虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨

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第6章

第155話:綻びと確信

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「殿下……それでは、あいつが何をしても、あなたは彼を信じないというのですか」

「信じるか信じないかの二元論で語るな。俺は『事実』を見ていると言っている」

 食い下がるヨハンを、俺は鼻で笑った。

 俺には「正解」を選び続けてきた自負がある。幼少期、甘言を弄して俺に近づこうとした貴族たちの裏側を、俺はその透徹した正義感で見抜いてきた。そしてレリルもまた、俺の目に映る「排除すべき不純物」の一人に過ぎなかった。

「奴が潔白だと言うのなら、すべての罪状に対して反証を揃えてみせろ。そうでなければ、奴は永遠に『疑惑の魔導士』だ」

「殿下、あなたはあいつの『過去』に縛られすぎている! 今のレリルと会って話せばわかるはずだ。あいつはもう、かつての傲慢な問題児ではないんです!」

「会えばわかる、だと?」

 俺は冷淡な言葉を重ね、ヨハンの言葉を軽くあしらった。

「ヨハン、お前の言う『変化』ほど当てにならないものはない。人間、そう簡単に根底が変わるはずがない。俺の知るレリルは、他人を見下し、禁忌に手を染め、その才能を私欲のために浪費する男だ。……お前が見たのは、奴が保身のために用意した新しい『演技』に過ぎない」

 俺の鉄壁の論理に、ヨハンは言葉を詰まらせた。この男は、自分が間違っているという可能性すら「リスク管理」として処理している。神に守られるように一度も間違いを犯さずにきた男の傲慢さが、これほどまでに強固な壁となって立ちはだかるとは。

「お前も同罪だぞ、ヨハン。もしこれが奴の計略であれば、お前は王家を欺いた大逆罪で処刑されることになる。その覚悟はあるのか」

 俺は最後通牒を突きつけた。情に絆され、国家の安全を脅かす駒となった臣下を切り捨てるのは、統治者として至極当然の判断だ。

「……ええ。あいつを信じた俺に悔いはありません。たとえ、この首が飛ぶことになっても。殿下、どうか、どうか一度だけでいい。……今の彼を見てやってください」

 泥にまみれたヨハンが、床に膝をつき、必死に頭を垂れる。 

 自己保身という概念が、この男には一片も残っていない。俺の周囲にいた大人たちが、地位が危うくなればすぐに他者を切り捨てたのに対し、この男は、レリルという不確かな存在のために命を差し出している。

(……なぜだ。なぜそこまで、自らの破滅を顧みずにあのような男を肯定できる。俺の計算にはない、この非合理な熱量は一体何なのだ……)

 俺の完璧な理論の中に、ヨハンの自己犠牲という「不条理な変数」が入り込み、わずかに思考が乱れた、その時だった。

 バサリ、と開け放たれた窓から力強い羽音が室内に響き渡った。
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