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コーヒーとミルク
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研究所が閉鎖され、アルフレッドはアイルランドに異動する事になった。
妻のマリッサと息子になったゴーフルも一緒に新居に引っ越す予定だ。
「さぁ、荷物はこれで全部かな」
もともと、兄妹が住んでいたのは研究所が提供する家族寮だった。
「マリッサ、本当にこの服を着るの?」
「そうよ、大丈夫。似合っているわ」
黄色とオレンジを基調とした子供らしいデザインの服に身を包んだゴーフルは不服そうな表情をしていた。
「ネグリジェじゃ、外を歩けないでしょ」
「まぁ、そうだけど……」
何がそんなに嫌かというと、半ズボンのお尻の所に大きな熊のイラストがあしらわれているのだ。
ただでさえ、オムツでぷっくりと膨らんだ下腹部をしているのに、そんなデザインがあったのでは視線を集めてしまう。
それに、熊の耳がついたフードもあまりにも幼い印象を与える。
「いいんじゃないか、可愛いよゴーフル」
アルフレッドも同意する。
「送る荷物は全部終わったよ、マリッサ少し休憩しようか」
「ええ、コーヒーをいれるわね」
「アルフレッドは確かミルクなしで、砂糖ありだったかしら」
「うん、それで」
自分の知らない所で、2人は何度も会っていたのだろう。
「僕はいつも通り、ブラックで」
反射的にゴーフルも答えた。
テーブルや椅子が高すぎて、いつものように座る事ができない。
「兄さん、どうしたの?ああ、ごめんなさい。あんよが届かないのね」
マリッサがわざとらしく声を出す。
アルフレッドが軽々しくゴーフルの身体を持ち上げて、自分の膝の上にのせる。
「ちょっと、止めてよ」
「これで大丈夫?新居ににはちゃんと専用の椅子を用意するよ」
4歳児にとっては、この高さでも恐怖である。
「はい、アルの分。兄さんのは、火傷するといけないから少し氷を入れてあるわ」
「ありがとう」
「う、うん」
プラスチックのコップにブラックのコーヒーが入っていた。
ゴーフルは一口飲もうとして、思わず顔をしかめる。
「うぐ、苦くて飲めない」
子供の舌は苦味や刺激に弱いので、大人のときのゴーフルの感覚とは全く異なっていた。
「やっぱりお子ちゃまには、コーヒーは早かったわね。ホットミルクを作ってあげましょう」
昔、ゴーフルもマリッサの為によくホットミルクを作ってあげていた。
「ふぅ、なんとか引っ越しも無事に終わりそうだ」
アルフレッドが言う。
「アル、僕も少し位なら貯金があるから、何かの足しにしてほしい」
経済的にも、社会的にもアルフレッドに助けてもらっていることをゴーフルは後ろめたく思っていた。
「いや、俺が好きでやっていることだ。それにこんな機会でもなければ俺もマリッサにプロポーズできなかったかもしれない」
「アルフレッド……」
「同じだよ」
「同じ?」
「そう、マリッサも今の君と同じように思っていた。ただ守ってもらう存在でいたくない。もっと自分を頼って欲しい」
「そんな事を考えていたのか」
「私だって、いつまでも子供じゃないわ。自分の事は自分でやれる」
マリッサが言葉をつなぐ。
「すまない。僕は何も気づいてあげられなかった」
ゴーフルは俯いてそう言った。
「さぁ、そんな暗い顔しないの。可愛い顔が台無しよ。今の兄さんは、逆に自分の事すら何も出来ない小さな子供に戻ったんだから」
マリッサの言葉はゴーフルの胸を突いた。
「確かに、こんな身体じゃ。1人で椅子から降りるのも難しいよ」
「甘いホットミルクよ。熱いから気をつけて飲むのよ?」
マリッサが言う。
「あぁ、ちゃんと両手で持たないと溢してしまうよ」
アルフレッドも、小さな子供に言うように囁く。
たしかに、苦いコーヒーよりも、今のゴーフルにはこの甘ったるいミルクの方が合っているようだった。
