剣魔神の記

ギルマン

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第3章

32.パーティ名

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 屋敷に戻ったエイクをテティスが待っていた。
 エイクに最初の冒険行の首尾を報告するためだ。

 彼女達は最初の冒険を成功させ、“イフリートの宴亭”への報告も済ませて、エイクの屋敷に帰って来ていた。

 ちなみにテティスは、再度冒険者登録をするにあたって、性別を偽っていた頃と同じテティスという名を使っていた。
 実は同一人物だなどという説明は一切していないので、店主のガゼックはじめ不審がっている者は少なからずいたが、無視していた。
 エイクは偽名を使ってはどうかと提案したが、テティスは「その必要はありません。多少不審がられても無視していれば、勝手に適当な解釈して直ぐに気にする者もいなくなります」と述べて名を偽ることを拒んだ。
 自分の名によほどこだわりがあるようだった。

 実際エイクの要望だった事もあって、ガゼックは何ら文句を言わずにテティスを新たに冒険者として登録し、仕事の受注も完了の報告も問題なく出来るようになっていた。
 
 そんなテティスらが今回受けた依頼は、ジャイアント・タイガービートルの討伐である。
 それは体長2mにもなる巨大な肉食性の甲虫で、人里近くを活動範囲にしてしまうと家畜はもちろん人間も犠牲になる。速やかに駆除せざるを得ない存在だ。
 その外骨格はかなりの防御力を持ち意外なほど素早く動く。その上、その顎の攻撃は馬鹿にならない威力がある。下級の冒険者程度では手が出せない魔物だといえる。

 だが、テティスたちは苦もなく討伐に成功した。
 彼女たちの実力を考えれば当然の結果である。ちなみに、女性ばかりの一行だったが、今更虫を怖がるメンバーは1人もいなかった。

 更にテティスは道中で立ち寄った村で家畜がいなくなったという話を聞き、簡単な調査でそれが妖魔の犯行である事を突き止め、その村の近くに居つこうとしていた5体のゴブリンたちを手早く退治してもいた。
 本来なら、倒しても経験の足しにもならないような雑魚だが、4人で多数の敵を相手にする場合の参考にはなった。
 これも上首尾と言えるだろう。

「もう少し上の依頼も、十分にこなせると思います。ですが、やはりもう1人前衛が欲しいですね」
 それが、テティスの意見だった。
「考えておこう」
 エイクはそう応じた。
 だが、彼女達の技量に相応しいだけのメンバーを探すのは簡単ではないと思われる。
 元々上級冒険者であったテティスとカテリーナはもちろん、ルイーザとジュディアも既に中級冒険者の域を超えるほどの技量を身につけているからだ。

 テティスが更に意見を述べた。
「ところで、私達のパーティ名ですが“黄昏の蛇”というのはどうでしょう」
「ふっ」
 エイクは思わず苦笑をもらした。そして「随分不吉な名を選んだな」と告げた。

「“夜明けの翼”をひっくり返しただけですよ」
 そう答えたテティスだったが、中々いいネーミングだと思っていた。
 実質的な奴隷という人生の黄昏のような境遇で、地を這いずって生きる事になるだろう女達が3人も所属している冒険者パーティにぴったりだと考えたからだ。

 だが、その答えを聞いたエイクは怪訝そうな様子で聞き返した。
「ん?神話を知っていて名付けたんじゃあないのか?」
「何の事です?」
 意味が分からないテティスにエイクが説明した。
「“黄昏の蛇”というのは、神話に謳われる魔物の一つだ」
 そして、その神話の一節を口にする。

「その者は、常に光輝く白昼へと向かって侵攻する。
 そして、その者去りし処は、すべからく漆黒の闇夜とならん。
 故にその者が居る処は常に黄昏である。
 これがその者が“黄昏の蛇”と呼ばれる所以である」

 確かに余り縁起のよさそうな魔物の説明ではなかった。
「止めておきますか?」
「いや、その名前でいい。多分それは俺に相応しい名前だ。
 俺もそのパーティのメンバーという事にしよう。
 そうすれば何かあった時にパーティの一員として介入できるし丁度いい。俺がリーダーでテティスは副リーダー。
 通常はテティスが指揮をとって、俺は基本的に今までどおり単独で行動する事にする。
 だが、俺達は“黄昏の蛇”だ」
 そう告げるエイクは、なにやら機嫌がよさそうだった。

 そしてエイクはもう一つの事をテティスに聞いた。
「ところで、お前達の中で一番疲弊していないのは誰だ?」
「……それは、まあ、多分私でしょうね」
 テティスは、他のパーティメンバーを労わるつもりでそう答えた。

「そうか。それじゃあテティスにつき合ってもらおう。後で寝室に来てくれ」
 エイクの要求はテティスが予想したとおりのものだった。
「わかりました」
 テティスはそう答えて、実際エイクの要求どおりに振舞ったのだった。
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