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第1章:黄金の契約、深紅の契約
第1話:黄金の約束
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燦々と降り注ぐ午後の陽光が、公爵邸の広大な庭園を黄金色に染めていた。
色とりどりの薔薇が咲き誇るその場所では、王国の名だたる貴族たちが集い、華やかな茶会が催されている。
だが、八歳のリアム・エヴァンスにとって、そこは華やかな社交の場などではなく、息の詰まるような品評会でしかなかった。
「リアム、背筋を伸ばしなさい。公爵閣下のご子息がお選びになるのだ。粗相があれば、エヴァンス家の終わりだと思いなさい」
後ろから突き刺さる父子爵の低い声に、リアムは小さな肩をびくりと震わせた。
今日この場に集められたのは、公爵家の次男・カイルの「婚約者候補」となる同年代の子どもたちだ。公爵家は将来の跡取り問題の火種を消すため、あえて次男であるカイルを、男を伴侶とする婚姻によって継承権から遠ざけようとしていた。
選ばれることは、名誉であると同時に、政治的な駒になることを意味する。
リアムは伏せ目がちに、自分の磨き上げられた靴の先を見つめていた。自分のような、三男坊でこれといった取り柄もない、臆病な子どもが選ばれるはずがない。そう願う反面、父の期待を裏切った後の折檻を想像して、足の震えが止まらなくなる。
その時、芝生を踏みしめる確かな足音が近づいてきた。
「……顔を上げろ」
凛とした、それでいてどこか少年のあどけなさが残る声。
リアムが恐る恐る顔を上げると、そこには抜けるような青空の色をした瞳があった。
カイル・ヴァン・ロードス。
公爵家の誇りを感じさせる見事な金髪と、意志の強そうな瞳。わずか十歳にして、彼は周囲を圧倒するような王者の風格を纏っていた。
カイルの鋭い視線が、並み居る候補者たちを一人ずつ射抜いていく。媚びるような笑みを浮かべる者、緊張で顔を強張らせる者。カイルはその誰にも興味を示さなかったが、最後、列の端にいたリアムの前で足を止めた。
リアムはあまりの威圧感に、思わず後退りしそうになる。
「お前、名前は?」
「り、リアム……リアム・エヴァンスです……」
消え入りそうな声で答えると、カイルはじっとリアムを見つめた。
リアムの指先は、恐怖と緊張で小刻みに震えている。それを見たカイルは、ふっと口角を上げた。
「震えているな。俺が怖いか?」
「あ……その、ごめんなさい……」
謝りながら目を伏せようとしたリアムの手を、カイルの温かく、力強い掌が不意に包み込んだ。
「謝るな。臆病なくらいが、誠実でいい」
カイルはそのまま、背後の大人たちを振り返り、迷いのない声で告げた。
「父上。俺は、この子がいい。リアムを俺の伴侶にする」
静まり返る庭園。父子爵の歓喜に満ちた息遣いが後ろから聞こえてくる。
何が起きたのか分からず呆然とするリアムに対し、カイルは繋いだ手にぐっと力を込め、彼だけに聞こえるような小さな声で囁いた。
「安心しろ、リアム。俺を選んだことを、後悔はさせない。お前は俺が一生守ってやる」
それが、後に地獄へと変わる、黄金色の約束だった。
この時のリアムはまだ知らない。この手があたたかければあたたかいほど、失う時の絶望がどれほど深いものになるのかを。
色とりどりの薔薇が咲き誇るその場所では、王国の名だたる貴族たちが集い、華やかな茶会が催されている。
だが、八歳のリアム・エヴァンスにとって、そこは華やかな社交の場などではなく、息の詰まるような品評会でしかなかった。
「リアム、背筋を伸ばしなさい。公爵閣下のご子息がお選びになるのだ。粗相があれば、エヴァンス家の終わりだと思いなさい」
後ろから突き刺さる父子爵の低い声に、リアムは小さな肩をびくりと震わせた。
今日この場に集められたのは、公爵家の次男・カイルの「婚約者候補」となる同年代の子どもたちだ。公爵家は将来の跡取り問題の火種を消すため、あえて次男であるカイルを、男を伴侶とする婚姻によって継承権から遠ざけようとしていた。
選ばれることは、名誉であると同時に、政治的な駒になることを意味する。
リアムは伏せ目がちに、自分の磨き上げられた靴の先を見つめていた。自分のような、三男坊でこれといった取り柄もない、臆病な子どもが選ばれるはずがない。そう願う反面、父の期待を裏切った後の折檻を想像して、足の震えが止まらなくなる。
その時、芝生を踏みしめる確かな足音が近づいてきた。
「……顔を上げろ」
凛とした、それでいてどこか少年のあどけなさが残る声。
リアムが恐る恐る顔を上げると、そこには抜けるような青空の色をした瞳があった。
カイル・ヴァン・ロードス。
公爵家の誇りを感じさせる見事な金髪と、意志の強そうな瞳。わずか十歳にして、彼は周囲を圧倒するような王者の風格を纏っていた。
カイルの鋭い視線が、並み居る候補者たちを一人ずつ射抜いていく。媚びるような笑みを浮かべる者、緊張で顔を強張らせる者。カイルはその誰にも興味を示さなかったが、最後、列の端にいたリアムの前で足を止めた。
リアムはあまりの威圧感に、思わず後退りしそうになる。
「お前、名前は?」
「り、リアム……リアム・エヴァンスです……」
消え入りそうな声で答えると、カイルはじっとリアムを見つめた。
リアムの指先は、恐怖と緊張で小刻みに震えている。それを見たカイルは、ふっと口角を上げた。
「震えているな。俺が怖いか?」
「あ……その、ごめんなさい……」
謝りながら目を伏せようとしたリアムの手を、カイルの温かく、力強い掌が不意に包み込んだ。
「謝るな。臆病なくらいが、誠実でいい」
カイルはそのまま、背後の大人たちを振り返り、迷いのない声で告げた。
「父上。俺は、この子がいい。リアムを俺の伴侶にする」
静まり返る庭園。父子爵の歓喜に満ちた息遣いが後ろから聞こえてくる。
何が起きたのか分からず呆然とするリアムに対し、カイルは繋いだ手にぐっと力を込め、彼だけに聞こえるような小さな声で囁いた。
「安心しろ、リアム。俺を選んだことを、後悔はさせない。お前は俺が一生守ってやる」
それが、後に地獄へと変わる、黄金色の約束だった。
この時のリアムはまだ知らない。この手があたたかければあたたかいほど、失う時の絶望がどれほど深いものになるのかを。
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