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第1章
第4話:虚空の晩餐
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どれくらい時間が経っただろう。
芯まで冷え切った石造りの床が、容赦なく体温を奪っていく。その刺すような冷たさに、僕はようやく混濁していた意識を現実へと引き戻した。
肺の奥に溜まった冷たい空気を吐き出すと、喉の奥からせり上がってくるのは、惨めな叫びと嗚咽だ。僕はそれを必死に飲み込み、奥歯を噛み締めて自分に言い聞かせる。
「……とりあえず、お腹が減った」
独り言でも口にしなければ、静寂に押しつぶされそうだった。
死ぬためにここに来たわけじゃない。神に突きつけられた「罰」という名の不条理を回避し、天寿を全うする。そのためだけに、僕は泥を啜ってでも生き延びなければならないんだ。
僕は重い体を震わせながら立ち上がると、入り口に放置されていた麻袋へと手を伸ばした。一ヶ月分の支給品が入っているというそれは、引きずるたびにズシリとした重みが腕に伝わってくる。
一階は、ただ冷たい風が通り抜けるだけのガランとした広間だった。埃の舞う階段を一段ずつ踏みしめ、二階へ上がると、そこには生活の痕跡がわずかに残っていた。小さなキッチンのような設備、使い込まれた簡素な木机、そして火の気の消えた古びた暖炉。
震える手で麻袋の紐を解き、中身を確認する。
そこにあったのは、意外にも「まともな」食料だった。泥がついたままの瑞々しい野菜、叩けば音がしそうなほど硬いが日持ちのしそうなパン、そして鼻を突く独特の匂いをしたチーズの塊。
悪役として追放された身への仕打ちとしては、あまりにも上等すぎる。だが、それこそが皮肉だった。僕の体内に宿る「レリルの魔力」が、この国にとってそれだけ搾取しがいのある資源であることを物語っているのだから。
「火を通せば、少しはマシな食糧になるかな……」
空腹に急かされるように、キッチンの隅にあるコンロを見つけ、僕はそっと手を伸ばした。
前世の記憶は霧の向こうにあるように朧げだが、調理の所作だけは、本能に近い部分が覚えている。コンロの横にある、見慣れたスイッチ。そこへ指をかけ、軽く捻った――その瞬間だった。
「が……ッ!? あ、ぎぃ……っ、あああああ!」
突如、首元を焼火箸で押し当てられたような凄まじい衝撃が走った。
嵌められた鉄の首輪が、まるで飢えた蛇のように脈打ち、収縮する。喉を力任せに締め上げられ、酸素が遮断された。視界にチカチカと火花が散り、僕は床に転がってのたうち回った。
『魔力を、魔石への注入以外に、使ってはいけない』
脳髄に直接響く神の声が、呪文のように何度もリピートされる。
このコンロは、利用者の指先から漏れるわずかな魔力を燃料に発火する仕組みだったのだ。生活のために魔力を使う。そんな些細な行為さえ、僕という存在には許されていない。「処刑器具」としての首輪が、容赦なく規約違反を咎めていた。
「はぁ……っ、はぁ……死ぬかと、思った……」
数分後、ようやく戒めが解けた。
指先を動かすことさえ億劫なほどの脱力感。首には、熱を持った赤黒い痕が醜く残っているだろう。もし今の衝撃で意識を失っていたら、首輪は僕を魔力石へと変えるまで締め付けを止めなかったかもしれない。
僕は震える指で、泥のついたカブのような野菜を一つ掴み取った。
火を使うことは、もうできない。僕は泥を袖で乱暴に拭い、そのままかぶりついた。
冷たくて、不快なほど土の味がした。
火のない生活。魔力という「恵み」を奪われた人間が、この世界でどれほど惨めで、無力な存在か。
カーテンもない暗い部屋の片隅で、僕はただ静かに、岩のように硬いパンを齧った。
