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第2章
9.辺境の村の妖魔①
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何年も妖魔狩りを生業にしており、大図書館でも十分な知識を仕入れていたエイクは、下級の妖魔の生態を熟知していた。
そのエイクが見たところ、チムル村周辺の妖魔の動きは、ゴブリンロードの行いにしては周到でしかも勤勉過ぎる。
まずエイクは、妖魔が要所に潜んで村から誰も抜け出せないようにしている事に違和感を持った。
ゴブリンロードは邪悪な存在で、殺戮を楽しむこともある。だが、予め村を封鎖して、1人も残らず皆殺しにしようとまでするとは思えない。
特に、王都と村を結ぶ道に、ゴブリンシャーマンや普通より強めのボガードといった“精鋭”を含む8体が待ち伏せていたのが気になるところだった。
それだけならたまたまという事もあるだろう。しかし、チムル村が随分効果的に封鎖されている事と合わせて考えれば、それはまるで、最も重点的に封鎖すべきなのが王都と村をつなぐ道だと理解した上で、念を入れて特別に編成した集団を伏せていたように思える。
他にも妖魔たちはかなり組織的動いて、チムル村の戦力を探り、様子を伺い、確実に全滅させようとしているように見受けられた。
エイクが知るゴブリンロードはそこまで用意周到な存在ではない。
だが、ラルゴから特徴を聞く限り、彼が見たというのは、確かにゴブリンロードのようだった。
ゴブリンロードが自らチムル村の様子を伺うような行動を取るなど、やけに勤勉な事も踏まえると、何者かがゴブリンロードを使役していると考えるのが妥当だろう。
そしてその何者かはゴブリンロードよりは遥かに賢いのだ。
(だが、だからこそ、速攻をかけるべきだ)
エイクはこの推測に基づきそう判断した。
物見櫓を降りたエイクは、ベニートの下に向かい今後の方針を告げた
「村の周りにいる妖魔たちを早急に討つべきです。場所は大体分かりましたから、直ぐに行きたいと思います」
「今直ぐに、ですか?食事くらいは取った方がいいのでは?」
ベニートはそう口にした。
村が無事で、しかもエイクという強者を連れてくる事が出来た為に、彼は一先ず安心し、若干の余裕を得たと思っているようだ。
それに、夜明けとともに王都を出発した彼らは、軽食程度しか口にしておらず、大分空腹になっていたのも事実である。
だが、エイクは、今は寸刻を惜しみ、間髪を入れずに動くべき時だと判断していた。
今妖魔たちはチムル村を封鎖する為に分散して配置についている。これは各個撃破の好機だといえる。
しかし、ゴブリンロードを使役している何者かが、状況が変わったと判断すれば、妖魔を集結させて数の力をより有効に使おうと作戦を変えることも考えられる。そうなると厄介だ。
そして、王都の方から来た馬車が村に着いた事を知れば、それをきっかけにして作戦を変えようとすることも考えられる。
つまり、今まさに作戦変更が行われようとしており、食事をしている間に各個撃破の機会が失われ状況が悪化する可能性もあるのだ。
エイクは敵の親玉がゴブリンロードよりも賢い何者かだと考えたからこそ、各個撃破の機会を絶対に逃したくなかった。
相手が何者か分からず、何をしてくるか分からないからこそ、潰せる雑魚は潰せるときに確実に潰して、敵の手駒と手数を減らしておくべきだと考えたからだ。
そして、5体ずつ6箇所に分散しているゴブリンやボガードを倒すことくらい、エイクにとっては容易い事だ。
こういった事を考えれば、今は即座に動くべき時なのだ。
この判断に従い、エイクは再度告げた。
「いえ。今すぐに行きます。
私が外の出ている間に、村に何かあった場合は、急を知らせて欲しいと思いますが、何か手段はありますか?」
「非常時には鐘を鳴らして、知らせることになっています」
「それなら、何かあったら、その鐘を鳴らしてください。急いで戻るようにします」
