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第1章:黄金の契約、深紅の契約
第13話:仕組まれた凶行
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悪魔の愉悦は、リアムの名声を汚すだけでは止まらなかった。
彼が狙ったのは、カイルの「リアムへの信頼」そのものを、根本から腐らせて破壊することだった。
ある日の午後。カイルの書斎に、公爵家の警備責任者と、顔色の悪い一人の使用人が駆け込んできた。彼らの手には、一瓶の小瓶と、リアムの筆跡で書かれた「ある手紙」が握られていた。
「次男様……信じがたいことですが、リアム様の自室からこれが見つかりました」
差し出されたのは、カイルにかけられていた呪いと酷似した成分を持つ、特殊な遅効性の毒薬。そして、リアムの実家であるエヴァンス伯爵家宛に書かれた、書きかけの手紙だった。
『――カイルの呪いが消えません。このままいけば、公爵家の資産の一部を我が家へ移す計画は滞りなく進むでしょう。彼が目覚めたのは計算外でしたが、もう一度、眠らせる準備はできています。』
(違う……! 僕、そんな手紙書いてない! ヴォルガス、お前、いつの間に……!)
精神の檻の中で、リアムは絶望に身を震わせた。悪魔はリアムが眠っている(あるいは意識が沈んでいる)隙に、彼の完璧な筆跡を真似て、あまりにも残酷な証拠を捏造していたのだ。
そこへ、ヴォルガスに操られたリアムの肉体が、何も知らないふりをして優雅に現れた。
「あら、皆様お揃いで。何か、僕に御用ですか?」
「……リアム。これは、お前の字だな」
カイルの声は、聞いたこともないほど低く、そして震えていた。机の上に叩きつけられた手紙を、リアム(悪魔)は一瞥すると、驚くどころか、あからさまに「失敗した」と言わんばかりの冷ややかな笑みを浮かべた。
「おやおや。隠しておいたつもりでしたが……見つかってしまいましたか。やはり、プロの暗殺者に頼むべきでしたね。素人の細工では、詰めが甘かったようだ」
「……お前が、俺に毒を? 俺を、殺そうとしたのか? あの、名もなき丘で誓った言葉も……あのブレスレットを贈った時の涙も……すべて、芝居だったというのか!」
カイルが激昂し、リアムの肩を強く掴んで揺さぶった。その目には、裏切りの痛みと、信じがたい事実を拒絶しようとする狂気が混じり合っている。
「芝居? ええ、最高の舞台だったでしょう? 貧乏貴族の僕が公爵家で生き残るには、貴方の『愛』という名の盾が必要だっただけです。でも、病弱な盾なんて、もう重荷なだけなんですよ」
(嘘だ、嘘だ!! カイル様、僕を見て! 僕は君を助けるために、悪魔に全部あげたんだ! 君を殺すなんて、そんなこと……!)
リアムの魂は内側で血を流しながら叫ぶが、その声はカイルには届かない。
カイルが見ているのは、自分を嘲笑い、暗殺の失敗を惜しむ、氷のように冷たい瞳をした「リアム」だけだ。
「……もういい。お前の顔など、見たくもない」
カイルは力なくリアムを突き放すと、崩れ落ちるように椅子に座り、顔を覆った。
「エヴァンス家の者全員を拘束しろ。そして……リアムを、地下牢へ。……婚約は、今この瞬間をもって破棄する」
カイルの口から放たれた言葉は、リアムにとって死の宣告よりも残酷だった。
「ふふ、地下牢ですか。あんなに愛してると言っていたのに、冷たいものですね、カイル様」
ヴォルガスは最後までリアムの顔で残酷に微笑み、兵士たちに連行されていった。
独り残された書斎で、カイルの嗚咽が漏れる。
悪魔の思惑通り、二人の愛は「殺意」と「裏切り」という最悪の劇薬によって、二度と元には戻らない形へと粉砕されたのだ。
彼が狙ったのは、カイルの「リアムへの信頼」そのものを、根本から腐らせて破壊することだった。
ある日の午後。カイルの書斎に、公爵家の警備責任者と、顔色の悪い一人の使用人が駆け込んできた。彼らの手には、一瓶の小瓶と、リアムの筆跡で書かれた「ある手紙」が握られていた。
「次男様……信じがたいことですが、リアム様の自室からこれが見つかりました」
差し出されたのは、カイルにかけられていた呪いと酷似した成分を持つ、特殊な遅効性の毒薬。そして、リアムの実家であるエヴァンス伯爵家宛に書かれた、書きかけの手紙だった。
『――カイルの呪いが消えません。このままいけば、公爵家の資産の一部を我が家へ移す計画は滞りなく進むでしょう。彼が目覚めたのは計算外でしたが、もう一度、眠らせる準備はできています。』
(違う……! 僕、そんな手紙書いてない! ヴォルガス、お前、いつの間に……!)
精神の檻の中で、リアムは絶望に身を震わせた。悪魔はリアムが眠っている(あるいは意識が沈んでいる)隙に、彼の完璧な筆跡を真似て、あまりにも残酷な証拠を捏造していたのだ。
そこへ、ヴォルガスに操られたリアムの肉体が、何も知らないふりをして優雅に現れた。
「あら、皆様お揃いで。何か、僕に御用ですか?」
「……リアム。これは、お前の字だな」
カイルの声は、聞いたこともないほど低く、そして震えていた。机の上に叩きつけられた手紙を、リアム(悪魔)は一瞥すると、驚くどころか、あからさまに「失敗した」と言わんばかりの冷ややかな笑みを浮かべた。
「おやおや。隠しておいたつもりでしたが……見つかってしまいましたか。やはり、プロの暗殺者に頼むべきでしたね。素人の細工では、詰めが甘かったようだ」
「……お前が、俺に毒を? 俺を、殺そうとしたのか? あの、名もなき丘で誓った言葉も……あのブレスレットを贈った時の涙も……すべて、芝居だったというのか!」
カイルが激昂し、リアムの肩を強く掴んで揺さぶった。その目には、裏切りの痛みと、信じがたい事実を拒絶しようとする狂気が混じり合っている。
「芝居? ええ、最高の舞台だったでしょう? 貧乏貴族の僕が公爵家で生き残るには、貴方の『愛』という名の盾が必要だっただけです。でも、病弱な盾なんて、もう重荷なだけなんですよ」
(嘘だ、嘘だ!! カイル様、僕を見て! 僕は君を助けるために、悪魔に全部あげたんだ! 君を殺すなんて、そんなこと……!)
リアムの魂は内側で血を流しながら叫ぶが、その声はカイルには届かない。
カイルが見ているのは、自分を嘲笑い、暗殺の失敗を惜しむ、氷のように冷たい瞳をした「リアム」だけだ。
「……もういい。お前の顔など、見たくもない」
カイルは力なくリアムを突き放すと、崩れ落ちるように椅子に座り、顔を覆った。
「エヴァンス家の者全員を拘束しろ。そして……リアムを、地下牢へ。……婚約は、今この瞬間をもって破棄する」
カイルの口から放たれた言葉は、リアムにとって死の宣告よりも残酷だった。
「ふふ、地下牢ですか。あんなに愛してると言っていたのに、冷たいものですね、カイル様」
ヴォルガスは最後までリアムの顔で残酷に微笑み、兵士たちに連行されていった。
独り残された書斎で、カイルの嗚咽が漏れる。
悪魔の思惑通り、二人の愛は「殺意」と「裏切り」という最悪の劇薬によって、二度と元には戻らない形へと粉砕されたのだ。
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