剣魔神の記

ギルマン

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第3章

49.探索開始

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 9月16日。
 エイクは予定通り早朝から他のメンバー達と落ち合い、そこで初めて“叡智への光”のメンバー全員と顔を合わせた。
 “叡智への光”のメンバーは、ロウダーの他に、斥候兼軽戦士を務める小柄な中年男のキンバリーと、野伏兼弓使いである長身の青年フリッツ、そしてドワーフの重戦士ダボホの3人だ。

 キンバリーが扱う小ぶりのカトラスとフリッツの弓では、金属の塊であるオリハルコンゴーレムに有効なダメージを与える事は出来なさそうだ。
 しかしダボホの持つ刃渡りの大きなバトルアックスは、当たりさえすればオリハルコンゴーレムにも有効だろう。
 主にゴーレムにダメージを与えるのは、エイクとダボホになりそうだ。

(ヤハタ邦国製のカタナが噂どおりの性能だったとしても、切り裂く武器である以上ゴーレムに有効とは思えない。
 だが、ロウダーの口ぶりではミカゲもゴーレムに対して有効な戦力になると考えているようだった。何か特殊な能力があるのかもしれないな。
 まあ、口だけの女でなければいいが)
 エイクはそんな事も思っていた。

 そして、自己紹介も済ませた一行は、改めて迷宮へと向かった。

 ちなみにエイクの分の入場料金は既にベルヤミン商会が支払っており、入場許可証であるエンブレムも手渡されている。



 サルゴサの迷宮は、街から1時間ほど歩いた場所に存在していた。
 その迷宮では、中で発生した魔物が迷宮の外にまで出てくることもあるので、一般人も住む街は少し離れた場所に作られているのだ。

 ちなみに、迷宮内の魔物が外に出てくるかどうかは迷宮によって異なる。
 外に出てくることがないと見なされている迷宮では、迷宮への入り口を囲むように街並みが形成されることもあった。
 しかし、魔物が外に出て来ることもあり、しかも管理が完全ではないサルゴサにおいては、そこまでの利便性を追求する事は出来ない。

 エイクたちはその道を何事もなく踏破して、迷宮に到着する事が出来た。



 サルゴサの迷宮は地下の広大な範囲に広がっている。
 だが、古代においては更に地上にも巨大な構造物があった。
 しかしその地上部分は、“敵性存在”の攻撃により破壊されたらしく、今ではその1階部分が残っているだけだ。

 そして、その1階部分にはもはや迷宮核の力も及ばないようで、広い廃墟と化していた。
 外壁もボロボロで、かつては迷宮の地上1階部分だったその廃墟には、ほとんどどこからでも入る事が出来る。
 更に、床も至るところで崩落しており、地下1階への正規の入り口である階段以外の場所からも、容易に地下に降りる事が出来た。

(これでは冒険者の出入りを管理できないというのも分かるな)
 エイクはその状況を見てそう思った。



 外壁近くまで来たところでロウダーが、迷宮内を移動する際の隊形について説明した。
「我々の日頃の基本的な隊形は、斥候であるキンバリー1人が先行して、残りの3人がかなり後ろを歩くというものだ。
 近くを歩くとダボホの鎧の音がキンバリーの索敵の邪魔になるし、私とフリッツはいざという時にはダボホに守ってもらう必要があるため、そのような隊形にならざるを得ん。
 しかしこの隊形は前後に分断されてしまう危険が高いという問題があった。
 そこで今日は、ミカゲ殿とエイク殿にキンバリーと私たち3人の間に入ってもらって、その弱点を補いたい。
 具体的には、ミカゲ殿がキンバリーの少し後ろ、エイク殿には我々の少し前を歩いてもらい、それぞれ前後に注意を払って、何かあった時に迅速に駆けつけるようにして欲しいと思っている。
 何か意見はあるかな?」

「一つよろしいですか」
 エイクがそう告げてから自分の意見を口にした。
「キンバリーさんの後ろは私の方がよいのではないですか?私の装備の方がより音が出来くいですから」
「いやエイク殿にはやや後方にいて、どちらかといえば後ろの方により注意をしてもらいたい。
 エイク殿は野伏としての技量も高いとお見受けする。
 迷宮内では野外ほど有効ではないだろうが、気配を探ったりもできるだろう。その能力で、フリッツと共に後ろの様子をうかがって欲しいのだ」
「わかりました」