「分かりました」
「1時間もあれば、妖魔を倒して戻れますので、その間に食事の準備をしておいてください」
食事は食事で大切だ。そう考えたエイクは、最後にそう告げた。
そしてエイクは、妖魔が村を見張っているかも知れないと理由を述べて、あえて村の出入り口を使わずに、森の反対側の土塁と堀を乗り越えて村から出て、妖魔がいると教えられた場所に駆け足で向かった。
本当は馬に乗って颯爽と向かうなり、悠然と歩いた方が格好がいいのだろうが、馬上戦闘の技術を持たないエイクにとっては戦闘になれば馬は邪魔なだけだし歩くのは時間の無駄だ。
駆け足がもっとも効率的だった。
エイクはラルゴが指し示した場所に、妖魔らしきオドが五つずつ存在しているのを感知しており、場所に迷うことはなかった。
その上、エイクがその場所の近くに行くと、妖魔の方から姿を現すので対応は簡単だ。
エイクは1箇所ごと1・2分で妖魔を全滅させ、予告したとおり1時間程度で集落に戻った。
短時間で合計30体もの妖魔を倒したと主張するエイクに、村人達は半信半疑の様子だった。しかしエイクは構わず腹ごしらえをしつつ、今後の行動について検討した。
(次は、森に潜んでいる部隊への偵察だな、これは出来るだけ早い方がいい。
そして、もし可能なら、こいつらもさっさと倒してしまいたい。
出来れば洞窟の様子も確認すべきだろう。そこに本当の親玉がいる可能性はやはり高い)
それがエイクの結論だった。
エイクは村を封鎖していた妖魔たちを、1体も逃がさずに全滅させることに成功していた。
妖魔たちが密に連絡を取り合っていた様子はなかったので、森に潜むと思われる存在は封鎖部隊の全滅をまだ知らない可能性が高いと思われた。
王都の方から馬車が着いたことで警戒はしているかもしれない。だが、封鎖部隊の全滅を知ればより一層警戒が強くなるのは確実なのだから、結局は早く動いた方がよい。
ゴブリンロードを使役している存在がいると思われる以上、行動は慎重にすべきではある。
しかし、どちらにしても情報収集もエイク自身が行わなければならないのだから、エイクが村で待機していては何も進まない。
まずは情報収集も兼ねて付近の森にたむろしている敵の様子を偵察し、可能ならさっさと倒して敵の数を更に減らす。それが最善の行動だと思われた。
それに夜になれば、向こうから襲撃してくる可能性もあった。
妖魔は必ずしも夜行性ではない。彼らは寝たい時に寝て、動きたい時に動く。
だが基本的に夜目が利くので、人間を襲うのは夜の場合が多い。
夜目が利く妖魔たちに対抗するために、明かりを灯す道具は数多く作られている。その中には魔道具も含まれる。現在の技術でも照明用の魔道具を製作する事は可能で、比較的安価に手に入るのだ。
妖魔との戦いの最前線である辺境の村には、相当数の照明用魔道具が常備されているはずだ。
しかし、それでも昼間に比べれば夜間の方が人にとって不利になってしまうのは間違いない。
夜間に多数の妖魔に村を襲われれば、エイクがいても村人を1人残らず守りきることは不可能だろう。
逆に言えば、夜間の方が自分たちに有利な事を知っている妖魔たちが、わざわざ昼間に襲ってくる可能性は低い。
この点でも昼間の内に出来るだけのことはしておくべきだ。
エイクは直ぐに森に向かう事を決めベニートのそのことを告げた。
エイクにほとんど休みもせずに森に探索に行く、可能なら洞窟の様子も偵察すると告げられたベニートは驚いたが、理由を説明されて納得した。
そして、村に何か変事が起きた際には、やはり鐘を打ち鳴らして知らせる事、探索の結果に関わらず、日が暮れるまでには村に戻る事を打ち合わせて、エイクを送り出した。
エイクは今回も土塁と堀を乗り越えて村から出て大回りをして森に入った。
エイクは森の中でじっと動かずにいる2つのオドを既に感知していた。これを村を見張る妖魔のものだろうと考え、見られないような場所を選んで動いていたのだった。
