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第4章
22.迷宮都市からの調査
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エイクが屋敷に戻った時、迷宮都市サルゴサから来たという2人の調査員は、まだ屋敷に留まっていた。
よほど早くエイクから証言を得たかったらしい。
エイクもその要望を拒む事はできず、直ぐに話をすることにした。
内容はエミリオから予め聞いていたとおり、“叡智への光”を討ち取ったことに関して、である。
エイクは特に隠し立てする事もなく質問に答えた。
“叡智への光”を討ち取ったことや、その後ゴルブロ一味と戦ったことについては、エイクにやましい点はない。あえて言えば、ミカゲと名乗っていた女がサキュバスだったことは秘密だが、そんなことはエイクの方で口にしなければ、ばれる事ではない。
それ以外については、下手に嘘をついても面倒な事になってしまい、得にはならないとエイクは考えていた。
「申し訳ないが確認させて欲しい。
その盗賊たちが待ち伏せていたのは、円形闘技場だったと言ったかな?」
エイクが、“叡智への光”を討ち取った後、逃げたミカゲを追って罠に嵌ったことを説明したところで、調査員の1人がそう聞き返してきた。
その声は、やや上ずっているように聞こえる。
「そうです。少なくとも私にはそう見えました。
中央に戦闘場所と思われる円形の広場があり、その周りは観客席。戦闘場所と観客席の間には透明の障壁。
典型的な古代魔法帝国時代の円形闘技場の作りです。大きさはそれほどではありませんでしたが、円形闘技場といって差し支えないはずです」
エイクはそう答えた。
「それは……」
エイクの答えを受けた調査員は、そう言って何事か考え込んだ。
(俺がゴルブロ達と戦った場所が未発見区域だと気が付いたな。
まあ、当然だ。今まで迷宮内に闘技場など見つかっていなかったんだから、その事を知っていれば直ぐに分かる。
もったいない気もするが、仕方がない)
エイクは調査員の様子を見ながらそんなことを考えていた。
未発見区域の情報を他者に隠しておけば、魔道具などの発見物を独占的に得る事が出来る。そして、迷宮内で強敵と戦う機会も得やすいだろう。
だが、そのためには“叡智への光”と戦った場所を誤魔化さなくてはならない。なぜならその場所自体が、既に未発見区域だったのだから。
しかし、そのようなことをすれば当然かなりの不信感をもたれることになる。
そんな状態のまま頻繁に迷宮に入って魔道具などを回収していれば、余りにも目立ってしまい直ぐに疑われるだろう。
また、エイクは斥候の技術をまともに持っていないから、迷宮にもぐるならセレナかシャルシャーラに補助をしてもらう必要がある。
だが、彼女達は“虎使い”などに対する調査もしてもらわなければならない。
迷宮に潜っている時間などあるはずがない。
要するに今のエイクには未発見区域に関する情報を独占しても、有効に使うことが出来ないのだ。
だからエイクは、正式な調査を受けたなら、サルゴサの迷宮内で経験した事を基本的には包み隠さずに話すことにしたのである。
つまり、エイクがこの情報を独占していられるのは、サルゴサの街から官憲がやってくるまでの数日間だけということになる。
しかし、この重要な情報を全く活用しないのはもったいない。そう考えたエイクは、速やかにシャムロック商会に情報を伝えた。
サルゴサの街も重要な拠点のひとつとして、迷宮からの産物も扱っているいるシャムロック商会なら、公になるよりも数日早く知るだけでも、この情報を有効に活用出来るだろう。だから、情報を渡すことで多少は恩を売ることが出来ると考えたのだ。
「それで、どの後のことも教えて欲しい」
調査員が興奮した様子で質問を再開した。やはり、今聞いた情報の意味を理解しているようだ。
「私が入って来た通路は爆裂の魔石を使った罠で崩されてしまいました。ですので、反対側にあった通路を使って闘技場から逃げ出しました。
ただ、その結果自分がどこにいるか分からなくなってしまったので、ほとんど丸一日近く彷徨った挙句、行きで通った通路に戻ってこられて、それでどうにか迷宮から脱出しました。
そして、サルゴサに戻るのは危険だと思ったので、そのまま王都に向かったんです。
サルゴサの街での私の行動は以上で全てです」
「丸1日彷徨った……」
調査員はその点が気になったらしい。
当然だろう。円形闘技場が未発見区域にあったなら、その先に続く場所も未発見区域という事になる。
そして、その場所で冒険者が丸1日も彷徨ったということは、その場所はかなり広いということだ。
要するにエイクからもたらされた情報は、大規模の未発見区域に関するものということになる。
調査員の本来の目的は、“叡智への光”が倒された場所の特定や、その時の状況の確認だったはずだが、そんなものとは比べものにならない重大情報を得る事になってしまったのだ。
「す、すまないエイク殿、その闘技場に入り込む少し前や出た後の場所で、気になるようなものはなかっただろうか?
