虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨

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第3章

第88話:騎士の誓い

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 ヨハンが戻ってくるまでの間、ライルはしばらく、何かを深く悔いるような沈黙を守っていた。けれど、彼が次に口を開いた時、その硬質で氷のように冷たかった声からは、鋭い棘が完全に消え失せていた。

「……レリル。貴様は、なぜそこまで丁寧なのだ。私はこの塔に踏み込んだ瞬間から貴様を侮辱し、騎士としての矜持も忘れ、一方的に剣を向けるような真似さえしたというのに。なぜ、私に微笑みかける?」

「ライルさんは、この領地を……ヨハンを心から守りたいだけですよね。形は違っても、それは、僕が願っていることと同じだから。……だから、貴方のことを嫌いになんてなれません」

 僕がまっすぐにライルの銀色の瞳を見つめ、痛みに耐えながらも穏やかに微笑むと、彼は肺にある空気をすべて吐き出すような深い溜息をついた。そして、重い甲冑の音を鈍く響かせながら、僕の寝台の前で騎士としての最敬礼の姿勢で膝をついた。

「……完敗だ。閣下が何かに魅了されたのではなく、一人の人間として、心底惚れ込まれた理由が……ようやく、理解できた」

 ライルは、初めて僕に対して、主君に向けるものと同等の敬意を込めた眼差しを向けた。 

「すまなかった。私は、貴様という人間を何も見ていなかった。耳に入る歪んだ噂や、自らの浅はかな先入観に、この目が曇らされていたのだ。……ライル・フォン・ベルクの名に賭けて、騎士の誓いを新たにしよう。これからは、貴様を討つべき化け物としてではなく、閣下が命を賭して守るべき、そして私たちが敬うべき大切な一人として扱おう」

「ライル……さん」

 その時、部屋の扉が静かに開き、新しい包帯を手にしたヨハンが戻ってきた。  張り詰めていたはずの空気が、どこか穏やかで温かなものに変わっていることに、ヨハンは驚いたように一瞬足を止めた。だが、膝をつくライルの背中と、僕の表情を見てすべてを察したように、彼は安堵と信頼を込めて、ライルの肩を力強く叩いた。

「……わかってくれたか、ライル」 

「はっ。……己の不明を恥じるばかりです。これからは閣下と共に、レリル殿の盾となりましょう」

 ヨハンとライル。この領地で最も強く、気高い二人の騎士が僕の味方になってくれた。 

 二人から向けられる温かな視線に、僕は胸の奥が熱くなるのを感じていた。暴力と憎悪に晒されたあとの、奇跡のような平穏。この時、僕は本当に……これですべてが良い方向に向かい、いつか街の人たちとも分かり合える日が来るのではないかと希望を持たずにいられなかった。
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