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第3章
50.忍び寄るもの
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煙状生物は古代魔法帝国が作成した人工生物の一種である。
普段は気体の状態で漂っており、攻撃対象を発見するとその直ぐ近くに近づいてから実体化して奇襲をかけようとする。
もっとも、多くのガストは気体の状態でも多少の色を帯びており、十分に注意していればその接近に気付く事が出来る。
また、一度実体化すると数時間は気体に戻れないので、その状況ならば普通に武器で攻撃して倒すことが出来る。
この為、一般的にはさほど脅威とはみなされていない魔物だった。
しかし、上位種であるストーカー・ガストは別格である。
気体状態では無色透明で、気が付くのはかなり難しい。
また単純に攻撃力も高く、実体化すると鞭のような形になる両腕で、首を締めたり絡めとったりといった攻撃を行う。
その上ストーカー・ガストには、奇襲を仕掛けるにあたって、もっとも効果的な相手を選ぶような知性も備わっている。
要するに、もっとも防御能力に乏しい魔法使いや回復役を初撃で狙ってくるのだ。
ストーカー・ガストの接近に気付かずに後衛が奇襲を受けてしまうと、中級中位程度の冒険者パーティがストーカー・ガスト1体の為に全滅する事すらありえた。
そのストーカー・ガストと思われるオドが前方から近づいてくる。
(2体いるようだな)
エイクはそんな事も感じ取っていた。
だが、その事を告げるつもりはなかった。
斥候であるキンバリーに任せれば十分だと思ったからだ。
ストーカー・ガストが無色透明とはいっても、質感の違いというものはある。熟練の斥候ならば接近される前に気付く事の方が多い。
上級中位とされるほどの冒険者の斥候ならば、気付く方が当然とすらいえる。
そう考えたエイクは、自分の重大な秘密であるオド感知能力の存在がばれる危険を冒してまで、警告を発するつもりにはならなかったのだ。
その上級中位の斥候であるキンバリーは、頭など掻きつつ気楽な様子で前を歩いていた。
しかし彼は、今迄もそんな気張らない様子を見せながら、身を潜める魔物も巧妙な罠も見破っている。
エイクは特に心配していなかった。
ところが、ストーカー・ガストらしきオドが接近してきてもキンバリーは何も反応を示さず、そのオドはキンバリーの近くを通り過ぎてしまう。
(どんな熟練者でも偶々失敗してしまうという事はあるが、この状況での失敗は何とも間が悪い……)
エイクはそう思った。
ミカゲも気付いている様子はない。
エイクは対応に迷った。
(野伏としての感覚で気付いた事にして警告するか?
しかし、屋内で斥候以上に鋭い感性を発揮するというのは不自然だ。キンバリーの不手際を補う為に、万が一にも俺の能力がばれる危険を冒す気にはなれないな)
そのようなことを考えているうちにも、そのオドはミカゲの近くも通りすぎエイクに接近して来る。
(やはり、実体化した直後に気付いて助けに入るという形にしよう。
その方がまだしも自然だし、ロウダーも一撃で死ぬ事はないだろうから、取り返しのつかない事態にはならないはずだ)
結局エイクは、そのオドが自分の近くを通り過ぎようとする時には、そのように考えていた。
ストーカー・ガストの性質を踏まえて、最初に攻撃されるのはロウダーだと判断した上でのことだ。
その為、エイクの両脇を通り過ぎた2体のストーカー・ガストが、彼の斜め後ろで実体化して彼に襲い掛かって来たことに、本当に驚いてしまった。
「何!?」
黒い人型の姿に実体化したストーカー・ガストの腕が、自分に向かって振るわれるのに気付いた瞬間、エイクは思わずそんな声を上げた。それは完全に予想外の展開だった。
それでもエイクは、素早く2歩前に進み、更に上体を僅かに屈めて、上体と首筋を狙って斜め後ろから放たれた、その2体のストーカー・ガストの攻撃の両方を避けた。
エイクには、完全な奇襲を受けた場合ですら、とっさに反応してストーカー・ガストの攻撃を避けるほどの技量がある。
ストーカー・ガストが実体化してエイクを攻撃するのとほぼ同時に、ロウダーが呪文を唱え始めた。
前にいたミカゲとキンバリー、そしてロウダーの近くに居たドワーフのダボホもエイクの方に駆け寄ってくる。
しかし、そこでエイクは更なる驚愕に襲われた。
不穏な気配を感じて思わず顔を向けた先には、間違いなくエイクを狙って弓を引き絞る弓使いのフリッツの姿があったのだ。
更に、ロウダーが素早く唱えた呪文は、対象者を速く動けるようにして、攻撃と回避を有利にさせる“加速”というかなり高度な古語魔法だったのだが、“叡智への光”のメンバーとミカゲのみをその対象としており、エイクは外されていた。
そして、決定的な事が起こった。
エイクに向かって駆け寄ってきたミカゲが、重心を下げ低い姿勢でカタナを抜刀しエイクの胸部を狙って切りつけたのだ。
すんでのところでフリッツから意識を戻したエイクは、後ろに跳んでミカゲの攻撃を避けた。
そこにキンバリーのカトラスが襲う。
エイクは僅かに体を動かして、腹を狙っていたその攻撃をスケイルメイルに貼り付けられた竜燐で受けて、ダメージを免れる事に成功した。
しかし、体勢は崩れている。
エイクは、背後に迫ったダボホのバトルアックスが、自分を狙って大きく振り上げられる気配を感じた。
(くそッ!!)
