剣魔神の記

ギルマン

文字の大きさ
173 / 373
第3章

83.最善をつくす

しおりを挟む
 ゴルブロらとの死闘から一夜明けた9月20日朝。
 エイクはアルターからアルマンドを捕らえ、そして処刑した報告を受けていた。

「死体をご確認いたしますか?」
 そう問うアルターにエイクが答えた。
「いや、今すぐに確認する必要はない。
 それよりもその死体は出来るだけ早く、適当な形で人目に晒すようにしてくれ。
 あからさまに殺されたと分かるわけではないが、ある程度の事情を知る者や、後から俺の事を知ろうとした者には、俺による制裁で殺されたと分かる。
 そんな感じがいい。
 死体の確認はその晒された後の状況でしよう」
「見せしめ、ということでしょうか」
「そうだ。今後の為にもそうしておいた方がいいと思う。何か意見があるか?」
「いえ、適切な処置と拝察いたします。それでは普通なら溺れないような、小さな溝に浮いてもらいましょう。
 彼は水死していますので、都合がよいかと」
「頼む」

(それが最善を尽くす行為というべきだ)
 エイクはそう思った。
 それが、エイクがアルマンドの死体を晒すという判断をした理由だった。



 迷宮で無様な敗北を喫し、いずれは自分の片腕になってくれればとまで思っていたアルマンドに裏切られた事から、エイクも今後自分はどうするべきなのかという事を考えさせられていた。
 だが、その結果エイクが出した答えは、どんな結果になっても後悔しないように日頃から最善を尽くす。という、余りにもありきたりなものだった。

 今回エイクは命に係わる敗北を喫したが、それでも強くなるためには危険な戦いに挑むべきだというエイクの信念はいささかも変わらない。
 父の仇を討つためには、できるだけ早くもっと強くならなければならないのは間違いないし、いずれは最強を目指すという意思も揺るぎなかったからだ。
 そして、勝って当たり前の戦いばかりしていても強くなれないということは、エイクにとっては自明だった。

(俺はこれからも、今回のような危険な賭けのような戦いにも挑む事を止めない。あえて死地に赴くようなこともするだろう。
 当然、敗北し死ぬこともあり得る。その可能性をなくすことは出来ない。
 なら出来る事は、今回のように油断したり慢心したり怠ったりして、後で後悔する事がないように、最善を尽くす事だけだ。
 危険を承知の上であえて挑むことや、予測不可能な危険に陥ることはあっても、今回のように十分な注意や適切な判断をせずに、不用意に危険に飛び込む事だけは決してしない)
 エイクはそう考えていた。

 そしてまた、エイクの最善を尽くすという考えは、戦いだけではなく信頼関係の構築という面にも及んでいた。
 今回エイクはアルマンドには裏切られてしまったが、反面仲間たちのおかげで勝てたということもしっかりと認識していた。
 アルターとセレナ、そして資金提供をしてくれているロアン。彼らの協力がなければゴルブロ一味に勝つことなど全く不可能だった。
 そして、目的を達する事も出来なかった

 理想を言うなら自分一人で全てをこなし、他者の助力など何も必要としない者になるべきだ。
 だが、現実のエイクはそんな完全な者には程遠いのだから、他者の助力が必要である。
 つまり信頼できる仲間が必要だということだ。
 アルマンドに裏切られたからと言って、今後は誰も信じない、などという態度をとるのは余りにも非効率的すぎる。というよりも非現実的といえるだろう。
 実際エイクは今までの経過などから、今でもアルターとセレナとロアンは信頼できると思っている。

 だが、一度信頼したからといって、その後も漫然と信頼し続けるのは努力を怠っていると言わざるを得ないだろう。
 信頼関係を継続させるためにも、最善を尽くすべきなのだ。

 そして、エイクの考えでは、信頼関係の根本にあるのは利害関係である。
 自分の味方になっていれば利益がある。裏切れば害がある。そう思うからこそ自分の味方で居続ける。
 人柄や関係の緊密さも大事だが、基礎になっていのはやはり利害関係だ。
 人柄云々はその後の事だ。エイクはそう思っていた。

 特に重視すべきなのは裏切った場合の害の大きさを知らしめることだ。
 エイク以上の利益を与える事が出来る存在は、世の中にはいくらでもいる。
 つまり、利益の供与だけでは人を引き留めることは出来ない。
 味方でいれば利益があるというだけではなく、裏切った場合は死という最悪の報復がなされる事を示してこそ、裏切りを抑制する事が出来るのだ。
 よって、自分を裏切った場合は死を与えるということを明らかにすることが、信頼関係を継続させるために最善を尽くすことになる。
 エイクはそのように考えた結果、アルマンドの死体を、エイクを裏切った為に制裁として殺されたのだと察する事ができる形で人目に晒すことにしたのだった。

 アルマンドは賞金首になっていないので、エイクが私刑で殺した事が明白になってしまえば、エイクが罰せられる。
 まあ、この国の法や多くの人々の認識では、状況を踏まえればアルマンドを殺しても大した罪には問われない可能性が高いが、それでも犯罪は犯罪である。ばれないにこしたことはない。
 しかし、この国の官憲は、身寄りもない者が多少不自然な状況で死んだからといって、調査などしない。
 だから、少し調べればエイクによる制裁によって殺されたと察せられる状態で死んでいても、何ら問題は発生しない。
 エイクはそう判断したのだ。



 エイクも、この己の行為が“悪”であることは承知している。
 だがエイクは、この程度の悪を為すことに最早躊躇いはなかった。
 なぜなら彼は、己の目的の為にこれ以上の悪に手を染める事を既に決めていたからだ。
 その目的とは、無論父の仇討ちだ。

 エイクはその事を踏まて、今後為すべきことを改めて考えていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。 ↓ PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

処理中です...