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第2章
45.身元引受
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全て思い通りにした後、エイクは身支度を整えつつ今後どうするかを考えた。
(ロドリゴ達と同じように男は皆殺しにして、ジュディアだけを捕らえてもいいが、やはり衛兵に届け出るべきだろうな)
そうして、あえてエンリケらを裁く裁判を開くことで、エーミールに自分を懐柔するつもりがまだあるのかどうかを、確かめる事が出来るのではないかとエイクは思った。
エイクを誘い出す為の手紙、バジリスク・ブラッドが浸み込んだソファー、エンリケ達の武器に塗られた毒、などの物証。
エイクが彼ら全員をそろって呼び出す事など不可能であるという状況証拠。
そして、この屋敷にエイクを案内した男に証言させる事も可能な事。
更には、エンリケらは実家から見放された身で、政治力など何もないこと。
これらを考え合わせれば、普通ならエンリケらが裁判で有罪にならないはずがない。
それを前提に、それ以上にエイクにとって有利な裁定がなされるか、それとも、エイクに不利な裁定がなされるか、それによってエーミールの意思を推し量ることが出来るだろう。
(もし俺を切り捨てるつもりなら、本格的に反対派閥と接触する方法を探る必要があるな)
エイクはそう考えていた。
(それはそうと、衛兵を呼んでくるまで、こいつらは無事でいられるかな?)
エイクにはそんな懸念もあった。
結局死んでいたのは4人で、エイクはエンリケらまだ息がある者達を、全て縛り上げていた。
エイクが衛兵に届け出て、衛兵がこの場にやってくるまで彼らを放置する事になるわけだが、ここは治安の悪い南新市街だ。その間の彼らの安全は保障できない。
特にジュディアは誰か男にでも見つかれば、恐らく連れ去られる事だろう。
最後まで激しく抵抗していた彼女だったが、容赦なく続けられたエイクの行為によって、ついには精魂つき果て、涙も枯れたようで、今はあられもない姿で手足を縛られたまま、床に転がされて身動き一つしないでいた。
(まあ、出来るだけ早く衛兵が駆けつけるように働きかけよう。それで駄目だったなら仕方がない)
そう割り切って、エイクはその場を後にし、最寄の衛兵詰所に向かったのだった。
幸いな事に、衛兵が駆けつけるまでジュディアらは無事で、息があった者全員が最低限の治療を受けた上で捕らえられることになった。
エンリケ達の攻撃を撃退した2日後、月が改まった9月1日。
その日は、シャムロック商会から、父ガイゼイクの屋敷がエイクに引き渡される日だった。
アルターをはじめ使用人たちは、朝から荷物の運び込みなどの作業をしていた。
だがエイクは、それには参加せず、1人ハイファ神殿へと赴いた。
エイクが捕らえたネメトの女神官ルイーザを引き取る為だ。
以前、ユリアヌス大司教から言われていたとおり、ルイーザもエイクを身元引受人として釈放される事に決まっていた。そして、屋敷の引渡しに合わせて、本日釈放される事になったのだった。
神殿を訪れたエイクは、またユリアヌスの私室に招かれ、ルイーザについて改めて説明を受けていた。
「あの娘も哀れと言うべきです。親も分からない孤児院育ちで、年端も行かないうちにグロチウスらに引き取られてしまった。
それで、ものの善悪も分からぬうちに、ネメトの教義を教え込まれた。
しかも、この場合は不幸にも、と言うべきなのでしょうが、彼女は天才だった。
歳若くして、斥候として、軽戦士として、そしてネメトの神聖術師として、高い技量を習得し、“呑み干すもの”の中で重要な地位に就くまでになってしまっていたのです。
闇教団の幹部となり、自ら犯罪行為に手を出してしまっていた以上、通常なら処刑は免れません。
しかし彼女の境遇を考えると、それは余りにも忍びない。
