109 / 373
第3章
19.魔獣討伐の依頼②
しおりを挟む
「9月1日に、王都にある当家の屋敷に情報が寄せられました。ある隊商が当家の領内で竜に襲われたという内容でした。
といっても襲われたのは夜間で、魔物の姿をしっかりと見たわけではなく、確実に言えるのは空を飛んで火を吹いたという事くらいでした。
私達は、襲われた隊商から死者が出ていないという情報から、その正体はそこまで強力な魔物ではないと推測しました。
仮に竜だとしても幼竜か小竜、恐らくは竜ですらなくワイバーンだろうと考えたのです」
(まあ、妥当な推測だろうな)
エイクはそう考えた。
竜という生き物は、幻獣の中でも際立って長い時間をかけて成長する存在である。そして、さほど成長しないうちから親元を離れる性質があるので、非常に幅広い年代の竜が人の前に姿を現すのだ。
さらに、成長段階による強さの差がとても大きい。
人々はそんな竜を、幼竜・小竜・成竜・大竜・老竜、そして古竜と、成長段階に応じて分けて呼んでいた。
竜は歳を経るごとにその強さを増していく。特に古竜は別格とされており、最強の魔物の代名詞となっている。
しかし、幼竜や小竜はそれほどの脅威ではない。だからこそ、“竜殺し”の栄誉が与えられるのは、成竜以上の竜を倒した場合に限られている。
そして、人前に現れる竜の大半は幼竜か小竜だった。
竜に襲われたが死者は出なかったという情報を聞けば、相手は幼竜か小竜と判断するのが妥当なところだ。
ワイバーンは亜竜と呼ばれることもあるが、それは前足がないということ以外は姿形が竜に似ているからという、外見上の理由からでしかなく、実際には竜の一種ではない。
その強さも、中堅どころの冒険者パーティならば十分に対応できるくらいである。
出現頻度は幼竜よりも高く、空を飛んで火を吐く魔物といえばまずワイバーンを思い浮かべるのもまた妥当な考えだろう。
「しかし、実際にはその魔物はドラゴ・キマイラだったということですか」
エイクはそう確認した。
「そのとおりです。当家では連絡を受けた当日に調査隊を派遣しました。目撃された場所から王都までは、空を飛ぶ魔物にとっては大した距離とはいえません。
当家の領内で目撃された魔物への対応が遅れた結果、王都に被害でも出れば大変な責任問題になります。当家としても最大限に急ぎました。
そして、翌日現場近くに到着しました。そこに現れたのがドラゴ・キマイラだったのです。
確かに夜目には、上に伸びた竜の頭が目立ったことでしょう。しかし胴体の正面の右には獅子の頭が、左には山羊の頭が付いていました。異様に長く器用に動いていた尻尾の先が蛇の頭になっていたのも確実です。体長は尻尾を除いても竜の首まであわせて7mほどはありました。
私自身がこの目で確認しています。間違いなくドラゴ・キマイラです」
「あなたが直接ですか?」
エイクは訝しく思った。目の前の女性は戦いの心得は全くないように見えていたからだ。
或いは何らかの魔法にでも通じているのだろうか?
