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第1章:黄金の契約、深紅の契約
第12話:虚飾の夜
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カイルが全快し、公爵邸の誰もが「奇跡の生還」を祝っていた。だが、その影でリアムの「評判」は、凄まじい勢いで泥沼へと沈み始めていた。
夜も深まる頃、王都の外れにある、貴族たちが人目を忍んで集まる酒場に、リアムの姿があった。
エヴァンス子爵家が厳格に育て、清廉潔白で有名だったあのリアムが、胸元を大きくはだけ、毒々しいほどに鮮やかな赤い酒を煽っている。
「――ふふ、公爵邸の空気は重苦しくてかなわない。あの病み上がりの男の、湿っぽいため息を聞かされる僕の身にもなってほしいよ」
(やめろ……。誰か、誰でもいい、僕を止めて!)
内側の檻の中で、リアムは血を吐く思いで叫んでいた。だが、ヴォルガスに支配されたリアムの肉体は、周囲に集まる遊び人たちに甘い流し目を送り、彼らの差し出す下卑た杯を次々と飲み干していく。
「おや、リアム様。あの『黄金の獅子』をそんな風に言うなんて。あの方は貴方に首ったけだという噂ですが?」
「首ったけ? ああ、確かに重たいほどの愛(じゅ)を注いでくれますよ。でも、愛なんてお腹は膨らまないでしょう? 死にかかっている間は、公爵家の財産がいつ僕のものになるか、そればかりが楽しみだったのに……。本当に、しぶとい男です」
ヴォルガスが僕の声でそう吐き捨てるたび、周囲からは下品な笑い声が上がった。
かつてカイルと「名もなき丘」で将来を誓い合った、あの純粋なリアムはもうどこにもいない。今ここにいるのは、病み上がりの婚約者を嘲笑い、男たちに媚びを売る、放蕩者の皮を被った悪魔だった。
数刻後。
ぐでんぐでんに酔い痴れた(ように見せかけた)状態で、リアムはカイルの待つ公爵邸へと帰宅した。
玄関ホールでは、まだ体調が万全ではないカイルが、心配そうに椅子に腰掛けて待っていた。
「……リアム。こんな時間までどこへ……。酷い匂いだ、酒を飲んだのか?」
カイルが駆け寄り、ふらつくリアムの肩を支えようとする。かつてなら、リアムはその温かな腕に幸せそうに身を委ねていただろう。
だが、ヴォルガスはカイルの手を汚いものを見るような目で振り払った。
「触らないでください。……ああ、またその『心配している僕』の顔ですか。正直、見飽きました。貴方はいつも僕を縛り付けることしか考えない」
「リアム……お前、本当にどうしちまったんだ。まるで別人だ……」
「別人? いいえ、これが本性ですよ。……カイル様、貴方は僕を救った英雄のつもりでしょうけれど。僕にとっては、僕の自由を奪った『檻』でしかないんです。貴方が寝台で苦しんでいる時、僕はどれほどせいせいしたことか……」
ヴォルガスはそう言い残し、立ち尽くすカイルを嘲笑うようにして自室へと消えた。
(カイル様、違う……! それは僕じゃない! 僕は貴方のそばにいたくて、そのためなら死んでもいいと思っていたのに……!)
檻の中で泣き叫ぶリアムの叫びは、誰にも届かない。
ヴォルガスは自室の鏡に向かうと、リアムの顔で、醜悪に口角を吊り上げた。
「くく……最高だ。信頼が失望に変わり、愛が疑念に蝕まれていく。あの男の魂が、少しずつ腐っていく匂いがするぞ、リアム」
悪魔は、リアムの指先で自らの腹部に刻まれた『契約の血痕』をなぞった。
それは契約から数日経った今も、どくどくと不気味な熱を持って、リアムの魂を支配し続けていた。
夜も深まる頃、王都の外れにある、貴族たちが人目を忍んで集まる酒場に、リアムの姿があった。
エヴァンス子爵家が厳格に育て、清廉潔白で有名だったあのリアムが、胸元を大きくはだけ、毒々しいほどに鮮やかな赤い酒を煽っている。
「――ふふ、公爵邸の空気は重苦しくてかなわない。あの病み上がりの男の、湿っぽいため息を聞かされる僕の身にもなってほしいよ」
(やめろ……。誰か、誰でもいい、僕を止めて!)
内側の檻の中で、リアムは血を吐く思いで叫んでいた。だが、ヴォルガスに支配されたリアムの肉体は、周囲に集まる遊び人たちに甘い流し目を送り、彼らの差し出す下卑た杯を次々と飲み干していく。
「おや、リアム様。あの『黄金の獅子』をそんな風に言うなんて。あの方は貴方に首ったけだという噂ですが?」
「首ったけ? ああ、確かに重たいほどの愛(じゅ)を注いでくれますよ。でも、愛なんてお腹は膨らまないでしょう? 死にかかっている間は、公爵家の財産がいつ僕のものになるか、そればかりが楽しみだったのに……。本当に、しぶとい男です」
ヴォルガスが僕の声でそう吐き捨てるたび、周囲からは下品な笑い声が上がった。
かつてカイルと「名もなき丘」で将来を誓い合った、あの純粋なリアムはもうどこにもいない。今ここにいるのは、病み上がりの婚約者を嘲笑い、男たちに媚びを売る、放蕩者の皮を被った悪魔だった。
数刻後。
ぐでんぐでんに酔い痴れた(ように見せかけた)状態で、リアムはカイルの待つ公爵邸へと帰宅した。
玄関ホールでは、まだ体調が万全ではないカイルが、心配そうに椅子に腰掛けて待っていた。
「……リアム。こんな時間までどこへ……。酷い匂いだ、酒を飲んだのか?」
カイルが駆け寄り、ふらつくリアムの肩を支えようとする。かつてなら、リアムはその温かな腕に幸せそうに身を委ねていただろう。
だが、ヴォルガスはカイルの手を汚いものを見るような目で振り払った。
「触らないでください。……ああ、またその『心配している僕』の顔ですか。正直、見飽きました。貴方はいつも僕を縛り付けることしか考えない」
「リアム……お前、本当にどうしちまったんだ。まるで別人だ……」
「別人? いいえ、これが本性ですよ。……カイル様、貴方は僕を救った英雄のつもりでしょうけれど。僕にとっては、僕の自由を奪った『檻』でしかないんです。貴方が寝台で苦しんでいる時、僕はどれほどせいせいしたことか……」
ヴォルガスはそう言い残し、立ち尽くすカイルを嘲笑うようにして自室へと消えた。
(カイル様、違う……! それは僕じゃない! 僕は貴方のそばにいたくて、そのためなら死んでもいいと思っていたのに……!)
檻の中で泣き叫ぶリアムの叫びは、誰にも届かない。
ヴォルガスは自室の鏡に向かうと、リアムの顔で、醜悪に口角を吊り上げた。
「くく……最高だ。信頼が失望に変わり、愛が疑念に蝕まれていく。あの男の魂が、少しずつ腐っていく匂いがするぞ、リアム」
悪魔は、リアムの指先で自らの腹部に刻まれた『契約の血痕』をなぞった。
それは契約から数日経った今も、どくどくと不気味な熱を持って、リアムの魂を支配し続けていた。
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