何か大事なものを守っているように見える場所とか、或いは階段だとか」
調査員がこのような質問をしたのは、迷宮核の存在を想像したからだろう。
迷宮核が見つかっていない迷宮において、大規模な未発見区域が発見されたとなれば、その場所に、或いはその先に、迷宮核が存在する事を想像するのは当然だ。
エイクは、調査員のそんな心情を察しつつ答えた。
「下に行く階段はありました。私の目的は地上に戻る事でしたから、当然その先のことは分かりませんが」
「なッ!そ、そうか……」
調査員はそう言って絶句した。下に向かう階段があるという事は、未発見区域が更に広い事を示している。その先に迷宮核がある可能性も、いよいよ高まったと考えたのだろう。
そしてその考えは正解だった。
正にその未発見区域は、迷宮核へと至るものだったのだ。
現在知られているサルゴサの迷宮は地下6階までとなっている。
今回エイクが誘い込まれた未発見区域は、既知の区域の地下3階にある隠し扉から入る区画で、その深さは地下9階に達する。要するに既知の範囲にほぼ匹敵する規模だった。
そして、その地下9階に更に隠し扉があり、その先が迷宮核の間になっている。
エイクはシャルシャーラから既にこのことを聞いて知っていた。
迷宮核の存在を聞いた時には、当然エイクも興奮した。
迷宮核を発見し、その攻略条件を解き明かして迷宮の主になる。そのことにロマンを感じずにはいられなかったからだ。また、迷宮を支配すれば、“虎使い”と戦う為の大きな力を得られるだろうとも思った。
だがエイクは、迷宮核の支配を目指すことは諦めていた。
それは、とてもではないが一夕一朝で達成できる事ではなく、そんなことに費やしている時間があるとも思えなかったからである。
シャルシャーラはさすがに迷宮核を支配する方法までは知らなかった。
というよりも、シャルシャーラが管理権限の一部を与えられているのは、未発見区域の地下3階部分までで、その下には降りられないようにされていたそうだ。
彼女が知っていたのは、地下9階の隠し扉の先に迷宮核があり、それは凶悪な罠と強大な魔物によって守られているということだけで、地下4階から9階までの具体的な状況は知らされていなかった。
その意味でも、迷宮核の支配に挑むのは非現実的だ。
むしろエイクは、シャルシャーラから詳細な情報を得る事が出来た、地下3階で活動するつもりだった。
今しがた、地下4階への階段があるとあえて告げたのは、他の冒険者たちがさっさと地下4階よりも下の階層に進んでくれた方が、自分が地下3階で活動するのに好都合だと思ったからである。
「……エイク殿。大変申し訳ないが、我々と共にサルゴサに来ていただきたい。“叡智への光”の犯行現場を特定する必要がある。可能なら明日朝一番にでもお願いしたい」
調査員はそう告げた。
だが、実際に特定したいのは、未発見区域への入り口だろう。
それにしても明日の朝すぐとは急な話である。
この調査員達は未発見区域に関する情報を、それほど貴重なものと考えているのだ。
「明日の午前中に予定があります。すみませんがその後でお願いします」
「しかし……、いや、無理強いするわけではないが……。
すなまい、少し相談させてくれ」
そう言うと、その調査員はもう1人の調査員と話し始めた。
「すまなかったエイク殿。それでは、明日の午後直ぐに出発してもらう事でよいだろうか」
相談を終えた調査員がそう告げた。
「それで構いません」
「ありがたい。それでは明日午後また来させてもらう。馬車はこちらで用意させてもらうから、それまでに出発の準備を整えておいてくれ」
「分かりました」
(慌しい話だが、出来るだけ早く済ませたほうが俺にとっても都合がいい)
エイクはそう考えていた。
「ところで、私からも一つ伺いたい事があるのですが、よいでしょうか」