「はい。私には戦う術は何もありませんが、魔物に関しては当家で最も詳しかったので同行したのです」
エイクの疑問を察したのか、マルギットがそう答えた。そして説明を続ける。
「現場は比較的開けていて見晴らしが良く、魔物が昼間に現れてくれたおかげもあって、直ぐに確認する事ができました。街道近くの岩山から現れたので、その岩山に住み着いてしまった可能性が考えられます。
もし、魔物の正体がワイバーンか幼竜だったなら、その調査隊のメンバーだけでも倒せると踏んでいたのですが、ドラゴ・キマイラでは到底適いません。上手く逃れる事が出来ただけでも幸運でした。
私達が逃げ帰って来たのが昨日。
直ぐに状況を検討し、そして先ほど申し上げたとおり、一縷の望みを持ってエイク様にお声かけさせていただきました。そのような事情ですので、出来るだけ早く確実な対応が必要です。明日の朝には出発していただければと考えています」
「明日で大丈夫ですか?」
「はい。エイク様にも準備が必要でしょうから。それにこのことは既に王国政府にも報告してあり、明日討伐隊を派遣する事も打ち合わせ済みです。
エイク様に受けていただければ対応はこちらに任せていただける。受けていただけなければ王国政府が討伐に乗り出すという段取りになっています。
そしてどちらにしても、今日中に王都の比較的近くに危険な魔物が現れたとの布告が出されます。
首尾よく討伐に成功すれば、エイク様の名声は王都に轟くことでしょう」
(一応こちらの利益も考えてくれているということか)
エイクはそう考えた。そのような状況なら、王都に轟くは大げさすぎるとしても、確かに名声は得やすいだろう。
マルギットは最後にひとつ条件をつけた。
「ただ。討伐に向かう際には私共も同行させていただきます。
状況の確認は出来る限り迅速に行いたいからです。
討伐確認もそうですが、例えばドラゴ・キマイラの姿が見られなくなっていた場合には、その原因などの調査も直ぐに行う必要がありますから」
「それはあなた方の護衛も仕事に含まれるということですか?」
「いいえ。自分達の身は自分達で守ります。その代わりドラゴ・キマイラとの戦いを援護する事も期待しないでください」
「分かりました。その条件で結構です」
そうして明日の出発時間などを確認した上で前金を受け取った。
更にエイクは自分がドラゴ・キマイラ討伐の指名依頼を受けたことを、他の冒険者達に知らしめておくよう店主のガゼックに指示した。
そうしておいた方が名声を得るのに有利だろうと判断したからだ。
その上で“イフリートの宴亭”を後にした。
エイクは出発が明日の朝ということになって良かったと考えていた。
最低限の準備をしたいのもそのとおりだったが、その他にも理由があった。
今日はジュディア・ラフラナンを犯罪奴隷として引き取る事になっている日だ。
エイクは、彼女を引き取ったならば早速その体を楽しみたいと思っていたのだった。
といっても襲われたのは夜間で、魔物の姿をしっかりと見たわけではなく、確実に言えるのは空を飛んで火を吹いたという事くらいでした。
私達は、襲われた隊商から死者が出ていないという情報から、その正体はそこまで強力な魔物ではないと推測しました。
仮に竜だとしても幼竜か小竜、恐らくは竜ですらなくワイバーンだろうと考えたのです」
(まあ、妥当な推測だろうな)
エイクはそう考えた。
竜という生き物は、幻獣の中でも際立って長い時間をかけて成長する存在である。そして、さほど成長しないうちから親元を離れる性質があるので、非常に幅広い年代の竜が人の前に姿を現すのだ。
さらに、成長段階による強さの差がとても大きい。
人々はそんな竜を、幼竜・小竜・成竜・大竜・老竜、そして古竜と、成長段階に応じて分けて呼んでいた。
竜は歳を経るごとにその強さを増していく。特に古竜は別格とされており、最強の魔物の代名詞となっている。
しかし、幼竜や小竜はそれほどの脅威ではない。だからこそ、“竜殺し”の栄誉が与えられるのは、成竜以上の竜を倒した場合に限られている。
そして、人前に現れる竜の大半は幼竜か小竜だった。
竜に襲われたが死者は出なかったという情報を聞けば、相手は幼竜か小竜と判断するのが妥当なところだ。
ワイバーンは亜竜と呼ばれることもあるが、それは前足がないということ以外は姿形が竜に似ているからという、外見上の理由からでしかなく、実際には竜の一種ではない。
その強さも、中堅どころの冒険者パーティならば十分に対応できるくらいである。
出現頻度は幼竜よりも高く、空を飛んで火を吐く魔物といえばまずワイバーンを思い浮かべるのもまた妥当な考えだろう。
「しかし、実際にはその魔物はドラゴ・キマイラだったということですか」
エイクはそう確認した。
「そのとおりです。当家では連絡を受けた当日に調査隊を派遣しました。目撃された場所から王都までは、空を飛ぶ魔物にとっては大した距離とはいえません。
当家の領内で目撃された魔物への対応が遅れた結果、王都に被害でも出れば大変な責任問題になります。当家としても最大限に急ぎました。
そして、翌日現場近くに到着しました。そこに現れたのがドラゴ・キマイラだったのです。
確かに夜目には、上に伸びた竜の頭が目立ったことでしょう。しかし胴体の正面の右には獅子の頭が、左には山羊の頭が付いていました。異様に長く器用に動いていた尻尾の先が蛇の頭になっていたのも確実です。体長は尻尾を除いても竜の首まであわせて7mほどはありました。
私自身がこの目で確認しています。間違いなくドラゴ・キマイラです」
「あなたが直接ですか?」
エイクは訝しく思った。目の前の女性は戦いの心得は全くないように見えていたからだ。
或いは何らかの魔法にでも通じているのだろうか?
