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第1章
3.出会い
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ゴブリンと相打ちのように倒れたエイクは、どうにか意識を保っていた。
死闘の末に敵を倒した。しかしそれはエイクが思い描いていた勝利とは程遠かった。
真の力が目覚めたわけでも、突如強大な能力が発現したわけでもない。
命をかけて死力を尽くし、ギリギリで勝利した。ただそれだけだった。
相変わらずエイクは無力で脆弱だ。
彼にはもう立ち上がる力すら残されていなかった。
―――ゴブリン1体と相打ち。
それは身を切るような努力の成果としては、余りにも哀れなものだった。
しかし、それでもエイクは足掻くのを止めようとは微塵も思わない。
(とにかく僕は勝った。そしてまだ生きている。
生き残ればきっと少しは強くなれる。なれるはずだ。生き残る。今はとにかく生き残るんだ)
彼はそう自分に言い聞かせ、野営地の方へと這いずり始めた。
何度も気を失いそうになりつつも、エイクは野営地へと進み続けた。
少しでも気を抜けば意識を失い、そのまま二度と目覚めないことになりかねない。そんな際どい状況の中で、エイクは遠くから自分の名を呼ぶ声が聞こえたような気がした。
自分の脱走が見つかり捜索が始まっているのかも知れない。そう思ったが、折り悪くエイクは長けの高い草の中を這って進んでおり、容易に見つけてもらえそうになかった。
「助けてくれ、ここだ、助けて」
エイクは躊躇わずに叫んだ。しかし、その声もけして大きくはない。
気づいてもらえるか?いや、そもそも自分を呼ぶ声自体が幻聴だったのではないか?むしろ声を上げたせいで妖魔が寄ってきたらどうするのか?
いろいろな不安が渦巻いたが、今更躊躇っても仕方がない。
助けが近くに来ていると信じて叫び続けよう。そう思い定めた時、草を掻き分けこちらに近づいている音が聞こえた。
「こ、ここだ、助けて」
音の主が妖魔ではないことを祈りつつそう声を上げる。
音が近づいてくる速度が増し、やがて草をかき分けて一人の女性がエイクの前に姿を現した。
その姿を目にしたエイクは、一瞬痛みも疲労も忘れた。
「女神様?」
思わずそう口にしていた。
エイクは神話を良く知らない。
しかし、もしも美を司る女神という存在がいるならば、きっと目の前の人に違いないと思った。そう思わせるほどの美しさだった。
最上質の黒曜石のような艶のある黒髪は肩までの長さで揃えられ、前髪は眉の上で整えられている。
冷たさを感じさせる鋭利な美貌、切れ長の瞳、瞳の色も闇夜を思わせる漆黒だった。
代わりに肌は輝くような純白で、エイクはその美しさを何に例えてよいか分からなかった。
服装は飾り気のない灰色のローブを着ているだけで、そのローブはゆったりと広がり、体形を分からなくしていた。
しかし、その美しさが損なわれることは全くなかった。
その容貌は、人間離れしているといえるほどの美しさだったが、今はエイクのぼろぼろの姿を見た為か、目を見開き驚きを表していた。
「少年。随分酷い有様だな」
その美しい女性は呆れたような様子でそう言った。その声もまた美しかった。
「君は一体何処から這いずって来たんだ?」
そしてエイクの這った跡を目で追い、それが何処まで続いているのか一目では分からないことに気が付くとそう続けた。
「こんな状態で、並尋常のことではないぞ、死んでいないのが不思議なくらいだ。
いや、凄まじい執念と褒めるべきか?」
その声音からは、呆れよりも感嘆が感じられるようになっている。
「ふむ、最後まで諦めぬ強固な意志と断固たる行動。その結果、私が君を見つけることが出来た。
うん、すばらしい。君も運命のかけらを掴んだようだな」
エイクにはその女性が何を言っているのか良く分からなかったが、思いのほか沢山声を掛けて貰えたことが嬉しかった。
「ああ、すまん。死にかけだったな」
女はそういうと腰を落とし、見上げるエイクの額に右手を当てた。今までエイクが生きてきた中で、一度も感じたことがない心地よい感触だった。
すると、唐突にエイクの体から痛みが引いていく。