エイクは心中で大きく悪態をついた、それは容易く罠にかかってしまった愚かな自分自身に向けられたものだ。
エイクは、共に迷宮に下りて来た者達全員から襲撃されてしまったのだ。
普段は気体の状態で漂っており、攻撃対象を発見するとその直ぐ近くに近づいてから実体化して奇襲をかけようとする。
もっとも、多くのガストは気体の状態でも多少の色を帯びており、十分に注意していればその接近に気付く事が出来る。
また、一度実体化すると数時間は気体に戻れないので、その状況ならば普通に武器で攻撃して倒すことが出来る。
この為、一般的にはさほど脅威とはみなされていない魔物だった。
しかし、上位種であるストーカー・ガストは別格である。
気体状態では無色透明で、気が付くのはかなり難しい。
また単純に攻撃力も高く、実体化すると鞭のような形になる両腕で、首を締めたり絡めとったりといった攻撃を行う。
その上ストーカー・ガストには、奇襲を仕掛けるにあたって、もっとも効果的な相手を選ぶような知性も備わっている。
要するに、もっとも防御能力に乏しい魔法使いや回復役を初撃で狙ってくるのだ。
ストーカー・ガストの接近に気付かずに後衛が奇襲を受けてしまうと、中級中位程度の冒険者パーティがストーカー・ガスト1体の為に全滅する事すらありえた。
そのストーカー・ガストと思われるオドが前方から近づいてくる。
(2体いるようだな)
エイクはそんな事も感じ取っていた。
だが、その事を告げるつもりはなかった。
斥候であるキンバリーに任せれば十分だと思ったからだ。
ストーカー・ガストが無色透明とはいっても、質感の違いというものはある。熟練の斥候ならば接近される前に気付く事の方が多い。
上級中位とされるほどの冒険者の斥候ならば、気付く方が当然とすらいえる。
そう考えたエイクは、自分の重大な秘密であるオド感知能力の存在がばれる危険を冒してまで、警告を発するつもりにはならなかったのだ。
その上級中位の斥候であるキンバリーは、頭など掻きつつ気楽な様子で前を歩いていた。
しかし彼は、今迄もそんな気張らない様子を見せながら、身を潜める魔物も巧妙な罠も見破っている。
エイクは特に心配していなかった。
ところが、ストーカー・ガストらしきオドが接近してきてもキンバリーは何も反応を示さず、そのオドはキンバリーの近くを通り過ぎてしまう。
(どんな熟練者でも偶々失敗してしまうという事はあるが、この状況での失敗は何とも間が悪い……)
エイクはそう思った。
ミカゲも気付いている様子はない。
エイクは対応に迷った。
(野伏としての感覚で気付いた事にして警告するか?
しかし、屋内で斥候以上に鋭い感性を発揮するというのは不自然だ。キンバリーの不手際を補う為に、万が一にも俺の能力がばれる危険を冒す気にはなれないな)
そのようなことを考えているうちにも、そのオドはミカゲの近くも通りすぎエイクに接近して来る。
(やはり、実体化した直後に気付いて助けに入るという形にしよう。
その方がまだしも自然だし、ロウダーも一撃で死ぬ事はないだろうから、取り返しのつかない事態にはならないはずだ)
結局エイクは、そのオドが自分の近くを通り過ぎようとする時には、そのように考えていた。
ストーカー・ガストの性質を踏まえて、最初に攻撃されるのはロウダーだと判断した上でのことだ。
その為、エイクの両脇を通り過ぎた2体のストーカー・ガストが、彼の斜め後ろで実体化して彼に襲い掛かって来たことに、本当に驚いてしまった。
「何!?」
黒い人型の姿に実体化したストーカー・ガストの腕が、自分に向かって振るわれるのに気付いた瞬間、エイクは思わずそんな声を上げた。それは完全に予想外の展開だった。
それでもエイクは、素早く2歩前に進み、更に上体を僅かに屈めて、上体と首筋を狙って斜め後ろから放たれた、その2体のストーカー・ガストの攻撃の両方を避けた。
エイクには、完全な奇襲を受けた場合ですら、とっさに反応してストーカー・ガストの攻撃を避けるほどの技量がある。
ストーカー・ガストが実体化してエイクを攻撃するのとほぼ同時に、ロウダーが呪文を唱え始めた。
前にいたミカゲとキンバリー、そしてロウダーの近くに居たドワーフのダボホもエイクの方に駆け寄ってくる。
しかし、そこでエイクは更なる驚愕に襲われた。
不穏な気配を感じて思わず顔を向けた先には、間違いなくエイクを狙って弓を引き絞る弓使いのフリッツの姿があったのだ。
更に、ロウダーが素早く唱えた呪文は、対象者を速く動けるようにして、攻撃と回避を有利にさせる“加速”というかなり高度な古語魔法だったのだが、“叡智への光”のメンバーとミカゲのみをその対象としており、エイクは外されていた。
そして、決定的な事が起こった。
エイクに向かって駆け寄ってきたミカゲが、重心を下げ低い姿勢でカタナを抜刀しエイクの胸部を狙って切りつけたのだ。
すんでのところでフリッツから意識を戻したエイクは、後ろに跳んでミカゲの攻撃を避けた。
そこにキンバリーのカトラスが襲う。
エイクは僅かに体を動かして、腹を狙っていたその攻撃をスケイルメイルに貼り付けられた竜燐で受けて、ダメージを免れる事に成功した。
しかし、体勢は崩れている。
エイクは、背後に迫ったダボホのバトルアックスが、自分を狙って大きく振り上げられる気配を感じた。
(くそッ!!)
エイクは心中で大きく悪態をついた、それは容易く罠にかかってしまった愚かな自分自身に向けられたものだ。
エイクは、共に迷宮に下りて来た者達全員から襲撃されてしまったのだ。
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