クロノスの子供達

ミネアとメイ

ゴーフルは新しいドレスの裾を気にしながら歩いていた。
バニラがそれを見てクスクス笑うので、余計に気になって仕方がない様子だ。
「お似合いですよ」
二人にほめられるが、女児の可愛いドレスが似合うと言われても嬉しい訳がない。
それに、この言葉はドレスから見えそうになっているファンシーなキリンの布オムツが似合うと言われているようにも思える。
やっと自分のあんよで歩き始めたばかりの幼児そのものに見えるだろう。
長い廊下を抜けると食堂にたどりついた。
「アーシャちゃん、お腹すいたでしょ？ 」
 たしかに、今日はほとんど何も口にしていないゴーフルは大きくうなずいた。
「すぐに支度をするから、この椅子に座ってね」
ゴーフルは、バニラに持ち上げてもらいながら子供用の背の高い椅子に座った。
この椅子は幼児が誤って落ちてしまわないように、ガードがついており足を２つの穴に通すことで固定するようになっていた。
つまり、ゴーフルは誰かに持ち上げてもらわなければ自分で椅子から降りる事はできない状況だ。
「そうそう、紹介するわね。彼女が乳母のミネア。そして、この子は娘のメイよ」
食卓には、すでにミネアと呼ばれた女性が座っており。
その胸には、一歳くらいの女の子が抱かれていた。
「ミネア、この子がさっき言っていたアーシャよ」
「はじめまして、アーシャ様。わたくしはメイ様のお世話をしているミネアと言います。何か困った事があれば遠慮なさらずに話しかけてくださいね」
「さぁ、堅苦しい挨拶はやめてご飯にしましょう」
テーブルの上には白身魚のソテーやひよこ豆のサラダなどが並べられている。
しかし、ゴーフルの目の前には子どもっぽいプラスチックの容器が並んでいた。
「大人の味付けはあなたには合わないと思って特別に用意させたのよ」
バニラが言うように子供の舌は大人の舌と違って刺激や苦味に敏感に反応する。
それに、魚の骨や大きな具材も噛みきれなくて敬遠される。
その結果、ゴーフルの皿には白いドロッとした薄味のおかゆに白身魚のほぐし身を入れたものが用意された。
また、飲み物も取手がついたやや幼さなすぎる食器となっていた。
「あ、ありがとうございます」
これからは、ゴーフルを辱しめる為に用意された訳ではなくバニラのホスピタリティーの表れであった。