虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨

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第6章

第158話:対峙

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 深夜の謁見の間。月明かりが差し込む広間に、僕の荒い呼吸だけが響いていた。

 正面に立つ王太子レオナルドは、かつて僕――いや、この体の主であった「レリル」を断罪した時と同じ、冷徹なまでの気高さを纏っていた。幼い頃から一度も選択を間違えず、常に天命に導かれて「正解」を選んできたという揺るぎない自負が、その全身から威圧感となって放たれている。

「……顔を上げろ、レリル」

 その声に、僕は心臓が跳ね上がるのを感じた。逃げ出したい。でも、背中にはヨハンがいて、頭上には「彼」が見ている。僕は震える膝を突き、精一杯の「演技」を込めて声を張り上げた。

「……前魔導士長レリル、王太子殿下の御呼び出しに従い、ただいま参上いたしました」

 かつての彼なら、きっともっと傲慢に、優雅に言い放っただろう。僕の言葉には、どうしても隠しきれない震えが混じってしまう。

 レオナルドの眉間に、深い皺が寄った。彼は壇上から一歩降り、射抜くような眼差しで僕を見下ろす。

「……何だ、その様は。かつて俺に断罪された時、貴様は不敵に笑い、自らの罪すら誇るかのような傲慢さを崩さなかったはずだ」

 レオナルドが一歩、壇上から降りてくる。拍車の音が、僕の心臓を直接踏みつけるように響いた。

「それが今さら、毒を抜かれた小動物のように震えて見せるとは。……ヨハンの同情を誘うための新しい演技か? それとも、哀れみを乞うことで俺の判断を鈍らせる計算か」

「あ……、い、いえ……」

 僕は声を絞り出すのが精一杯だった。首に嵌められた魔力封じの首輪が、冷たく肌を締め付ける。

 本物のレリルなら、きっとこの威圧感にも動じず、不敵に笑い返しただろう。でも、中身がただの「器」の少年にすぎない僕には、この状況はあまりに恐ろしすぎた。

「ヨハンの報告書で、お前の罪の一部が冤罪だったことは理解した。だが、たった一つだ。……一つが嘘だったからといって、残りの悪行まで消えるわけではない。むしろ、その『一点の潔白』を盾にして、今の無様な姿を演じ、俺に『間違っていた』と思い込ませようとしているのではないか?」

 レオナルドの言葉は、どこまでも論理的で、そして残酷だった。彼は自分の目が曇っている可能性よりも、僕が彼を「騙している可能性」を優先して計算している。周囲の大人の汚い打算を見てきた彼にとって、今の僕の怯えさえも「用意された演出」に見えているのだ。

「お前は、この俺の正義を、そんな小細工で揺るがせると本気で思っているのか?」

 一歩、また一歩とレオナルドが近づく。その度に、僕の背後で控えているヨハンの温もりが遠くなるような錯覚に陥る。
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