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第3章
31.交流を深める
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大図書館を出たエイクは、次に“大樹の学舎”に足を運んだ。代表者であるバルバラと話しをしたかったからだ。
彼女の知識はカテリーナよりも豊富なようである。話しを聞きたいとも思ったし、打ち合わせるべきこともある。
ちなみにエイクは、孤児達への土産として飴玉を沢山用意していた。
「エイク様。子供達を余り甘やかすべきではありません」
バルバラはそう言って子供達に甘いものを渡すことに難色を示した。
「私が冒険成功の喜びを子供達とも分かち合いたいと思ったのです。私の我が侭です。どうか受け取ってください」
「そうおっしゃっていただけるなら、有難く頂戴いたします。ありがとうございます。
ですが、お越しいただく度に土産をお持ちいただくようなことはどうかお控えくださいね。
本当に苦しい時には、私の方からお慈悲に縋る事もあるかもしれません。
ですが、今はそのような状態ではありませんから、私も子供達もエイク様に余り甘えるべきではないのです」
「分かりました」
そんなやり取りの後、バルバラは子供達に飴を配った。
「エイク様のご厚恩をけして忘れてはなりませんよ。
そしてあなた方もエイク様を師と仰ぎ、エイク様のように怠らずに自らを高め、そしていずれは世の役に立つ者になることを目指すのですよ」
そして、穏やかな口調でそんな事を子供達に言って聞かせた。
相変わらず言っている事は随分極端だ。
しばらくバルバラと話しをしてから、エイクは“大樹の学舎”を後にして、“イフリートの宴亭”向かった。
“イフリートの宴亭”で夕食を取りながらアルマンドの報告を聞く予定になっていた。
“イフリートの宴亭”で、エイクは割りと豪華な食事をアルマンドに奢った。
これも冒険成功の喜びを分かち合う、という理由でだ。
実際エイクとしては、自分のために働いてくれているアルマンドと喜びを分かち合いたいとも思っていたし、報いたいとも思っていた。
食事が運ばれてくると、アルマンドは皿に口をつけるような勢いでガツガツと料理を口の中にかき込んだ。
余りにもガサツな食べ方だ。
エイクが思わず呆れたような表情を浮かべてしまっている事に気がついたアルマンドは、食べるのを中断して恥ずかしそうに言った。
「すみません。前に食うのに困った時期がありまして、それ以来美味そうな食べ物を見ると、つい口の中に入るだけ入れてしまう癖がついてしまったんです」
「そうか……」
エイクは一瞬口篭ってしまう。
父の死後、苦しい生活をしていたエイクもひもじい思いをした事は少なからずあった。
だが、当時からゴブリンを狩って金に換える術があったエイクは、本物の飢餓に襲われたことはなかった。
貧しさ故に12歳で働きに出たアルマンドは、そんなエイクが感じた事がないほどの飢えを経験しているのだろう。
「気にしないでくれ、食べ物は食べたいように食べるのが一番だ」
エイクはそう言って、自分でもマナーなど一切気にせずに食べ始めた。
わざわざガサツな食べ方をするような、わざとらしいことはしなかったが、食べ方を気にするな、ということを実践したつもりだった。
「そうですね。気にせずご馳走になります」
アルマンドはそう言ったが、実際にはそれ以後は食べ方に気をつけて食べるようにしていた。
食事をとり終わった後、改めてアルマンドが報告を始めた。
「盗賊ギルドは“黒翼鳥”の一強状態になりつつあります。“鮮血の兄弟団”と“血染めのナイフ”から“黒翼鳥”に流れている奴らが結構います。
ただ、“黒翼鳥”は全部を受け入れるつもりはないみたいです。
あそこは穏健なギルドですからね。今まで余りにも残忍な事をしていた経歴がある奴は受け入れないって方針みたいです。
そういう連中は、覚悟を決めて“黒翼鳥”と戦うつもりみたいなんで、抗争は長引くかもしれません。
“猟犬の牙”からも離反者の数が更に増えているようです。
それから“悦楽の園”は大分統制が緩んで弱体化しています。金次第で内部情報を流す奴も結構出てきています。
それで、そういう連中から聞きかじったんですが、かなり上の幹部の1人が逃げ出してしまったらしいです」
エイクはその情報を聞いて感心した。