エイクは調査員に向かってそう問いかけた。
「何だろう?」
「私を罠に嵌める為の依頼を出した、ベルヤミン商会への調査はどうなっていますか。
結局彼らは“叡智への光”とグルだったのでしょうか?」
「それについては、ベルヤミン商会は関与を否定している。
全てはヘラルドという男が個人として行った犯行で、商会としてエイク殿に偽依頼など出してはいないとの主張だ。
といっても、ヘラルドという男は姿をくらませてしまっている。そんな状況では、ベルヤミン商会の言い分をそのまま信じることも出来ない。なので、調査中だ」
(シャルシャーラが言っていた事とほぼ変わらないな)
エイクはそんな事を思った。この件に関しても、既にシャルシャーラから話を聞いていたからだ。
シャルシャーラが言うには、エイクを迷宮に誘う具体的な案を考えたのはロウダーだったそうだ。
その案というのが、数年前から秘かに結託していたヘラルドを使って、偽の指名依頼を出すというものだった。
ロウダーが直接連絡を取っていたのはあくまでヘラルド個人であり、ヘラルドはこのことを商会には秘密にしていると述べていたそうだ。
しかし、ロウダーはそのヘラルドの言葉に疑いを持っていたらしい。
ヘラルドの行いが、結果的にベルヤミン商会の利益にもつながっていたからだ。
ヘラルドはロウダーと秘かに結託する事で個人的な利益を得ていたが、同時にベルヤミン商会にも利益を出すように動いて、その結果として商会内での自分の立場を高めていた。
それは、結局はヘラルドの利益になっているのだから不自然な行為ではない。
しかし、ヘラルドがロウダーと結託した事で、ベルヤミン商会も利益を得ていたということもまた事実なのである。
「ロウダーは、実際にはヘラルドはベルヤミン商会の命に従って動いていたのではないかと睨んでいて、ゆくゆくはベルヤミン商会にも喰らいつく事も考えていたようでした。
ただ、はっきりとした証拠をつかんでいたわけでもありません」
シャルシャーラは、エイクにそう告げていた。
(仮にベルヤミン商会が、俺を嵌めるために偽依頼を出したならムカつくが、“虎使い”や“預言者”の調査の方が優先だ。どちらにしろ、偽依頼を出した件の首謀者はロウダーだったんだしな。
少なくとも今の状況で、こちらからベルヤミン商会をどうこうしている時間はない。
とりあえずは、ベルヤミン商会が悪徳商会である可能性も考慮して、注意していればいいだろう)
エイクはそう考えておく事にした。
「そうですか。偽依頼で命が狙われるというのは、冒険者にとっては非常に重大な問題です。真相がはっきりと究明される事を願っています」
エイクはとりあえずそう告げた。
「任せてくれ。
それでは明日はよろしくお願いする」
そう言って、サルゴサの街からやって来た調査員達は、エイクの屋敷を後にした。
よほど早くエイクから証言を得たかったらしい。
エイクもその要望を拒む事はできず、直ぐに話をすることにした。
内容はエミリオから予め聞いていたとおり、“叡智への光”を討ち取ったことに関して、である。
エイクは特に隠し立てする事もなく質問に答えた。
“叡智への光”を討ち取ったことや、その後ゴルブロ一味と戦ったことについては、エイクにやましい点はない。あえて言えば、ミカゲと名乗っていた女がサキュバスだったことは秘密だが、そんなことはエイクの方で口にしなければ、ばれる事ではない。
それ以外については、下手に嘘をついても面倒な事になってしまい、得にはならないとエイクは考えていた。
「申し訳ないが確認させて欲しい。
その盗賊たちが待ち伏せていたのは、円形闘技場だったと言ったかな?」
エイクが、“叡智への光”を討ち取った後、逃げたミカゲを追って罠に嵌ったことを説明したところで、調査員の1人がそう聞き返してきた。
その声は、やや上ずっているように聞こえる。
