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10 良い遺伝子

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土曜日、蜃気は公園のベンチに座っていた。
ガシャン  うぃーん
この区域では比較的珍しい工事の音がしていた。


「ああ、ここで田中が誘拐されたんだよな……」

ため息をついたとき、後ろに気配を感じた。
「お前はいい遺伝子を持っていそうだな」


「誰だっ!お前は!!」



「しーーっ!」
それは田中を誘拐した男だった。


「田中……田中はどこだ。どうなってるんだ!!」



「まあまあ」


「何をしに来たんだ!」

「ちょっとこれを食べて欲しいと思って来たんだ」


男がポケットから出したのはガラス瓶だった。


「それは……?」



「ちょっときついかもね」

瓶の中に見たこともないような虫が入っている。男は瓶から虫を取り出し、蜃気の口に押し込んだ。



「ううう!何をする!!」


男はじゃあ、といって公園を去って行った。




「オエッ」

得体のしれない虫を飲み込んでしまった。
思わず気持ち悪くなったが、吐くことはなかった。


「一体何だったんだよ。」


あれから毎日田中の事を思い出して公園に来ていた。どこからか田中が現れるんじゃ無いかと思って、いても立ってもいられなくなったからだ。

でも今日でそれはやめる事にした。



あの男が現れて来るとは。危険でしか無い。
いや、そもそも、思い出してみればあそこは何故か立入禁止の公園だった。公園の近所のおじさんが注意をしていたけど、数年前に死んでからは俺と俺の友達の貸し切り状態だったっけ。



実際、あのおじさんが立入禁止って言ってただけみたいだけど。でも、入らないほうがいいって大人は口を揃えて言ってたな。




俺はもうこの事件にはもう関わらない。




蜃気はそう心に決めて、帰り道を歩いていく。





「あ、ここで工事してたのか。」



建物が本当に工事をしていたのをこうやってじっくり見るのは始めてだな。と目を輝かせる。
「え?」

鉄柱が落ちている。


上を見ると、
鉄柱はどんどん近づいてきていた。




鉄柱が落ちている。


じゃない












俺の頭上に落ちて来ているんだ。





















バッコーン





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