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第3章
第89話:解けゆく誤解
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手当を終えたヨハンと、護衛としての役目を全うすべく部屋の隅に微動だにせず控えるライルさん。 窓から差し込む冬の柔らかな陽光が、荒らされた室内を静かに照らし出していた。塔の中に流れる空気は、僕がこの領地に来て以来、これまでになく穏やかで温かかった。
「ライル、これからの調査はどうなる。領民たちから申し出があった以上、騎士団としての手続きが必要になるだろう」
ヨハンが、治療を終えた僕の指先を優しく包み込んだまま、真剣な面持ちで尋ねる。ライルさんは、騎士らしい無駄のない動作で姿勢を正すと、迷いのない声で答えた。
「はっ。本来であれば、住民の賛成多数によって受理されたこの申し出に基づき、討伐隊から派遣された私がレリル殿の魔力残滓や所持品を検品し、潔白か否かを判断する手順となります。……ですが閣下、その必要はありません。私が直接、今回の騒動の全容を記した公式の調査報告書を書き上げましょう。この者が魔物を操るなど論理的に不可能であり、むしろ暴徒による一方的な被害者であると。このライル・フォン・ベルクが、騎士の誇りと名誉にかけて保証いたします」
「……ありがとう。助かる、ライル。お前の言葉なら、騎士団も領民の代表も無視はできまい」
ヨハンの安堵の混じった言葉に、僕の胸は熱くなり、視界がじんわりと潤んでいくのを感じた。 僕のことを「大魔法使い」や「化け物」ではなく、敬意を込めて「レリル殿」と呼び、盾となって守ると言ってくれる人が、ヨハンの他にもできた。それが、あんなに怖かった騎士のライルさんだということが、何よりも誇らしく、心強かった。
街の人たちの誤解も、いつかきっと解ける。二人と一緒に一歩ずつ頑張れば、いつかあの花が咲く丘の上で、街のみんなと一緒に笑える日が来るかもしれない。そんな、ありふれているけれど僕にとっては奇跡のような希望が、胸の奥で小さく、けれど確かに灯っていた。
「……嬉しいな。僕、今日のこと、一生忘れません。こんなに優しくしてもらえるなんて、思わなかったから……」
僕が掠れた声でそう伝えると、ヨハンは少し照れくさそうに、けれど愛おしさを噛み締めるように僕の手をぎゅっと握り直し、ライルさんは「当然のことをしたまでです」と言わんばかりに、誇らしげに顎を引いて胸を張った。
けれど。
僕たちが、ようやく心を通じ合わせ、微かな光を見出していたその裏で。 主君を「化け物」から救い出すことこそが正義だと信じて疑わない者たちの手によって、事態は僕たちの預かり知らぬところで、最悪の方向へと加速していた。
館の暗い一室では、重苦しい沈黙の中で一本の羽ペンが走っていた。
「領主ヨハン・フォン・ストルムベルクは、大魔法使いの呪いに侵され、正気を失っている。早急なる介入と、元凶である魔法使いの排除を請い願う――」
そんな、僕たちの運命を根底から覆す、残酷な密告状に冷たい蝋の封がなされていた。
「ライル、これからの調査はどうなる。領民たちから申し出があった以上、騎士団としての手続きが必要になるだろう」
ヨハンが、治療を終えた僕の指先を優しく包み込んだまま、真剣な面持ちで尋ねる。ライルさんは、騎士らしい無駄のない動作で姿勢を正すと、迷いのない声で答えた。
「はっ。本来であれば、住民の賛成多数によって受理されたこの申し出に基づき、討伐隊から派遣された私がレリル殿の魔力残滓や所持品を検品し、潔白か否かを判断する手順となります。……ですが閣下、その必要はありません。私が直接、今回の騒動の全容を記した公式の調査報告書を書き上げましょう。この者が魔物を操るなど論理的に不可能であり、むしろ暴徒による一方的な被害者であると。このライル・フォン・ベルクが、騎士の誇りと名誉にかけて保証いたします」
「……ありがとう。助かる、ライル。お前の言葉なら、騎士団も領民の代表も無視はできまい」
ヨハンの安堵の混じった言葉に、僕の胸は熱くなり、視界がじんわりと潤んでいくのを感じた。 僕のことを「大魔法使い」や「化け物」ではなく、敬意を込めて「レリル殿」と呼び、盾となって守ると言ってくれる人が、ヨハンの他にもできた。それが、あんなに怖かった騎士のライルさんだということが、何よりも誇らしく、心強かった。
街の人たちの誤解も、いつかきっと解ける。二人と一緒に一歩ずつ頑張れば、いつかあの花が咲く丘の上で、街のみんなと一緒に笑える日が来るかもしれない。そんな、ありふれているけれど僕にとっては奇跡のような希望が、胸の奥で小さく、けれど確かに灯っていた。
「……嬉しいな。僕、今日のこと、一生忘れません。こんなに優しくしてもらえるなんて、思わなかったから……」
僕が掠れた声でそう伝えると、ヨハンは少し照れくさそうに、けれど愛おしさを噛み締めるように僕の手をぎゅっと握り直し、ライルさんは「当然のことをしたまでです」と言わんばかりに、誇らしげに顎を引いて胸を張った。
けれど。
僕たちが、ようやく心を通じ合わせ、微かな光を見出していたその裏で。 主君を「化け物」から救い出すことこそが正義だと信じて疑わない者たちの手によって、事態は僕たちの預かり知らぬところで、最悪の方向へと加速していた。
館の暗い一室では、重苦しい沈黙の中で一本の羽ペンが走っていた。
「領主ヨハン・フォン・ストルムベルクは、大魔法使いの呪いに侵され、正気を失っている。早急なる介入と、元凶である魔法使いの排除を請い願う――」
そんな、僕たちの運命を根底から覆す、残酷な密告状に冷たい蝋の封がなされていた。
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