暴力的な幼馴染が執着してきますが今更元の関係には戻りません~必要ないと言われたから自立したんです。元に戻るくらいなら死んだ方がましです~

ギルマン

文字の大きさ
9 / 15

好転

しおりを挟む
 暫らくして、マリーベルと、もらい泣きを始めてしまったレミの様子がおさまってから、4人は今後のことについての話し合いを始めた。

「どうする? 面倒だから、さっさとどっか他に行っちゃう?」
 レミがそう言った。

「いや、それは止めた方がいい」
 マイラはその意見に反対だった。
「今私達がこの街を去ると、逃げたことになって噂を肯定したようになってしまう。それは拙い。
 プライドとかの問題じゃあない。一時とはいえここまで広まった悪評が事実と思われて固定すると、思いもよらないところで悪影響を受けるかもしれない。
 ここは、せめてもう少し噂が下火になるまで踏ん張るべきだ」

 エイシアもマイラの意見に賛成だった。
「そうですね。それに、それほど長く噂は続かないと思います。
 気にする人が調べ始めれば、根拠がないということは直ぐに分かるんですから」

「ですが、あの男は根拠の捏造くらいするかも知れません」
 マリーベルがそう意見を述べる。
「それを予防して、更に今の噂に対処する為にも、皆さんに紹介状を書いてくれたという貴族の方と接触を図ることは出来ないでしょうか?
 紹介状を書いた相手がここまで悪し様に言われることは、その貴族の方の対面を傷つけることにもなります。
 面倒だと思われて切り捨てられてしまう可能性もありますが、私達は直接噂をまいている者達を把握しているんですから、その者たちが貴族の方の悪評につながることをしていると告げれば、その者達を罰するように動いてくれるのではないでしょうか」

「そうだな。あの方はこのくらいのことで私達切り捨てないだろう。その方向で動いてみよう。
 それから当面の活動は妖魔狩りだな。
 妖魔を退治すれば日銭稼ぎにはなるし、4人での戦闘訓練にも最適だろう。
 まあさすがに王都の近くで妖魔を見つけるのは難しいだろうが、探すだけは探してみよう」
 マイラがそう当面の活動方針を述べた。

 マリーベルがもうひとつ自分が考えていることを告げた。
「それと、今まで確証がなかったので言わないでいたんですが、ひょっとすると私は精霊の声を聞くことが出来るのかも知れません。
 今も確証はないんですが、可能性だけでも言っておくべきだと思うのでお伝えします。
 もっとも、私はマナが極端に少ないと言われているので、精霊の声を聞いても結局は魔法を使えないかも知れませんが……」

「そうか。それはすごいな。マリーベルは今もままでも十分力になってくれるが、出来ることが増えるにこしたことはない。声が聞こえるだけでも大したことだよ。
 まあ、精霊魔法は感覚的なところが多くて、他人から教わるのも難しいと聞いた事がある。焦らず、様子を見ていこう。
 いずれにしても、早速あの方と連絡を取ってみる。
 それから、マリーベルの冒険者登録のやり直しだな。前の店との調整も必要だが、あの店主の様子なら面倒なことは言わないだろう。それから、妖魔狩りの算段も始めよう」
 マイラがそう告げて、残る3人が次々と同意の言葉を口にした。

 こうして、新たに4人組みの女冒険者となったマリーベル達の活動が始まった。



 その後、状況は好転する様子を見せ始めた。
 マイラが言ったとおり、彼女達に紹介状を渡していた貴族は彼女達を見捨てるつもりはなく、むしろ酷く立腹していた。
 マリーベル達から事情を聞いたその貴族は、噂を流している者達を捕らえるように動いた。
 具体的には、何か嘘であることを証明できる噂を流していた者をとにかく1人でも捕まえて、嘘の情報を流して世を惑わせた罪で訴えてしまうことにした。

 そして、貴族の手の者がヘンリーの取り巻き達の動向を探り、早々に1人の男を捕らえた。
 その男が流していたのはマイラたちが闇の神々を信仰している、という噂だった。
 これに対して、光明神の神殿がエイシアは間違いなく光明神の神官にして神聖術師であり、闇の神を信仰しているなど事実無根だと表明し、男の罪を確定させた。

 男はヘンリーに頼まれてやったと証言し、これによってヘンリーも官憲に呼び出されることになる。
 だが、ヘンリーは男に依頼した事実などない、男が勝手にやったことで自分は関係ないと言い切った。
 結局ヘンリーは証拠不十分で罪に問われることはなかった。

 このような結果になったのは、マリーベルの献策の結果だった。
 彼女はこの一件だけでは、ヘンリーを罪に問うだけの証拠を集めるのは難しいと判断し、無理に罪に問おうとするよりも、ヘンリーが実行犯の男を見捨てて自分だけ助かったという事実を、さっさと確定させてしまおうとしたのだ。
 そうすれば、噂を流している他の者達に冷や水を浴びせかけることが出来るだろう。

 マリーベルのこの予想はあたった。いざとなれば、自分達は簡単に見捨てられるということを目の当たりにしたヘンリーの取り巻き達は、ほとんど一斉に噂を振りまくのを止めた。
 そして、ヘンリーの周りから去って行った。
 それでも、又聞きの噂を流してしまう者などもいたので、マイラたちの悪評が直ぐになくなることはなかったが、状況が静まる方向に動き始めたのは間違いない。

 これに対してヘンリーを取り巻く状況は悪化した。
 証拠不十分だったとはいえ、官憲に呼び出されただけでも彼の評判を落とす理由にはなった。それに、事情を多少知っている者が見れば、彼がかなり怪しいというのも明らかだ。
 前回の冒険の失敗という結果もあいまって、彼の評判は急速に下がり始めてしまった。

 そのヘンリーは酒場の一角で荒れていた。パーティの仲間達とも疎遠になり取り巻き連中にも離れられてしまった彼は、今は1人だけだ。
「ふざけやがって。糞共が。あいつは俺のものだ。俺だけがあいつを守れるんだ。その事をよく分からせてやる。分からせてやらないといけない。どんな手を使ってでも…」
 そう呟くヘンリーの瞳にはどす黒い光が宿っていた。
(……あいつにまた連絡をとろう。若い女を3人も食わせてやると言えば、乗ってくるはずだ。邪魔な女共を殺して、マリーは俺のものだ……)
 ヘンリーは黙って、そんな事を考えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...