クロノスの子供達

ちょっとした勘違い

「また来るわね」
「じゃあね、アーシャ」
2人が立ち去るのと入れ替えに看護士が部屋に入ってくる。
「アーシャちゃん、おかえりなさい」
「えーと、ヘスティアさんでしたよね」
「ええ、また会えたわね」
ゴーフルは、以前にこの看護士に会った事を思い出していた。
「ヘスティアさんは、どこまで知っているんですか？」
「しーっ」
ヘスティアは指を一本唇の前にたてる。
たぶん、盗聴を警戒しているのだろう。
「私はあなたのお世話をするためにここに居るのよ」
「……」
「大丈夫よ、何も怖がる事はないわ」
その表情はとても穏やかなものだった。
「早く一人で歩けるようにリハビリを頑張りましょうね」
「はい、よろしくお願いします」
「ウフフ、そんなにかしこまらなくてもいいのよ。アーシャちゃんは、まだ一人ではたっち出来ない赤ちゃんなんだから」
「……赤ちゃんじゃありません」
むきになって、ゴーフルは抗議する。
「焦らなくていいのよ。一人でおトイレにいけるようになったら、すぐにお姉ちゃんパンツになれますからね」
ヘスティアは、ゴーフルをさらに辱しめる。
「目が覚めたから、一人でいけますよ」
「本当にそうかしら？」
その言葉を聞いて、ゴーフルは少しだけ不安を覚えた。
何日も眠っていたとはいえ、身体に違和感はなかった。
手足をバタバタと動かしてみて、それほど筋肉が衰えている感覚もない。
その様子をみてヘスティアがクスクスと笑う。
「アーシャちゃん、そうじゃないのよ」
「え？どういうことですか？」
「たしかに、アーシャちゃんならすぐに立って歩くことぐらいはできるかもしれないわ」
含みのある言い方が気になるが、その真意は掴めなかった。
「まぁ、実際に体験してみればわかるわね」
ヘスティアはそう言って、ゴーフルの体温や脈などを簡単に計測する。
「それじゃあ、何かあったらこのナースコールで私を呼んでね」
「分かりました」
ゴーフルは、やっと一人になれることに少し安堵した。
「それじゃ、また後で」
ヘスティアはそのまま、部屋を出ていってしまった。