学院主席の僕は、暴力を振るってくる皇女様から訳あって逃げられません。ですが、そろそろ我慢も限界です

ギルマン

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 競技試合の会場から出ようとする皇后に、側近の男が声をかけた。
「皇后陛下、よろしかったのですか? 皇帝陛下に相談もせずあのようなことを決めてしまわれて」
「何の問題もない。セスリーンの処分については私に一任されている。この程度のことは権限の範囲内だ。
 あの子も望むところだろうしな」
「え?」

「何、セスリーンがな、ここ最近手に入れた小物の類を、随分と気持ちを込めて大切に扱っているという報告が上がって来ていたのだ。
 だいたい、身分が高いだけの馬鹿息子にくれてやるよりも、遥かに有意義だろう?
 あの者の業績と、今の戦いをみれば、それは明らかだ」
「それを確認するために、どちらかが倒れるまで戦わせたのですか?」
 側近は、若干非難するような響きを込めてそう問うた。

「いや、あれはどちらかと言えば、ファヴァルという者の為だ。
 あの男の事前情報もあったが、それを見る限り、少し甘さが感じられたのでな。とことんまで戦うという事を経験させてやろうと思ったのだ。
 実際、今日の敗北はあの者にとって良い経験になっただろう。
 いずれにしても、セスリーンの件は決定だ。
 念のため確認はとるが、万に一つも覆ることはない。
 そなたは、この後の手配を進めろ。急ぐのだぞ」
「は、畏まりました」

 そして、皇后は他の事についても言葉を告げた。
「それから、もう動いているだろうが、欠席をした者達のことを調べよ」
「はい。速やかに事情は明らかになるでしょう」
 そう答える側近に向かって、皇后は更に言葉を続ける。

「私の可愛い娘に恥をかかせたのだ、相応の罰を与えてやらねばならん」
 皇后はそのように発言した。
 だが、その顔に浮かんでいるのは怒りの表情ではなく、残虐性を感じさせる恐ろしげな笑みだった。
「御意のままに」
 そう答えつつ、側近はこの後に起こるだろう処分と、その後の処理について考え始めていた。







「この、大馬鹿者が!」
 その日の夕刻。エルナバータ公爵邸にて、エルナバータ公爵は、嫡子のオストロスを怒鳴り、思い切り殴りつけた。
「な、何をなされます、父上」
 父親の怒りのあまりの激しさに面食らいつつ、オストロスはそんな事を口にする。

「何をするか、だと! それはこちらの台詞だ! 貴様が第二皇女の下で戦う予定だった者達に働きかけて、欠席させた事は分かっている。
 何ということを、何ということを、しでかしてくれたのだ!」
「両陛下のご不興を買っているセスリーンに恥をかかせたところで、どうということもありますまい」
「馬鹿者が! それだけで済むはずがあるまい! 皇后陛下御臨席の試合を台無しにしたのだぞ!
 これは皇后陛下に対する無礼になるのだ、なぜそんなことが分からん!」
「そ、そんな」

 ようやく事の本質を理解し始めたオストロスに向かって、エルナバータ公爵が告げた。
「貴様は廃嫡にする」
「なッ! そ、そんな馬鹿な」
 驚愕の表情を顕にするオストロスに向かって、エルナバータ公爵は更に言葉を続けた。

「廃嫡ごときで何を驚いておる。
 儂は今回の件を、儂と貴様の首二つで収めていただくようにお願いするつもりなのだぞ」
「は!? いくらなんでもそのような!!」
 思わずそう叫んだオストロスに対して、エルナバータ公爵の声の調子は逆に低くなっている。

「貴様等若造共は、皇后陛下の本当の恐ろしさを知らん。
 何人もお子を得て、最近ではすっかり優しくなっておられるが、あの方の本質は殺戮者だ。
 当家を断絶にするくらい、何とも思わずやってのける」

 エルナバータ公爵の表情は真剣そのものだ。オストロスも父が本気で言っていることを理解せざるを得なかった。 
「家名を残してもらえれば、御の字だ。
 どのみち貴様の命はない。
 無様な死にざまを晒さぬように、今から覚悟を決めておけ」
 エルバターナ公爵はそう言い放った。
「そ、そんな、そんな馬鹿な」
 オストロスは、そう口にして、ブルブルと震え始めた。
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