虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨

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第1章

第34話:瞳に映る笑み

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 翌日。俺は自ら、厳選した大量の薪と、魔力の一切を介さずに確実な火を熾せる道具、そして火打石やマッチといった、この極北を生き延びるために必須の生活資材を抱えて再び塔へと踏み込んだ。 

 生活のすべてを贅沢な魔法で事足らせてきたはずの、王都の甘やかされた貴族が、不便な暖炉の正しい扱い方など知るはずがないのだ。

 俺は困惑するレリルを暖炉の前に座らせると、まるで初陣を控えた新兵に生き残るための訓練を施すときのような、過剰なまでの厳格さで、薪の効率的な組み方から火の粉の適切な始末まで、一つ一つを徹底的にレクチャーし始めた。

「薪はとりあえず二ヶ月分を下の階に用意させたが、冬の深まりによっては足りなくなることもある。足りなくなる前に、早めに俺へ報告しろ。それから、定期的に窓を開けて換気を怠るな。煙を吸いすぎれば寝ている間に死ぬぞ、いいな? わかっているのか? それと、夜通し無闇に燃やし続けるのは薪の無駄だ。寝る前には……」

 レリルは、俺の吐き出す言葉を一つも漏らさぬように、真剣そのものの眼差しでこちらを見つめ、聞き入っていた。  そのひたむきな姿、そして俺の言葉に頼り切っている危うい様子を見ていると、もっと教えなければ、もっと安全を完璧に確保しなければという義務感に似た思いが、止まることなく溢れ出した。気づけば、俺は自分でも驚くほど饒舌になり、もはや「過保護」と言われても否定できないほど細かく、火の扱いの注意点を並べ立て、語り続けていた。

「……ふふっ」

 その時、止まることのない俺の説教を遮るようにして、レリルが思わずといった様子で、喉の奥から小さく柔らかな笑みを漏らした。 

 俺は、その瞬間、すべての思考と筋肉が凍りついたように言葉を失った。

 向けられたのは、王都で見せていたあの鼻持ちならない嘲笑でもなく、こちらを伺うような卑屈な笑みでもなかった。春の陽光を浴びた残雪のように穏やかで、どこか一点の曇りもない清らかな、心からの笑みだったのだ。 

 そのあまりに純粋な表情を、至近距離でまともに見てしまった瞬間、俺の頭の中は真っ白な灰へと塗りつぶされた。 

 胸の奥がぎゅっと締め付けられるように熱くなり、どうしようもなく、彼の存在そのものに視線を釘付けにされてしまう。

「……? 辺境伯様、どうかしましたか? 私の顔に、何かついていますか?」

 彼が不思議そうに首を小さく傾げたとき、俺はようやく地獄の底から引き戻されるように我に返った。 

 自分が、今まさに、この憎むべき大罪人をあろうことか「綺麗だ」と認め、魂を奪われるように見惚れていたことに気づき、全身の血が激しく逆流するような強烈な羞恥と動揺に陥った。

「……とにかく、今教えた通りにしろ! 俺は多忙だ、すぐに行く!」

 俺は奴の返事も待たず、乱暴に床を蹴って立ち上がった。  なぜか耳のあたりが、直火に炙られているかのように熱くてたまらない。 

 自分がその後、どうやって説明を強引に切り上げ、どのような無様な足取りで屋敷まで馬を飛ばして帰り着いたのか。 

 その後、自室で一人、どれほど自分の制御不能な動揺を呪いながら、冷えた酒を煽って過ごしたのか――。思い出すだけで、自分自身への苛立ちが募るばかりだった。
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