 エイクはそう素直に答えた。
 ロウダーの意見ももっともだと思ったし、そもそも迷宮探索は初めてであるエイクが、熟練者であるロウダーにくどくど意見を言うべきではないとも考えたからだ。

 他に意見はなかった。

 ロウダーはキンバリーに改めて声をかけた。
「ミカゲ殿とエイク殿がいれば、いつもよりも安全性は高まるはずだ。
 だが、いつもと状況が違うという事は、思わぬ失態の原因にもなりかねない。十分に気を付けてくれ。分かっているな?」
「ああ、よく分かってるよ」
 キンバリーは笑顔でそう答えた。

「よし。では、行くとしよう」
 そして、改めてロウダーが出発を宣言し、一同は迷宮へと入っていった。



 迷宮探索は順調だった。
 “叡智への光”は目的の場所までの道のりを完全に把握しているようで、迷いなく進み、早くも地下3階にまで降りて来ていた。



 ちなみに、地下に存在するサルゴサの迷宮だが、内部は普通に明るい。
 これは、サルゴサの迷宮に限らず、迷宮核が起動している迷宮ならば、ほぼ全てに共通している特徴だった。
 そのようになっている理由も、迷宮が遊戯用に作られたものだからである。
 真っ暗では遊戯の場として不都合というわけだ。

 同様に遊戯の場であるがために、迷宮内にはあたかも侵入者に便宜を図るような設備も存在した。
 難易度が極端に高すぎては遊戯にならないし、ある程度は攻略の目途が立たなければ面白くもないからだ。

 だがこのことは、侵入者が安全に行動できることを意味してはいない。
 古代魔法帝国の迷宮における遊戯は、基本的に手駒として扱う奴隷や蛮族が死ぬことを当然の前提としているからだ。
 古代の魔術師たちにとっては、蛮族や奴隷は何度でも替えが効く存在に過ぎない。

 また、迷宮を作った古代の魔術師の中には、魔術師同士の遊戯という活用法だけではなく、有益な魔道具などを配置することで侵入者をおびき寄せ、その侵入者が無残に死ぬのを見て楽しむ為に迷宮を使った者もいる。
 そのような場合も、迷宮は一見すると侵入者に都合がよく見えるようになっている。
 そうやって侵入者をおびき寄せて殺すためだ。

 いずれにしても、明るくて活動しやすく、侵入者に対して便宜を図っているかのようにすら見える迷宮も、実際には危険に満ちているのである。
 魔物との戦いに敗れれば普通に死ぬし、恐ろしく悪辣で致命的な罠も仕掛けられている。



 だが、そのような魔物や罠も、この迷宮に精通している“叡智への光”には通用していなかった。
 エイク達一行も、地下3階まで降りて来る過程で何匹もの魔物と遭遇していたし、罠もあった。だが、その全てを難なく突破している。

 ちなみに、エイクのオド感知能力は迷宮内でも有効だった。そしてエイクは、迷宮を進む間ずっとオドの感知に気を使っていた。

 流石に迷宮内には魔物らしきオドが多い。
 特に多数のオドが集中しているなど気になる場所もいくつかあった。
 ストーンゴーレムと遭遇した時には、ゴーレムからはオドが感知できないという事を確認することも出来た。

 そして、特殊な形状をしたオドもいくつも感じ取れている。イミテーターなどの人工生物のものだろうと思われた。
 そのような特殊な形状のオドの一種が前方から接近してきたのは、エイク達が5人ほどがゆっくりと並んで歩けるほど広く、まっすぐに伸びた通路を歩いている時だった。

 そのオドは広い空間に薄く広まっているように感じられる。
 まるで、空気の一部がオドを帯びているかのようだ。しかし、見た目は周りと変わらないように見える。
煙状生物ガストか。完全に無色透明という事は、忍び寄る煙状生物ストーカー・ガストだな)
 エイクはそう判断していた。
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