「そうです。少なくとも私にはそう見えました。
中央に戦闘場所と思われる円形の広場があり、その周りは観客席。戦闘場所と観客席の間には透明の障壁。
典型的な古代魔法帝国時代の円形闘技場の作りです。大きさはそれほどではありませんでしたが、円形闘技場といって差し支えないはずです」
エイクはそう答えた。
「それは……」
エイクの答えを受けた調査員は、そう言って何事か考え込んだ。
(俺がゴルブロ達と戦った場所が未発見区域だと気が付いたな。
まあ、当然だ。今まで迷宮内に闘技場など見つかっていなかったんだから、その事を知っていれば直ぐに分かる。
もったいない気もするが、仕方がない)
エイクは調査員の様子を見ながらそんなことを考えていた。
未発見区域の情報を他者に隠しておけば、魔道具などの発見物を独占的に得る事が出来る。そして、迷宮内で強敵と戦う機会も得やすいだろう。
だが、そのためには“叡智への光”と戦った場所を誤魔化さなくてはならない。なぜならその場所自体が、既に未発見区域だったのだから。
しかし、そのようなことをすれば当然かなりの不信感をもたれることになる。
そんな状態のまま頻繁に迷宮に入って魔道具などを回収していれば、余りにも目立ってしまい直ぐに疑われるだろう。
また、エイクは斥候の技術をまともに持っていないから、迷宮にもぐるならセレナかシャルシャーラに補助をしてもらう必要がある。
だが、彼女達は“虎使い”などに対する調査もしてもらわなければならない。
迷宮に潜っている時間などあるはずがない。
要するに今のエイクには未発見区域に関する情報を独占しても、有効に使うことが出来ないのだ。
だからエイクは、正式な調査を受けたなら、サルゴサの迷宮内で経験した事を基本的には包み隠さずに話すことにしたのである。
つまり、エイクがこの情報を独占していられるのは、サルゴサの街から官憲がやってくるまでの数日間だけということになる。
しかし、この重要な情報を全く活用しないのはもったいない。そう考えたエイクは、速やかにシャムロック商会に情報を伝えた。
サルゴサの街も重要な拠点のひとつとして、迷宮からの産物も扱っているいるシャムロック商会なら、公になるよりも数日早く知るだけでも、この情報を有効に活用出来るだろう。だから、情報を渡すことで多少は恩を売ることが出来ると考えたのだ。
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「私が入って来た通路は爆裂の魔石を使った罠で崩されてしまいました。ですので、反対側にあった通路を使って闘技場から逃げ出しました。
ただ、その結果自分がどこにいるか分からなくなってしまったので、ほとんど丸一日近く彷徨った挙句、行きで通った通路に戻ってこられて、それでどうにか迷宮から脱出しました。
そして、サルゴサに戻るのは危険だと思ったので、そのまま王都に向かったんです。
サルゴサの街での私の行動は以上で全てです」
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調査員はその点が気になったらしい。
当然だろう。円形闘技場が未発見区域にあったなら、その先に続く場所も未発見区域という事になる。
そして、その場所で冒険者が丸1日も彷徨ったということは、その場所はかなり広いということだ。
要するにエイクからもたらされた情報は、大規模の未発見区域に関するものということになる。
調査員の本来の目的は、“叡智への光”が倒された場所の特定や、その時の状況の確認だったはずだが、そんなものとは比べものにならない重大情報を得る事になってしまったのだ。
「す、すまないエイク殿、その闘技場に入り込む少し前や出た後の場所で、気になるようなものはなかっただろうか?