“悦楽の園”から逃げ出したらしいかなり上の幹部というのは、セレナが逃げ出したように装って捕らえた幹部の事だろう。それは昨日の話だったはずだ。
その情報をもう仕入れているとは、アルマンドも中々の情報網を構築しているようだった。
「ありがとう。参考になった。今後もその調子で頼む。他に噂話でもあれば聞かせてくれ」
エイクはそう言った。彼は情報収集の一環というだけではなく、アルマンドが仕入れた噂話を聞くことを楽しいと感じるようになっていた。
「そうですね……」
そう語り始めたアルマンドの様子も楽しそうに見えた。
アルマンドの報告を受けた後、念のために何か都合のいい依頼がないか確認していたエイクに声をかける男があった。
その男はギスカーの部下で、エイクの屋敷に行ったところ、今ならエイクは“イフリートの宴亭”にいるはずだと聞いて来たのだという。
そしてその用件は、下水道跡で倒した魔物の事を教えて欲しい、というものだった。
エイクは返答に窮した。
ギスカーの使いに嘘をつきたくはない。
だが、その件に関してはつい先日、ゾンビドックだけだったとこの“イフリートの宴亭”で言い切ったばかりだ。
あの時の宴会に参加していた冒険者が何人も今も店内にいた。今更前言を翻すのは気まずいし、セレナの工作を無駄にしてしまうことになりかねない。
少し悩んだエイクは「担当の衛兵の方に報告済みです。何度も同じ事を報告するつもりはありません。担当衛兵の方に確認してください」と少し強めの口調で発言した。
ギスカーの使いは、その衛兵が全く信用できないのだ、などということを公衆の面前で口に出来なかったし、エイクの機嫌をこれ以上損ねたくない思い、それ以上追求しなかった。
代わりに、エイクがさっさと退出してしまった後で、カウンターにいたマーニャに声をかけた。
「今私が聞いた下水道跡の魔物の事で、エイク殿は何か言っていなかったか?」
「それでしたら、つい先日、倒したのはゾンビドッグだけだったと断言していらっしゃいました」
マーニャは自分が見聞きしたとおりの事を告げた。
これらの聞き取りの結果、ギスカーの使いはエイクが倒したのはゾンビドッグだけだったと判断する事しか出来なかった。
こうして、その場しのぎのウーグの嘘はばれることはなく、結局下水道跡のカーストソイルに関する情報は軍の上層部には伝わらず、下水道跡の調査も当然行われなかったのだった。
彼女の知識はカテリーナよりも豊富なようである。話しを聞きたいとも思ったし、打ち合わせるべきこともある。
ちなみにエイクは、孤児達への土産として飴玉を沢山用意していた。
「エイク様。子供達を余り甘やかすべきではありません」
バルバラはそう言って子供達に甘いものを渡すことに難色を示した。
「私が冒険成功の喜びを子供達とも分かち合いたいと思ったのです。私の我が侭です。どうか受け取ってください」
「そうおっしゃっていただけるなら、有難く頂戴いたします。ありがとうございます。
ですが、お越しいただく度に土産をお持ちいただくようなことはどうかお控えくださいね。
本当に苦しい時には、私の方からお慈悲に縋る事もあるかもしれません。
ですが、今はそのような状態ではありませんから、私も子供達もエイク様に余り甘えるべきではないのです」
「分かりました」
そんなやり取りの後、バルバラは子供達に飴を配った。
「エイク様のご厚恩をけして忘れてはなりませんよ。
そしてあなた方もエイク様を師と仰ぎ、エイク様のように怠らずに自らを高め、そしていずれは世の役に立つ者になることを目指すのですよ」
そして、穏やかな口調でそんな事を子供達に言って聞かせた。
相変わらず言っている事は随分極端だ。
しばらくバルバラと話しをしてから、エイクは“大樹の学舎”を後にして、“イフリートの宴亭”向かった。
“イフリートの宴亭”で夕食を取りながらアルマンドの報告を聞く予定になっていた。
“イフリートの宴亭”で、エイクは割りと豪華な食事をアルマンドに奢った。
これも冒険成功の喜びを分かち合う、という理由でだ。
実際エイクとしては、自分のために働いてくれているアルマンドと喜びを分かち合いたいとも思っていたし、報いたいとも思っていた。
食事が運ばれてくると、アルマンドは皿に口をつけるような勢いでガツガツと料理を口の中にかき込んだ。
余りにもガサツな食べ方だ。
エイクが思わず呆れたような表情を浮かべてしまっている事に気がついたアルマンドは、食べるのを中断して恥ずかしそうに言った。