「もう大丈夫だ。とりあえず死ぬことはないから安心したまえ」
その言葉を聴き、気が緩んだエイクはついに意識を手放した。
死闘の末に敵を倒した。しかしそれはエイクが思い描いていた勝利とは程遠かった。
真の力が目覚めたわけでも、突如強大な能力が発現したわけでもない。
命をかけて死力を尽くし、ギリギリで勝利した。ただそれだけだった。
相変わらずエイクは無力で脆弱だ。
彼にはもう立ち上がる力すら残されていなかった。
―――ゴブリン1体と相打ち。
それは身を切るような努力の成果としては、余りにも哀れなものだった。
しかし、それでもエイクは足掻くのを止めようとは微塵も思わない。
(とにかく僕は勝った。そしてまだ生きている。
生き残ればきっと少しは強くなれる。なれるはずだ。生き残る。今はとにかく生き残るんだ)
彼はそう自分に言い聞かせ、野営地の方へと這いずり始めた。
何度も気を失いそうになりつつも、エイクは野営地へと進み続けた。
少しでも気を抜けば意識を失い、そのまま二度と目覚めないことになりかねない。そんな際どい状況の中で、エイクは遠くから自分の名を呼ぶ声が聞こえたような気がした。
自分の脱走が見つかり捜索が始まっているのかも知れない。そう思ったが、折り悪くエイクは長けの高い草の中を這って進んでおり、容易に見つけてもらえそうになかった。
「助けてくれ、ここだ、助けて」
エイクは躊躇わずに叫んだ。しかし、その声もけして大きくはない。
気づいてもらえるか?いや、そもそも自分を呼ぶ声自体が幻聴だったのではないか?むしろ声を上げたせいで妖魔が寄ってきたらどうするのか?
いろいろな不安が渦巻いたが、今更躊躇っても仕方がない。
助けが近くに来ていると信じて叫び続けよう。そう思い定めた時、草を掻き分けこちらに近づいている音が聞こえた。
「こ、ここだ、助けて」
音の主が妖魔ではないことを祈りつつそう声を上げる。
音が近づいてくる速度が増し、やがて草をかき分けて一人の女性がエイクの前に姿を現した。
その姿を目にしたエイクは、一瞬痛みも疲労も忘れた。
「女神様?」
思わずそう口にしていた。
エイクは神話を良く知らない。
しかし、もしも美を司る女神という存在がいるならば、きっと目の前の人に違いないと思った。そう思わせるほどの美しさだった。
最上質の黒曜石のような艶のある黒髪は肩までの長さで揃えられ、前髪は眉の上で整えられている。
冷たさを感じさせる鋭利な美貌、切れ長の瞳、瞳の色も闇夜を思わせる漆黒だった。
代わりに肌は輝くような純白で、エイクはその美しさを何に例えてよいか分からなかった。
服装は飾り気のない灰色のローブを着ているだけで、そのローブはゆったりと広がり、体形を分からなくしていた。
しかし、その美しさが損なわれることは全くなかった。
その容貌は、人間離れしているといえるほどの美しさだったが、今はエイクのぼろぼろの姿を見た為か、目を見開き驚きを表していた。
「少年。随分酷い有様だな」
その美しい女性は呆れたような様子でそう言った。その声もまた美しかった。
「君は一体何処から這いずって来たんだ?」
そしてエイクの這った跡を目で追い、それが何処まで続いているのか一目では分からないことに気が付くとそう続けた。
「こんな状態で、並尋常のことではないぞ、死んでいないのが不思議なくらいだ。
いや、凄まじい執念と褒めるべきか?」
その声音からは、呆れよりも感嘆が感じられるようになっている。
「ふむ、最後まで諦めぬ強固な意志と断固たる行動。その結果、私が君を見つけることが出来た。
うん、すばらしい。君も運命のかけらを掴んだようだな」
エイクにはその女性が何を言っているのか良く分からなかったが、思いのほか沢山声を掛けて貰えたことが嬉しかった。
「ああ、すまん。死にかけだったな」
女はそういうと腰を落とし、見上げるエイクの額に右手を当てた。今までエイクが生きてきた中で、一度も感じたことがない心地よい感触だった。
すると、唐突にエイクの体から痛みが引いていく。
「もう大丈夫だ。とりあえず死ぬことはないから安心したまえ」
その言葉を聴き、気が緩んだエイクはついに意識を手放した。
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