスクス、と神経を逆なでするような神の薄笑い声が、何もない白い空間にどこまでも反響する。他人の人生をただの駒か玩具のように扱う、慈悲など微塵も感じられないおぞましい笑みだった。

「やり方は簡単。君はレリルの身体に入って、おとなしく塔の中で魔力を捧げ続けていればいいだけ。塔の結界のせいで一歩も外には出られないけれど、死んで永遠に罰を受け続けるよりは、ずっとマシな生活でしょ? 本来の寿命の残り60年分、そこでしっかり頑張ってよ。あ、僕からの特別サービスで、もしレリルの肉体が寿命を迎えたら、その瞬間に君のノルマは全うしたことにしてあげるからさ。……ね、お得だと思わない?」

 僕には、逃げ場なんてどこにもなかった。神が口にする「罰」という響きに含まれた逃れられない重圧、そして深淵を覗き込むような恐怖。たった今まで、平凡な一人の人間として生きてきた僕に何ができるというのか。僕はただ、震える声を必死に絞り出し、「……わかりました」と力なく頷くしかなかった。

「はい、契約成立! ああ、そうだ。最後に一つだけ言い忘れてたけど。魔力提供のノルマを一度でも破ったり、何か余計なことに魔力を使おうとしたりしたら、その瞬間に即座に死刑――魔石化してもらうから、くれぐれも気をつけてね。それじゃあ、新しい人生を精一杯楽しんで!」

 突き放すような冷たい祝福の言葉が耳に届いた、その瞬間。僕の意識は、底なしの冷たい泥の中へと沈んでいくように、急速に広がる真っ暗な闇へと一気に吸い込まれていった。
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