「すみません。前に食うのに困った時期がありまして、それ以来美味そうな食べ物を見ると、つい口の中に入るだけ入れてしまう癖がついてしまったんです」
「そうか……」
エイクは一瞬口篭ってしまう。
父の死後、苦しい生活をしていたエイクもひもじい思いをした事は少なからずあった。
だが、当時からゴブリンを狩って金に換える術があったエイクは、本物の飢餓に襲われたことはなかった。
貧しさ故に12歳で働きに出たアルマンドは、そんなエイクが感じた事がないほどの飢えを経験しているのだろう。
「気にしないでくれ、食べ物は食べたいように食べるのが一番だ」
エイクはそう言って、自分でもマナーなど一切気にせずに食べ始めた。
わざわざガサツな食べ方をするような、わざとらしいことはしなかったが、食べ方を気にするな、ということを実践したつもりだった。
「そうですね。気にせずご馳走になります」
アルマンドはそう言ったが、実際にはそれ以後は食べ方に気をつけて食べるようにしていた。
食事をとり終わった後、改めてアルマンドが報告を始めた。
「盗賊ギルドは“黒翼鳥”の一強状態になりつつあります。“鮮血の兄弟団”と“血染めのナイフ”から“黒翼鳥”に流れている奴らが結構います。
ただ、“黒翼鳥”は全部を受け入れるつもりはないみたいです。
あそこは穏健なギルドですからね。今まで余りにも残忍な事をしていた経歴がある奴は受け入れないって方針みたいです。
そういう連中は、覚悟を決めて“黒翼鳥”と戦うつもりみたいなんで、抗争は長引くかもしれません。
“猟犬の牙”からも離反者の数が更に増えているようです。
それから“悦楽の園”は大分統制が緩んで弱体化しています。金次第で内部情報を流す奴も結構出てきています。
それで、そういう連中から聞きかじったんですが、かなり上の幹部の1人が逃げ出してしまったらしいです」
エイクはその情報を聞いて感心した。
“悦楽の園”から逃げ出したらしいかなり上の幹部というのは、セレナが逃げ出したように装って捕らえた幹部の事だろう。それは昨日の話だったはずだ。
その情報をもう仕入れているとは、アルマンドも中々の情報網を構築しているようだった。
「ありがとう。参考になった。今後もその調子で頼む。他に噂話でもあれば聞かせてくれ」
エイクはそう言った。彼は情報収集の一環というだけではなく、アルマンドが仕入れた噂話を聞くことを楽しいと感じるようになっていた。
「そうですね……」
そう語り始めたアルマンドの様子も楽しそうに見えた。
アルマンドの報告を受けた後、念のために何か都合のいい依頼がないか確認していたエイクに声をかける男があった。
その男はギスカーの部下で、エイクの屋敷に行ったところ、今ならエイクは“イフリートの宴亭”にいるはずだと聞いて来たのだという。
そしてその用件は、下水道跡で倒した魔物の事を教えて欲しい、というものだった。
エイクは返答に窮した。
ギスカーの使いに嘘をつきたくはない。
だが、その件に関してはつい先日、ゾンビドックだけだったとこの“イフリートの宴亭”で言い切ったばかりだ。
あの時の宴会に参加していた冒険者が何人も今も店内にいた。今更前言を翻すのは気まずいし、セレナの工作を無駄にしてしまうことになりかねない。
少し悩んだエイクは「担当の衛兵の方に報告済みです。何度も同じ事を報告するつもりはありません。担当衛兵の方に確認してください」と少し強めの口調で発言した。
ギスカーの使いは、その衛兵が全く信用できないのだ、などということを公衆の面前で口に出来なかったし、エイクの機嫌をこれ以上損ねたくない思い、それ以上追求しなかった。
代わりに、エイクがさっさと退出してしまった後で、カウンターにいたマーニャに声をかけた。
「今私が聞いた下水道跡の魔物の事で、エイク殿は何か言っていなかったか?」
「それでしたら、つい先日、倒したのはゾンビドッグだけだったと断言していらっしゃいました」
マーニャは自分が見聞きしたとおりの事を告げた。
これらの聞き取りの結果、ギスカーの使いはエイクが倒したのはゾンビドッグだけだったと判断する事しか出来なかった。
こうして、その場しのぎのウーグの嘘はばれることはなく、結局下水道跡のカーストソイルに関する情報は軍の上層部には伝わらず、下水道跡の調査も当然行われなかったのだった。
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