それで、処刑を避けるために、エイク様を利用させていただいたわけです」
エイクを利用する。という話しは、既に説明され、エイクも了承している事だった。
具体的には、エイクがルイーザの身柄を引き取る事を強く望んでいる。事件解決の最大の功労者であり、アークデーモンを倒して多数の人命を救ったエイクの頼みは無下に出来ない。という理屈で死一等を減じ、エイクを身元引受人として、その下で贖罪に励むということにして、釈放の運びになったのだという。
ユリアヌスはエイクの悪評につながるかもしれないといって恐縮していたが、エイクは全く気にならなかった。
悪評というのは、エイクが女好きだといった内容の事だろう。だがそれはただの事実であって、広まったところで今更悪評と言うには及ばない。
実際エイクは、ルイーザという女司祭を自分のものにしたいという欲望を持っていた。
確かに、エイクが何が何でも欲しいとまで主張したわけではないが、ユリアヌスが提示した筋書きと、事実との間にさほどの違いはない。
エイクとしては、ルイーザを丁重に扱うつもりはなかったので、むしろ後でそのことを咎められたくないと思っているくらいだった。
(まあ、処刑されるよりはましだと思って納得してもらおう)
エイクはそんな風に考えていた。
エイクが改めて全く問題ないと告げると、ユリアヌスは納得し、別の話しへと話題を進めた。
「“呑み干すもの”や、ローリンゲン侯爵の件について、王国政府の調査は全く進んでいないようです。
あの時裁判院の審議室に居た者達の中から、不審な者を見つけることも出来なかったとのことでした。
調査能力はあちらが上と考えて証拠一式もお渡ししたというのに、全く何をしておられるのか……」
「……」
ユリアヌスは政府の調査の状況に強い不満を持っているようだ。
政府の調査が中々進まないという事実は、エイクにとっても、大いに気になるところだった。なぜならそれは、政府内部に調査を意図的に遅れさせている者が存在する可能性を示唆しているからである。
エイクはその懸念は口にせず、ユリアヌスに答えた。
「元より政府任せにするつもりはありません。己自身で調べ、必ずや仇にたどり着いて見せます」
「左様ですな。もちろん我々もお力添えさせていただきます。
ガイゼイク殿を害した者は、闇の神々に通じている可能性も高い、誰はばかることなく協力することが出来るでしょう」
「よろしくお願いします」
ユリアヌスとそんな会話を交わした後、ルイーザの身柄がエイクに引き渡された。
ルイーザはエイクに対して怯えきっていたが、少なくとも逃げようとしたりはせず、従順だった。
エイクは彼女を伴って、改めて自分のものとなる、懐かしい父の屋敷へと向かった。
(ロドリゴ達と同じように男は皆殺しにして、ジュディアだけを捕らえてもいいが、やはり衛兵に届け出るべきだろうな)
そうして、あえてエンリケらを裁く裁判を開くことで、エーミールに自分を懐柔するつもりがまだあるのかどうかを、確かめる事が出来るのではないかとエイクは思った。
エイクを誘い出す為の手紙、バジリスク・ブラッドが浸み込んだソファー、エンリケ達の武器に塗られた毒、などの物証。
エイクが彼ら全員をそろって呼び出す事など不可能であるという状況証拠。
そして、この屋敷にエイクを案内した男に証言させる事も可能な事。
更には、エンリケらは実家から見放された身で、政治力など何もないこと。
これらを考え合わせれば、普通ならエンリケらが裁判で有罪にならないはずがない。
それを前提に、それ以上にエイクにとって有利な裁定がなされるか、それとも、エイクに不利な裁定がなされるか、それによってエーミールの意思を推し量ることが出来るだろう。
(もし俺を切り捨てるつもりなら、本格的に反対派閥と接触する方法を探る必要があるな)
エイクはそう考えていた。
(それはそうと、衛兵を呼んでくるまで、こいつらは無事でいられるかな?)
