虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨

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第4章

第113話:査定

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 師匠の屋敷には、時折、王宮から「査定」という名目で、実力主義を信奉する傲慢な魔導士たちが派遣されてくる。

 その日やってきた男は、その中でも特に性質が悪かった。彼はレリルが秘める、常識を逸脱した強大な魔力を認めながらも、レリルという個人に対しては、道端の石ころを見るような、あるいは使い潰すための安価な消耗品を見るような、隠そうともしない露骨な蔑みをその瞳に宿していた。

「……ひ、っ、あ……や、めて……」

 嫌な予感に駆られ、訓練場の重厚な扉の隙間から中を覗き見ると、そこには魔法陣の中心で惨めに蹲るレリルの姿があった。

 彼の目の前には、宝石の埋め込まれた杖を弄びながら、嗜虐的な嘲笑を浮かべる魔導士が、勝ち誇ったように立っている。

「おい、聞いているのか、レリル! 貴様の代わりなど、その気になればいくらでも替えがきくと言ったはずだ。たかが文字も読めなかった平民のガキを、王宮の予算でここまで育ててやっているのだ。恩義を感じているなら、とっとと次の魔法を放て」

 レリルは恐怖で歯の根も合わないほど指先を震わせ、必死に体内の魔力を練ろうとしていた。けれど、向けられる殺意に近いプレッシャーのせいで術式がどうしても安定せず、空中で霧散していく。

 それを見た魔導士は、待ってましたと言わんばかりに鼻で笑い、魔法で作り出した漆黒の鞭を、無慈悲に振り下ろした。

「あぁっ……!!」

 空気を切り裂く鋭い音が響き、レリルの薄いシャツを裂いて、白い背に鮮血の混じった赤い線が走る。 

 魔導士は、レリルが激痛に悶え、地面を這いずる様子を心底愉しんでいるかのようだった。

 名門の出である彼にとって、平民でありながら自分より遥かに優れた才能を持つレリルは、存在そのものが不快な、憎たらしい「家畜」でしかなかった。

 だからこそ、絶対的な力関係が逆転している今のうちに、徹底的にそのプライドを挫き、なめ腐った態度でその尊厳を蹂躙していたのだ。

 僕は扉を掴む指に白くなるほど力を込めた。今すぐあの男に飛びかかり、レリルを抱きしめて止めたい。

 けれど、一介の候補生に過ぎない僕が、王宮の使いに声を上げたところで、この凄惨な「授業」が止まらないどころか、余計にレリルへの折檻が激しくなることを、僕は痛いほど知っていた。

(僕に、もっと力があれば……。レリルのことを守れるだけの、圧倒的な力があれば……!)

 無力感で爪が掌に食い込み、血が滲む。 
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