虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨

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第6章

第157話:再会

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 ルクシオの研究所に、不自然なほどの静寂が満ちていた。

 僕は、あの鴉からの「次は、お前の番だ」という言葉を反芻していた。……僕は「本物」じゃない。魔力だって、この首輪に封じられたままだ。僕にできるのは、いつか来る「その時」のために、せめて心だけが折れないように整えておくことくらいだった。

 ドォン、と重厚な石の扉が外側から叩きつけられるように開く。

「魔導士長ルクシオ、ならびに大罪人レリル! 王太子殿下の命により、身柄を拘束する!」

 響き渡る無機質な声と、抜剣の音。現れたのは、整然と隊列を組んだ近衛兵たちだった。自分を追放し、不幸のどん底に叩き落としたあの王太子の兵。その銀色に輝く鎧を見るだけで、当時の恐怖がフラッシュバックし、足がすくみそうになる。 

 この身体が覚えている「恐怖」が、僕の思考を真っ白に染め上げていく。

「……っ」

 兵たちが一斉に僕を囲み、鋭い槍の先を向けてくる。逃げ場なんてどこにもない。乱暴に僕の腕を掴もうとしたその時。

「控えろ! 殿下からは『身柄の連行』とだけ伺っているはずだ!」

 凛とした声が割って入り、僕の前に一人の男が滑り込んできた。

「ヨハン……!」

 そこには、泥に汚れ、疲弊しながらも、揺るぎない眼差しをしたヨハンが立っていた。彼は僕を背中で庇うように立ち、近衛兵の腕を強引に跳ね除ける。

 さらに、そのヨハンの肩には漆黒の羽を休めた鴉が止まっていた。本物の魂を宿したその黄金の瞳が、僕に「逃げるなよ」と告げているように見えた。

「ヨハン様……どうしてここに……」

「……待たせたな、レリル。大丈夫だ、この書簡を見ろ。殿下は再調査を認められた。今はお前に疑いの目を向けておられるが、俺がお前を、一人になどさせない」

 ヨハンは僕の震える肩をそっと抱き寄せ、近衛兵たちを鋭く睨み据えた。その手の力強さが、僕の心臓の震えを必死に抑えてくれる。

「この者は俺が責任を持って王城へ連れて行く。乱暴な真似は一切許さん。……行こう、レリル。あいつに――王太子殿下に、お前の魂を見せてやるんだ」

 ヨハンの手の温もりが、恐怖で凍りついていた僕の心を溶かしていく。

 怖い。王城へ戻れば、またあの冷たい目で、存在そのものを否定されるような言葉で断罪されるかもしれない。僕は本物のレリルじゃない。ただの「器」にすぎない僕に、あの完璧な王太子と対峙するなんて、そんなことができるんだろうか。

 けれど、隣にはヨハンがいて、頭上には『本物のレリル』である鴉が導いている。僕がここで怯えて退けば、本物の彼が大胆な賭けで手繰り寄せた、ハッピーエンドへのわずかな可能性――物語を完結させるための道筋が、すべて途絶えてしまう

 僕は震える拳を握りしめ、小さく頷いた。

「……はい。行きます」

 ヨハンの守護に抱かれながら、僕はかつてレリルを捨て、すべてを奪わせた王城へと続く暗い階段を上り始めた。
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