そして、その2つのオドの近くに回りこんだエイクはその正体を確認した。案の定2体のゴブリンだった。
難なく2体のゴブリンを倒したエイクは更に次の目標に向かって動いた。
エイクは、人間ほどの大きさのオドが幾つも固まっている場所も既に感知していた。
そのエイクが見たところ、チムル村周辺の妖魔の動きは、ゴブリンロードの行いにしては周到でしかも勤勉過ぎる。
まずエイクは、妖魔が要所に潜んで村から誰も抜け出せないようにしている事に違和感を持った。
ゴブリンロードは邪悪な存在で、殺戮を楽しむこともある。だが、予め村を封鎖して、1人も残らず皆殺しにしようとまでするとは思えない。
特に、王都と村を結ぶ道に、ゴブリンシャーマンや普通より強めのボガードといった“精鋭”を含む8体が待ち伏せていたのが気になるところだった。
それだけならたまたまという事もあるだろう。しかし、チムル村が随分効果的に封鎖されている事と合わせて考えれば、それはまるで、最も重点的に封鎖すべきなのが王都と村をつなぐ道だと理解した上で、念を入れて特別に編成した集団を伏せていたように思える。
他にも妖魔たちはかなり組織的動いて、チムル村の戦力を探り、様子を伺い、確実に全滅させようとしているように見受けられた。
エイクが知るゴブリンロードはそこまで用意周到な存在ではない。
だが、ラルゴから特徴を聞く限り、彼が見たというのは、確かにゴブリンロードのようだった。
ゴブリンロードが自らチムル村の様子を伺うような行動を取るなど、やけに勤勉な事も踏まえると、何者かがゴブリンロードを使役していると考えるのが妥当だろう。
そしてその何者かはゴブリンロードよりは遥かに賢いのだ。
(だが、だからこそ、速攻をかけるべきだ)
エイクはこの推測に基づきそう判断した。
物見櫓を降りたエイクは、ベニートの下に向かい今後の方針を告げた
「村の周りにいる妖魔たちを早急に討つべきです。場所は大体分かりましたから、直ぐに行きたいと思います」
「今直ぐに、ですか?食事くらいは取った方がいいのでは?」
ベニートはそう口にした。
村が無事で、しかもエイクという強者を連れてくる事が出来た為に、彼は一先ず安心し、若干の余裕を得たと思っているようだ。
それに、夜明けとともに王都を出発した彼らは、軽食程度しか口にしておらず、大分空腹になっていたのも事実である。
だが、エイクは、今は寸刻を惜しみ、間髪を入れずに動くべき時だと判断していた。
今妖魔たちはチムル村を封鎖する為に分散して配置についている。これは各個撃破の好機だといえる。
しかし、ゴブリンロードを使役している何者かが、状況が変わったと判断すれば、妖魔を集結させて数の力をより有効に使おうと作戦を変えることも考えられる。そうなると厄介だ。
そして、王都の方から来た馬車が村に着いた事を知れば、それをきっかけにして作戦を変えようとすることも考えられる。
つまり、今まさに作戦変更が行われようとしており、食事をしている間に各個撃破の機会が失われ状況が悪化する可能性もあるのだ。
エイクは敵の親玉がゴブリンロードよりも賢い何者かだと考えたからこそ、各個撃破の機会を絶対に逃したくなかった。
相手が何者か分からず、何をしてくるか分からないからこそ、潰せる雑魚は潰せるときに確実に潰して、敵の手駒と手数を減らしておくべきだと考えたからだ。
そして、5体ずつ6箇所に分散しているゴブリンやボガードを倒すことくらい、エイクにとっては容易い事だ。
こういった事を考えれば、今は即座に動くべき時なのだ。
この判断に従い、エイクは再度告げた。
「いえ。今すぐに行きます。
私が外の出ている間に、村に何かあった場合は、急を知らせて欲しいと思いますが、何か手段はありますか?」
「非常時には鐘を鳴らして、知らせることになっています」
「それなら、何かあったら、その鐘を鳴らしてください。急いで戻るようにします」
「分かりました」
「1時間もあれば、妖魔を倒して戻れますので、その間に食事の準備をしておいてください」
食事は食事で大切だ。そう考えたエイクは、最後にそう告げた。
