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第6章
第164話:撤回
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謁見の間の静寂は、もはや恐怖によるものではなく、一人の男が「正解」という鎧を脱ぎ捨てたことによる、厳粛な静けさへと変わっていた。
「……兵を退け」
俺の短い命令に、近衛兵たちが困惑しながらも槍を収める。俺は壇上から降り、レリルの数歩前で立ち止まった。
「魔導士レリル。今この場をもって、お前に対する一切の罪状を白紙に戻す。お前に着せられた汚職、そしてその他の悪行についても、俺が責任を持って真犯人を洗い出し、白日の下に晒すことを誓おう」
俺の言葉に、レリルが小さく息を呑む。 公式に無実が証明される――それは彼が、辺境への追放という刑罰からも、あの忌々しい魔石への魔力供給という終わりのない重労働からも、完全に解放されることを意味していた。
「お前は自由だ。……そこで、俺からの償いをさせてほしい。お前さえ良ければ、再び王都に住まいを構えてもらいたい。魔導の研究に必要な施設も、地位も、以前以上のものを用意しよう。……不遇を強いた分、俺にその責任を取らせてくれ」
それが、俺が提示できる最良の「正解」だと思っていた。王都の利便性、魔導士としての名誉、それらを望まない者などいないはずだと。かつての傲慢な彼であれば、真っ先に飛びついたであろう条件だ。
だが、レリルは静かに、しかし断固とした意志を持って首を振った。
「……いいえ。ありがとうございます、レオナルド様。ですが、僕は王都には残りません。ストルムベルク領に戻らせてください」
「……何だと? なぜだ」
俺は耳を疑った。
「あそこは魔法の研究もままならぬ僻地だ。お前を密告するのに賛成した領民も多いと聞く。そんな場所に、なぜ自ら戻ろうとする?」
蔑まれ、忌避された地。彼にとって屈辱の象徴であるはずの場所に執着する理由が、俺には理解できなかった。 俺が問いを重ねようとしたその時、ずっと沈黙を守っていた聖女セレスティアが、震える声を紡ぎ出した。
「……当然ですわ。彼が王都に執着しないのは。……そして、研究を望まないのも」
セレスティアは幽霊でも見るかのような眼差しで、レリルと、その肩に乗る一羽の鴉を凝視していた。その瞳には、今まで俺が見落としていた「根源的な違和感」への答えが宿っている。
「……あなたはレリルさんじゃないですよね? そして、そこにいる鴉……。あなたこそが、私たちがあの日、悪と断じて追放してしまった『レリル』なのでしょう?」
聖女の確信に満ちた震え声が、広間の空気を一変させた。
俺の視線が、目の前の少年の「空虚なほどに澄んだ魔力」から、その肩に止まる鴉の「不敵で禍々しいほどに力強い魂」へと移る。
思考が、音を立てて繋がっていく。
なぜこれほどまでに人格が乖離しているのか。なぜあの鴉は王太子の俺を嘲笑い、正義の矛盾を突きつけることができたのか。
『ふん、流石は聖女様だな。その通りだ』
鴉が低く、愉悦を孕んだ声で笑った。その黄金の瞳が、かつての宿敵そのものの光を放ち、俺を射抜いた。
「……兵を退け」
俺の短い命令に、近衛兵たちが困惑しながらも槍を収める。俺は壇上から降り、レリルの数歩前で立ち止まった。
「魔導士レリル。今この場をもって、お前に対する一切の罪状を白紙に戻す。お前に着せられた汚職、そしてその他の悪行についても、俺が責任を持って真犯人を洗い出し、白日の下に晒すことを誓おう」
俺の言葉に、レリルが小さく息を呑む。 公式に無実が証明される――それは彼が、辺境への追放という刑罰からも、あの忌々しい魔石への魔力供給という終わりのない重労働からも、完全に解放されることを意味していた。
「お前は自由だ。……そこで、俺からの償いをさせてほしい。お前さえ良ければ、再び王都に住まいを構えてもらいたい。魔導の研究に必要な施設も、地位も、以前以上のものを用意しよう。……不遇を強いた分、俺にその責任を取らせてくれ」
それが、俺が提示できる最良の「正解」だと思っていた。王都の利便性、魔導士としての名誉、それらを望まない者などいないはずだと。かつての傲慢な彼であれば、真っ先に飛びついたであろう条件だ。
だが、レリルは静かに、しかし断固とした意志を持って首を振った。
「……いいえ。ありがとうございます、レオナルド様。ですが、僕は王都には残りません。ストルムベルク領に戻らせてください」
「……何だと? なぜだ」
俺は耳を疑った。
「あそこは魔法の研究もままならぬ僻地だ。お前を密告するのに賛成した領民も多いと聞く。そんな場所に、なぜ自ら戻ろうとする?」
蔑まれ、忌避された地。彼にとって屈辱の象徴であるはずの場所に執着する理由が、俺には理解できなかった。 俺が問いを重ねようとしたその時、ずっと沈黙を守っていた聖女セレスティアが、震える声を紡ぎ出した。
「……当然ですわ。彼が王都に執着しないのは。……そして、研究を望まないのも」
セレスティアは幽霊でも見るかのような眼差しで、レリルと、その肩に乗る一羽の鴉を凝視していた。その瞳には、今まで俺が見落としていた「根源的な違和感」への答えが宿っている。
「……あなたはレリルさんじゃないですよね? そして、そこにいる鴉……。あなたこそが、私たちがあの日、悪と断じて追放してしまった『レリル』なのでしょう?」
聖女の確信に満ちた震え声が、広間の空気を一変させた。
俺の視線が、目の前の少年の「空虚なほどに澄んだ魔力」から、その肩に止まる鴉の「不敵で禍々しいほどに力強い魂」へと移る。
思考が、音を立てて繋がっていく。
なぜこれほどまでに人格が乖離しているのか。なぜあの鴉は王太子の俺を嘲笑い、正義の矛盾を突きつけることができたのか。
『ふん、流石は聖女様だな。その通りだ』
鴉が低く、愉悦を孕んだ声で笑った。その黄金の瞳が、かつての宿敵そのものの光を放ち、俺を射抜いた。
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