虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨

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第6章

第168話:報せ

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 王都を離れ、ストルムベルク領へと急ぐ街道。揺れる馬車の中を支配していたのは、安堵とは程遠い、重苦しい沈黙だった。

 その静寂を、窓枠に止まった鴉の乾いた声が切り裂く。

『……おい。改めて、神から借りた権能について説明しておいてやる。よく聞け』

 その言葉に、同乗していた者たちが一斉に顔を上げた。僕も、本物の彼が何を語るのか、固唾を呑んで見守る。

『俺がこの鴉の姿を借り、さらには神の力を振るって魂を一時的に入れ替えることができる期限は……二十四時間だ。その刻が過ぎれば、俺の魂はこの世界から完全に去ることになる』

「……二十四時間、?」

 ルクシオが、絞り出すような声で漏らした。その表情は、今にも崩れ落ちそうなほど悲痛に歪んでいる。親友とようやく再会し、言葉を交わせるようになった矢先に突きつけられた、残酷なタイムリミット。二十四時間後には、もうこの鴉の声すら聞けなくなるのだ。

「……僕も、ストルムベルク領に行く。自分でやったことの後始末くらい、自分でやらなければならないからな」

 ルクシオの言葉には、魔導士長としての責任以上に、友を二度と失いたくないという痛切な願いが込められていた。自らの絶望が生んだ魔物の群れ。それを自分の手で払い、少しでも長く友の側にいたいという切実な願い。

 鴉はそんなルクシオの様子に気づきながらも、わざと鼻で笑うような声を上げた。

『ふん、柄にもないことを。俺がいなくなってから、魔導の研究をサボったりしていなかっただろうな? せいぜい、最後にお前の成長ぶりを見せてみろ』

 あえて不敵な冗談を言う本物のレリル。それが彼なりの、親友への不器用な手向けであることを、その場にいる全員が察していた。僕にはわかる。彼も本当は、この世界を去るのが惜しいはずなのだ。

 その時、街道の先から激しい馬蹄の音が近づき、馬が急停車した。

「アイルか!」

 そこには息を切らし、埃にまみれた騎士アイルが立っていた。ストルムベルク領から王都へ向かう途中で、一行と行き合ったのだ。

「レリル様! ヨハン様も……! ご無事で、何よりです!」

 アイルは主君たちの無事を確認して一瞬だけ安堵を見せたが、すぐにその顔を険しく引き締めた。

「ですが、喜んでいる暇はありません。現在、ストルムベルク領が刻一刻を争う事態となっています! 出現した魔物の勢いが想定を超えており、今にも街を襲いそうな勢いです!」

 その言葉に、車内の空気が一変した。

 ルクシオの瞳に鋭い魔導士の光が宿り、ヨハンは静かに剣の柄を握りしめる。鴉もまた、黄金の瞳をさらに細めた。

「……急ごう」

 ヨハンのその一言を合図に、一行は迷いを振り切り、戦火の待つ地へと馬を走らせた。僕の身体を借りて「本物のレリル」が戦う時が、刻一刻と近づいていた。
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