そしてエイクは、妖魔が村を見張っているかも知れないと理由を述べて、あえて村の出入り口を使わずに、森の反対側の土塁と堀を乗り越えて村から出て、妖魔がいると教えられた場所に駆け足で向かった。
本当は馬に乗って颯爽と向かうなり、悠然と歩いた方が格好がいいのだろうが、馬上戦闘の技術を持たないエイクにとっては戦闘になれば馬は邪魔なだけだし歩くのは時間の無駄だ。
駆け足がもっとも効率的だった。
エイクはラルゴが指し示した場所に、妖魔らしきオドが五つずつ存在しているのを感知しており、場所に迷うことはなかった。
その上、エイクがその場所の近くに行くと、妖魔の方から姿を現すので対応は簡単だ。
エイクは1箇所ごと1・2分で妖魔を全滅させ、予告したとおり1時間程度で集落に戻った。
短時間で合計30体もの妖魔を倒したと主張するエイクに、村人達は半信半疑の様子だった。しかしエイクは構わず腹ごしらえをしつつ、今後の行動について検討した。
(次は、森に潜んでいる部隊への偵察だな、これは出来るだけ早い方がいい。
そして、もし可能なら、こいつらもさっさと倒してしまいたい。
出来れば洞窟の様子も確認すべきだろう。そこに本当の親玉がいる可能性はやはり高い)
それがエイクの結論だった。
エイクは村を封鎖していた妖魔たちを、1体も逃がさずに全滅させることに成功していた。
妖魔たちが密に連絡を取り合っていた様子はなかったので、森に潜むと思われる存在は封鎖部隊の全滅をまだ知らない可能性が高いと思われた。
王都の方から馬車が着いたことで警戒はしているかもしれない。だが、封鎖部隊の全滅を知ればより一層警戒が強くなるのは確実なのだから、結局は早く動いた方がよい。
ゴブリンロードを使役している存在がいると思われる以上、行動は慎重にすべきではある。
しかし、どちらにしても情報収集もエイク自身が行わなければならないのだから、エイクが村で待機していては何も進まない。
まずは情報収集も兼ねて付近の森にたむろしている敵の様子を偵察し、可能ならさっさと倒して敵の数を更に減らす。それが最善の行動だと思われた。
それに夜になれば、向こうから襲撃してくる可能性もあった。
妖魔は必ずしも夜行性ではない。彼らは寝たい時に寝て、動きたい時に動く。
だが基本的に夜目が利くので、人間を襲うのは夜の場合が多い。
夜目が利く妖魔たちに対抗するために、明かりを灯す道具は数多く作られている。その中には魔道具も含まれる。現在の技術でも照明用の魔道具を製作する事は可能で、比較的安価に手に入るのだ。
妖魔との戦いの最前線である辺境の村には、相当数の照明用魔道具が常備されているはずだ。
しかし、それでも昼間に比べれば夜間の方が人にとって不利になってしまうのは間違いない。
夜間に多数の妖魔に村を襲われれば、エイクがいても村人を1人残らず守りきることは不可能だろう。
逆に言えば、夜間の方が自分たちに有利な事を知っている妖魔たちが、わざわざ昼間に襲ってくる可能性は低い。
この点でも昼間の内に出来るだけのことはしておくべきだ。
エイクは直ぐに森に向かう事を決めベニートのそのことを告げた。
エイクにほとんど休みもせずに森に探索に行く、可能なら洞窟の様子も偵察すると告げられたベニートは驚いたが、理由を説明されて納得した。
そして、村に何か変事が起きた際には、やはり鐘を打ち鳴らして知らせる事、探索の結果に関わらず、日が暮れるまでには村に戻る事を打ち合わせて、エイクを送り出した。
エイクは今回も土塁と堀を乗り越えて村から出て大回りをして森に入った。
エイクは森の中でじっと動かずにいる2つのオドを既に感知していた。これを村を見張る妖魔のものだろうと考え、見られないような場所を選んで動いていたのだった。
そして、その2つのオドの近くに回りこんだエイクはその正体を確認した。案の定2体のゴブリンだった。
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