エイクにはそんな懸念もあった。
結局死んでいたのは4人で、エイクはエンリケらまだ息がある者達を、全て縛り上げていた。
エイクが衛兵に届け出て、衛兵がこの場にやってくるまで彼らを放置する事になるわけだが、ここは治安の悪い南新市街だ。その間の彼らの安全は保障できない。
特にジュディアは誰か男にでも見つかれば、恐らく連れ去られる事だろう。
最後まで激しく抵抗していた彼女だったが、容赦なく続けられたエイクの行為によって、ついには精魂つき果て、涙も枯れたようで、今はあられもない姿で手足を縛られたまま、床に転がされて身動き一つしないでいた。
(まあ、出来るだけ早く衛兵が駆けつけるように働きかけよう。それで駄目だったなら仕方がない)
そう割り切って、エイクはその場を後にし、最寄の衛兵詰所に向かったのだった。
幸いな事に、衛兵が駆けつけるまでジュディアらは無事で、息があった者全員が最低限の治療を受けた上で捕らえられることになった。
エンリケ達の攻撃を撃退した2日後、月が改まった9月1日。
その日は、シャムロック商会から、父ガイゼイクの屋敷がエイクに引き渡される日だった。
アルターをはじめ使用人たちは、朝から荷物の運び込みなどの作業をしていた。
だがエイクは、それには参加せず、1人ハイファ神殿へと赴いた。
エイクが捕らえたネメトの女神官ルイーザを引き取る為だ。
以前、ユリアヌス大司教から言われていたとおり、ルイーザもエイクを身元引受人として釈放される事に決まっていた。そして、屋敷の引渡しに合わせて、本日釈放される事になったのだった。
神殿を訪れたエイクは、またユリアヌスの私室に招かれ、ルイーザについて改めて説明を受けていた。
「あの娘も哀れと言うべきです。親も分からない孤児院育ちで、年端も行かないうちにグロチウスらに引き取られてしまった。
それで、ものの善悪も分からぬうちに、ネメトの教義を教え込まれた。
しかも、この場合は不幸にも、と言うべきなのでしょうが、彼女は天才だった。
歳若くして、斥候として、軽戦士として、そしてネメトの神聖術師として、高い技量を習得し、“呑み干すもの”の中で重要な地位に就くまでになってしまっていたのです。
闇教団の幹部となり、自ら犯罪行為に手を出してしまっていた以上、通常なら処刑は免れません。
しかし彼女の境遇を考えると、それは余りにも忍びない。
それで、処刑を避けるために、エイク様を利用させていただいたわけです」
エイクを利用する。という話しは、既に説明され、エイクも了承している事だった。
具体的には、エイクがルイーザの身柄を引き取る事を強く望んでいる。事件解決の最大の功労者であり、アークデーモンを倒して多数の人命を救ったエイクの頼みは無下に出来ない。という理屈で死一等を減じ、エイクを身元引受人として、その下で贖罪に励むということにして、釈放の運びになったのだという。
ユリアヌスはエイクの悪評につながるかもしれないといって恐縮していたが、エイクは全く気にならなかった。
悪評というのは、エイクが女好きだといった内容の事だろう。だがそれはただの事実であって、広まったところで今更悪評と言うには及ばない。
実際エイクは、ルイーザという女司祭を自分のものにしたいという欲望を持っていた。
確かに、エイクが何が何でも欲しいとまで主張したわけではないが、ユリアヌスが提示した筋書きと、事実との間にさほどの違いはない。
エイクとしては、ルイーザを丁重に扱うつもりはなかったので、むしろ後でそのことを咎められたくないと思っているくらいだった。
(まあ、処刑されるよりはましだと思って納得してもらおう)
エイクはそんな風に考えていた。
エイクが改めて全く問題ないと告げると、ユリアヌスは納得し、別の話しへと話題を進めた。
「“呑み干すもの”や、ローリンゲン侯爵の件について、王国政府の調査は全く進んでいないようです。
あの時裁判院の審議室に居た者達の中から、不審な者を見つけることも出来なかったとのことでした。
調査能力はあちらが上と考えて証拠一式もお渡ししたというのに、全く何をしておられるのか……」
「……」
ユリアヌスは政府の調査の状況に強い不満を持っているようだ。
政府の調査が中々進まないという事実は、エイクにとっても、大いに気になるところだった。なぜならそれは、政府内部に調査を意図的に遅れさせている者が存在する可能性を示唆しているからである。
エイクはその懸念は口にせず、ユリアヌスに答えた。
「元より政府任せにするつもりはありません。己自身で調べ、必ずや仇にたどり着いて見せます」
「左様ですな。もちろん我々もお力添えさせていただきます。
ガイゼイク殿を害した者は、闇の神々に通じている可能性も高い、誰はばかることなく協力することが出来るでしょう」
「よろしくお願いします」
ユリアヌスとそんな会話を交わした後、ルイーザの身柄がエイクに引き渡された。
ルイーザはエイクに対して怯えきっていたが、少なくとも逃げようとしたりはせず、従順だった。
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