本当の幼い子供のように、口の周りに牛乳がついている。
マリッサは、それを丁寧に拭ってやるのだった。
妻のマリッサと息子になったゴーフルも一緒に新居に引っ越す予定だ。
「さぁ、荷物はこれで全部かな」
もともと、兄妹が住んでいたのは研究所が提供する家族寮だった。
「マリッサ、本当にこの服を着るの?」
「そうよ、大丈夫。似合っているわ」
黄色とオレンジを基調とした子供らしいデザインの服に身を包んだゴーフルは不服そうな表情をしていた。
「ネグリジェじゃ、外を歩けないでしょ」
「まぁ、そうだけど……」
何がそんなに嫌かというと、半ズボンのお尻の所に大きな熊のイラストがあしらわれているのだ。
ただでさえ、オムツでぷっくりと膨らんだ下腹部をしているのに、そんなデザインがあったのでは視線を集めてしまう。
それに、熊の耳がついたフードもあまりにも幼い印象を与える。
「いいんじゃないか、可愛いよゴーフル」
アルフレッドも同意する。
「送る荷物は全部終わったよ、マリッサ少し休憩しようか」
「ええ、コーヒーをいれるわね」
「アルフレッドは確かミルクなしで、砂糖ありだったかしら」
「うん、それで」
自分の知らない所で、2人は何度も会っていたのだろう。
「僕はいつも通り、ブラックで」
反射的にゴーフルも答えた。
テーブルや椅子が高すぎて、いつものように座る事ができない。
「兄さん、どうしたの?ああ、ごめんなさい。あんよが届かないのね」
マリッサがわざとらしく声を出す。
アルフレッドが軽々しくゴーフルの身体を持ち上げて、自分の膝の上にのせる。
「ちょっと、止めてよ」
「これで大丈夫?新居ににはちゃんと専用の椅子を用意するよ」
4歳児にとっては、この高さでも恐怖である。
「はい、アルの分。兄さんのは、火傷するといけないから少し氷を入れてあるわ」
「ありがとう」
「う、うん」
プラスチックのコップにブラックのコーヒーが入っていた。
ゴーフルは一口飲もうとして、思わず顔をしかめる。
「うぐ、苦くて飲めない」
子供の舌は苦味や刺激に弱いので、大人のときのゴーフルの感覚とは全く異なっていた。
「やっぱりお子ちゃまには、コーヒーは早かったわね。ホットミルクを作ってあげましょう」
昔、ゴーフルもマリッサの為によくホットミルクを作ってあげていた。
「ふぅ、なんとか引っ越しも無事に終わりそうだ」
アルフレッドが言う。
「アル、僕も少し位なら貯金があるから、何かの足しにしてほしい」
経済的にも、社会的にもアルフレッドに助けてもらっていることをゴーフルは後ろめたく思っていた。
「いや、俺が好きでやっていることだ。それにこんな機会でもなければ俺もマリッサにプロポーズできなかったかもしれない」
「アルフレッド……」
「同じだよ」
「同じ?」
「そう、マリッサも今の君と同じように思っていた。ただ守ってもらう存在でいたくない。もっと自分を頼って欲しい」
「そんな事を考えていたのか」
「私だって、いつまでも子供じゃないわ。自分の事は自分でやれる」
マリッサが言葉をつなぐ。
「すまない。僕は何も気づいてあげられなかった」
ゴーフルは俯いてそう言った。
「さぁ、そんな暗い顔しないの。可愛い顔が台無しよ。今の兄さんは、逆に自分の事すら何も出来ない小さな子供に戻ったんだから」
マリッサの言葉はゴーフルの胸を突いた。
「確かに、こんな身体じゃ。1人で椅子から降りるのも難しいよ」
「甘いホットミルクよ。熱いから気をつけて飲むのよ?」
マリッサが言う。
「あぁ、ちゃんと両手で持たないと溢してしまうよ」
アルフレッドも、小さな子供に言うように囁く。
たしかに、苦いコーヒーよりも、今のゴーフルにはこの甘ったるいミルクの方が合っているようだった。
本当の幼い子供のように、口の周りに牛乳がついている。
マリッサは、それを丁寧に拭ってやるのだった。
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