こぼれ落ちた涙がパンを湿らせ、塩辛い味を付け加えた。
芯まで冷え切った石造りの床が、容赦なく体温を奪っていく。その刺すような冷たさに、僕はようやく混濁していた意識を現実へと引き戻した。
肺の奥に溜まった冷たい空気を吐き出すと、喉の奥からせり上がってくるのは、惨めな叫びと嗚咽だ。僕はそれを必死に飲み込み、奥歯を噛み締めて自分に言い聞かせる。
「……とりあえず、お腹が減った」
独り言でも口にしなければ、静寂に押しつぶされそうだった。
死ぬためにここに来たわけじゃない。神に突きつけられた「罰」という名の不条理を回避し、天寿を全うする。そのためだけに、僕は泥を啜ってでも生き延びなければならないんだ。
僕は重い体を震わせながら立ち上がると、入り口に放置されていた麻袋へと手を伸ばした。一ヶ月分の支給品が入っているというそれは、引きずるたびにズシリとした重みが腕に伝わってくる。
一階は、ただ冷たい風が通り抜けるだけのガランとした広間だった。埃の舞う階段を一段ずつ踏みしめ、二階へ上がると、そこには生活の痕跡がわずかに残っていた。小さなキッチンのような設備、使い込まれた簡素な木机、そして火の気の消えた古びた暖炉。
震える手で麻袋の紐を解き、中身を確認する。
そこにあったのは、意外にも「まともな」食料だった。泥がついたままの瑞々しい野菜、叩けば音がしそうなほど硬いが日持ちのしそうなパン、そして鼻を突く独特の匂いをしたチーズの塊。
悪役として追放された身への仕打ちとしては、あまりにも上等すぎる。だが、それこそが皮肉だった。僕の体内に宿る「レリルの魔力」が、この国にとってそれだけ搾取しがいのある資源であることを物語っているのだから。
「火を通せば、少しはマシな食糧になるかな……」
空腹に急かされるように、キッチンの隅にあるコンロを見つけ、僕はそっと手を伸ばした。
前世の記憶は霧の向こうにあるように朧げだが、調理の所作だけは、本能に近い部分が覚えている。コンロの横にある、見慣れたスイッチ。そこへ指をかけ、軽く捻った――その瞬間だった。
「が……ッ!? あ、ぎぃ……っ、あああああ!」
突如、首元を焼火箸で押し当てられたような凄まじい衝撃が走った。
嵌められた鉄の首輪が、まるで飢えた蛇のように脈打ち、収縮する。喉を力任せに締め上げられ、酸素が遮断された。視界にチカチカと火花が散り、僕は床に転がってのたうち回った。
『魔力を、魔石への注入以外に、使ってはいけない』
脳髄に直接響く神の声が、呪文のように何度もリピートされる。
このコンロは、利用者の指先から漏れるわずかな魔力を燃料に発火する仕組みだったのだ。生活のために魔力を使う。そんな些細な行為さえ、僕という存在には許されていない。「処刑器具」としての首輪が、容赦なく規約違反を咎めていた。
「はぁ……っ、はぁ……死ぬかと、思った……」
数分後、ようやく戒めが解けた。
指先を動かすことさえ億劫なほどの脱力感。首には、熱を持った赤黒い痕が醜く残っているだろう。もし今の衝撃で意識を失っていたら、首輪は僕を魔力石へと変えるまで締め付けを止めなかったかもしれない。
僕は震える指で、泥のついたカブのような野菜を一つ掴み取った。
火を使うことは、もうできない。僕は泥を袖で乱暴に拭い、そのままかぶりついた。
冷たくて、不快なほど土の味がした。
火のない生活。魔力という「恵み」を奪われた人間が、この世界でどれほど惨めで、無力な存在か。
カーテンもない暗い部屋の片隅で、僕はただ静かに、岩のように硬いパンを齧った。
こぼれ落ちた涙がパンを湿らせ、塩辛い味を付け加えた。
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