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第6章
第163話:正解の崩壊
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鞘に収まった剣が、鉛のように重い。
セレスティアの手の温もりが俺の右手に触れているが、それは慈悲というより、俺の「傲慢」を縛る枷のように感じられた。
(……認めなければならないというのか。この俺が、間違っていたと?)
俺が「悪」だと断じたから、レリルは悪であったはずだ。俺が追放したから、その判決は正義であったはずだ。俺がそう決めることで、この国の秩序は保たれてきた。もし俺の判断が揺らげば、俺がこれまで裁いてきたすべての過去が、ただの「王太子の気まぐれな虐殺」に成り下がってしまう。
俺は、自分が神でないことを認めるのが、これほどまでに恐ろしいとは思わなかった。
「レリル……」
絞り出した声は、自分でも驚くほど惨めに響いた。
目の前で震える少年を直視する。俺はこれまで、こいつを「人間」として見たことは一度もなかった。俺の正義という天秤に乗せるための「重り」としてしか扱ってこなかった。
だが、今、目の前で必死に訴えているその顔は、俺のどんな高度な論理でも「偽物」と切り捨てることができないほど、純粋な色をしていた。俺の計算式には存在しない、生身の魂の熱。
「……お前の言う通りだ。俺は、お前を見ていなかった。……いや、見たくなかったのだな。お前を『悪』という箱に閉じ込めておかなければ、俺の正しさが維持できないからだ」
一度認め始めると、自分の中のプライドがドロドロと溶け落ち、その下から醜い「自分勝手な正義」が露わになっていくのを感じた。俺が信奉していた神の導きとは、自分の都合の良いように世界を解釈する、ただの病的なまでの傲慢さの別名だったのではないか。
「お前が『悲しい』と言ったのは……俺が、俺自身のプライドを守るために、お前という一人の人間を、都合の良い『生け贄』に仕立て上げたからか」
俺は、自分の震える右手を見つめた。
この手は、国を守るための高潔な手だったはずだ。それが今では、無実の子供を理不尽に踏み潰した、血塗られた権力者の手にしか見えない。守ろうとしていた「完璧な王太子」という虚像が、足元の影から這い上がってきた真実に飲み込まれていく。
完膚なきまでの敗北感。
俺が守りたかったのは国家の安寧などではなく、ただ「一度も間違えたことのない自分」という、傲慢な偶像だったのだ。その偶像を維持するために、どれほどの声を黙殺し、どれほどの涙を「演技」だと切り捨ててきたのだろうか。
俺は、足元から崩れ落ちそうな感覚を必死に堪えながら、初めて、自分を軽蔑するような眼差しで、己の「正義」を見つめ直していた。
セレスティアの手の温もりが俺の右手に触れているが、それは慈悲というより、俺の「傲慢」を縛る枷のように感じられた。
(……認めなければならないというのか。この俺が、間違っていたと?)
俺が「悪」だと断じたから、レリルは悪であったはずだ。俺が追放したから、その判決は正義であったはずだ。俺がそう決めることで、この国の秩序は保たれてきた。もし俺の判断が揺らげば、俺がこれまで裁いてきたすべての過去が、ただの「王太子の気まぐれな虐殺」に成り下がってしまう。
俺は、自分が神でないことを認めるのが、これほどまでに恐ろしいとは思わなかった。
「レリル……」
絞り出した声は、自分でも驚くほど惨めに響いた。
目の前で震える少年を直視する。俺はこれまで、こいつを「人間」として見たことは一度もなかった。俺の正義という天秤に乗せるための「重り」としてしか扱ってこなかった。
だが、今、目の前で必死に訴えているその顔は、俺のどんな高度な論理でも「偽物」と切り捨てることができないほど、純粋な色をしていた。俺の計算式には存在しない、生身の魂の熱。
「……お前の言う通りだ。俺は、お前を見ていなかった。……いや、見たくなかったのだな。お前を『悪』という箱に閉じ込めておかなければ、俺の正しさが維持できないからだ」
一度認め始めると、自分の中のプライドがドロドロと溶け落ち、その下から醜い「自分勝手な正義」が露わになっていくのを感じた。俺が信奉していた神の導きとは、自分の都合の良いように世界を解釈する、ただの病的なまでの傲慢さの別名だったのではないか。
「お前が『悲しい』と言ったのは……俺が、俺自身のプライドを守るために、お前という一人の人間を、都合の良い『生け贄』に仕立て上げたからか」
俺は、自分の震える右手を見つめた。
この手は、国を守るための高潔な手だったはずだ。それが今では、無実の子供を理不尽に踏み潰した、血塗られた権力者の手にしか見えない。守ろうとしていた「完璧な王太子」という虚像が、足元の影から這い上がってきた真実に飲み込まれていく。
完膚なきまでの敗北感。
俺が守りたかったのは国家の安寧などではなく、ただ「一度も間違えたことのない自分」という、傲慢な偶像だったのだ。その偶像を維持するために、どれほどの声を黙殺し、どれほどの涙を「演技」だと切り捨ててきたのだろうか。
俺は、足元から崩れ落ちそうな感覚を必死に堪えながら、初めて、自分を軽蔑するような眼差しで、己の「正義」を見つめ直していた。
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