虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨

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第3章

第68話:止まった時計

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 あの日、まるで互いの心を切り裂くような喧嘩別れをしてヨハンが去っていってから、塔を訪れる彼の頻度は目に見えて減り、ついには週に一度ほどまで下がってしまった。

 あんなに当たり前のように繰り返され、僕の孤独を埋めてくれていた「泊まり」は完全に失われ、かつては温かなスープの湯気に包まれていた夕食の時間も、今では公務の進捗を淡々と、事務的な報告として交わすだけの冷ややかで虚無的なものへと成り果てていた。

「……忙しいから。街の外まで魔物が迫っていて、その対応で、本当に大変なんだよね。わかってるよ、ヨハン」

 自分に言い聞かせるように呟き、味のしなくなった一人分の夕食を無理やり喉の奥へ運び込む。けれど、冷え切った部屋に広がる、心臓を直接素手で掴まれるような寂しさだけはどうしても誤魔化せなかった。

 魔石化の提案をしたことが、あんなにも決定的に彼を怒らせ、僕たちの間に修復不能な溝を作ってしまったんだろうか。またあの話を口に出せば、彼は今度こそ愛想を尽かし、二度とこの塔を訪れてくれないかもしれない。
 そう思うと、心臓が恐怖で凍りつき、僕の方からは喉まで出かかった言葉を飲み込むことしかできなくなっていた。

 気まずい沈黙と、壊れそうな均衡を抱えたまま迎えた、5度目の魔力提供の日。

  部屋に満ちる空気は重く、刺すような緊張感に満ちていたけれど、ヨハンは変わらず、僕の細く震える手をその大きな掌でぎゅっと握りしめてくれた。言葉はなくとも伝わってくる、以前と変わらぬ確かな体温と力強さに、僕は自分が情けないほど心の底からホッとしていることに気づく。たとえ、この後に理性を焼き切るほどの激痛が待っていたとしても、彼に触れられている今だけは、僕の世界はまだ繋ぎ止められている。

 逃れられない苦痛と、それ以上に恐ろしい「レリルの記憶」に備え、僕は震える睫毛を伏せ、静かに、深く、意識を闇へと沈めていった。

 あの日、喧嘩別れのようにしてヨハンが去っていってから、塔を訪れる彼の頻度は週に一度ほどまで下がってしまった。

 かつては当たり前だった「泊まり」もなくなり、夕食を共にする時間も、ただ事務的な報告を交わすだけの冷ややかなものに変わった。 

「……忙しいから。魔物の件で、大変なんだよね」 自分にそう言い聞かせて、一人分の夕食を口に運ぶ。でも、胸に広がる寂しさだけはどうしても誤魔化せなかった。

 魔石化の提案をしたことが、そんなに彼を怒らせてしまったんだろうか。 またあの話をすれば、彼は今度こそ二度と来てくれないかもしれない。そう思うと怖くて、僕からは何も言い出せなくなっていた。

 気まずい沈黙を抱えたまま迎えた、5度目の魔力提供の日。 

 会話はなかったけれど、ヨハンは変わらず僕の手をぎゅっと握ってくれた。
 その確かな体温に、僕は心の底からホッとしている自分に気づく。 いつか来る激痛に備え、僕は静かに目を閉じた。
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