「はい。私には戦う術は何もありませんが、魔物に関しては当家で最も詳しかったので同行したのです」
エイクの疑問を察したのか、マルギットがそう答えた。そして説明を続ける。
「現場は比較的開けていて見晴らしが良く、魔物が昼間に現れてくれたおかげもあって、直ぐに確認する事ができました。街道近くの岩山から現れたので、その岩山に住み着いてしまった可能性が考えられます。
もし、魔物の正体がワイバーンか幼竜だったなら、その調査隊のメンバーだけでも倒せると踏んでいたのですが、ドラゴ・キマイラでは到底適いません。上手く逃れる事が出来ただけでも幸運でした。
私達が逃げ帰って来たのが昨日。
直ぐに状況を検討し、そして先ほど申し上げたとおり、一縷の望みを持ってエイク様にお声かけさせていただきました。そのような事情ですので、出来るだけ早く確実な対応が必要です。明日の朝には出発していただければと考えています」
「明日で大丈夫ですか?」
「はい。エイク様にも準備が必要でしょうから。それにこのことは既に王国政府にも報告してあり、明日討伐隊を派遣する事も打ち合わせ済みです。
エイク様に受けていただければ対応はこちらに任せていただける。受けていただけなければ王国政府が討伐に乗り出すという段取りになっています。
そしてどちらにしても、今日中に王都の比較的近くに危険な魔物が現れたとの布告が出されます。
首尾よく討伐に成功すれば、エイク様の名声は王都に轟くことでしょう」
(一応こちらの利益も考えてくれているということか)
エイクはそう考えた。そのような状況なら、王都に轟くは大げさすぎるとしても、確かに名声は得やすいだろう。
マルギットは最後にひとつ条件をつけた。
「ただ。討伐に向かう際には私共も同行させていただきます。
状況の確認は出来る限り迅速に行いたいからです。
討伐確認もそうですが、例えばドラゴ・キマイラの姿が見られなくなっていた場合には、その原因などの調査も直ぐに行う必要がありますから」
「それはあなた方の護衛も仕事に含まれるということですか?」
「いいえ。自分達の身は自分達で守ります。その代わりドラゴ・キマイラとの戦いを援護する事も期待しないでください」
「分かりました。その条件で結構です」
そうして明日の出発時間などを確認した上で前金を受け取った。
更にエイクは自分がドラゴ・キマイラ討伐の指名依頼を受けたことを、他の冒険者達に知らしめておくよう店主のガゼックに指示した。
そうしておいた方が名声を得るのに有利だろうと判断したからだ。
その上で“イフリートの宴亭”を後にした。
エイクは出発が明日の朝ということになって良かったと考えていた。
最低限の準備をしたいのもそのとおりだったが、その他にも理由があった。
今日はジュディア・ラフラナンを犯罪奴隷として引き取る事になっている日だ。
エイクは、彼女を引き取ったならば早速その体を楽しみたいと思っていたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
↓
PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる