虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨

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第4章

第117話:光の証明

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 レリルが暴走事件を起こして以来、大人たちは彼を「触れてはいけない化け物」として遠ざけるようになった。けれど、僕は知っていた。彼が牙を剥くのは、そうしなければ自分を守れないほど、心がボロボロに傷ついているからだ。

(このままじゃ、レリルは本当に壊されてしまう……)

 僕は、自分の家で夜通し魔導書をめくり、新しい魔法理論の構築に没頭した。 大人たちが「破壊の兵器」としか見なさないレリルの膨大な魔力を、何か別の、誰も文句が言えないほど「美しく有益なもの」に変換できれば。そうすれば、彼はもう鞭で打たれることも、暗い部屋に閉じ込められることもなくなるはずだ。

 ある日、僕は試作した魔道具を抱えて、屋敷の隅にあるレリルの部屋を訪ねた。

「やあ、いらっしゃい! どうしたんだい? そんな浮かない顔をして」

 扉を開けた瞬間、僕は精一杯、夏の陽だまりのような笑顔を彼に向けた。 レリルは驚いたように肩を揺らし、それからいつものように顔を背けた。

「……別に。いつも通りだろ。勝手に人の顔を覗き込むな」

 突き放すような冷たい声。けれど、僕には分かった。彼が僕の訪問にどれほど驚き、そして、誰かに「迎えられる」という事実にどれほど救われているのかが。彼の指先が、微かに震えていたから。

「あはは! いつもレリルは顰め面だよな。でも、僕にだけでいいから、もっと色んな表情を見せてよ」

 僕は一歩踏み出し、茶化すように笑った。 「僕はね、君の怒った顔も、不機嫌そうに笑った顔も、たった今そうやって図星を突かれて驚いた顔をしているのも、全部――全部大好きなんだ」

「……っ! 余計なことを言うな。うるさいな、お前は」

 レリルの頬が、林檎のように赤く染まっていく。 僕は、そんな彼の人間らしい反応を見るのが、何よりも嬉しかった。

「あはは、ごめんごめん。……ところで、今日もまた君に協力してもらいたいことがあるんだ」

 僕は抱えていた魔道具――禍々しいほど緻密な術式が刻まれた機械を机に置いた。瞳から悪戯っぽさを消し、真剣な眼差しで彼を見つめる。

「……わかった。何をすればいい」

「ごめんね。また魔力を流す時に、痛い思いをさせることになると思う。けど、これはこの国のためなんだ。君の力は、人を壊すためじゃなく、こんなに役に立つんだぞって……それを、僕が世界中に証明したいんだ」

 僕がやりたかったのは、レリルの魔力を「資源」として安定化させる研究だった。 彼の力が、この国の魔法文明を何十年も先へ進める「光」であることを証明できれば、誰も彼を殺せなくなる。

 レリルは言葉を失い、耳の裏まで真っ赤にしながら俯いた。 その震える手が、僕の差し出した機械に添えられる。 自分が必要とされているという微かな希望を、その指先から感じて、僕は「必ず君を救ってみせる」と心の中で強く誓った。
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