何か大事なものを守っているように見える場所とか、或いは階段だとか」
調査員がこのような質問をしたのは、迷宮核の存在を想像したからだろう。
迷宮核が見つかっていない迷宮において、大規模な未発見区域が発見されたとなれば、その場所に、或いはその先に、迷宮核が存在する事を想像するのは当然だ。
エイクは、調査員のそんな心情を察しつつ答えた。
「下に行く階段はありました。私の目的は地上に戻る事でしたから、当然その先のことは分かりませんが」
「なッ!そ、そうか……」
調査員はそう言って絶句した。下に向かう階段があるという事は、未発見区域が更に広い事を示している。その先に迷宮核がある可能性も、いよいよ高まったと考えたのだろう。
そしてその考えは正解だった。
正にその未発見区域は、迷宮核へと至るものだったのだ。
現在知られているサルゴサの迷宮は地下6階までとなっている。
今回エイクが誘い込まれた未発見区域は、既知の区域の地下3階にある隠し扉から入る区画で、その深さは地下9階に達する。要するに既知の範囲にほぼ匹敵する規模だった。
そして、その地下9階に更に隠し扉があり、その先が迷宮核の間になっている。
エイクはシャルシャーラから既にこのことを聞いて知っていた。
迷宮核の存在を聞いた時には、当然エイクも興奮した。
迷宮核を発見し、その攻略条件を解き明かして迷宮の主になる。そのことにロマンを感じずにはいられなかったからだ。また、迷宮を支配すれば、“虎使い”と戦う為の大きな力を得られるだろうとも思った。
だがエイクは、迷宮核の支配を目指すことは諦めていた。
それは、とてもではないが一夕一朝で達成できる事ではなく、そんなことに費やしている時間があるとも思えなかったからである。
シャルシャーラはさすがに迷宮核を支配する方法までは知らなかった。
というよりも、シャルシャーラが管理権限の一部を与えられているのは、未発見区域の地下3階部分までで、その下には降りられないようにされていたそうだ。
彼女が知っていたのは、地下9階の隠し扉の先に迷宮核があり、それは凶悪な罠と強大な魔物によって守られているということだけで、地下4階から9階までの具体的な状況は知らされていなかった。
その意味でも、迷宮核の支配に挑むのは非現実的だ。
むしろエイクは、シャルシャーラから詳細な情報を得る事が出来た、地下3階で活動するつもりだった。
今しがた、地下4階への階段があるとあえて告げたのは、他の冒険者たちがさっさと地下4階よりも下の階層に進んでくれた方が、自分が地下3階で活動するのに好都合だと思ったからである。
「……エイク殿。大変申し訳ないが、我々と共にサルゴサに来ていただきたい。“叡智への光”の犯行現場を特定する必要がある。可能なら明日朝一番にでもお願いしたい」
調査員はそう告げた。
だが、実際に特定したいのは、未発見区域への入り口だろう。
それにしても明日の朝すぐとは急な話である。
この調査員達は未発見区域に関する情報を、それほど貴重なものと考えているのだ。
「明日の午前中に予定があります。すみませんがその後でお願いします」
「しかし……、いや、無理強いするわけではないが……。
すなまい、少し相談させてくれ」
そう言うと、その調査員はもう1人の調査員と話し始めた。
「すまなかったエイク殿。それでは、明日の午後直ぐに出発してもらう事でよいだろうか」
相談を終えた調査員がそう告げた。
「それで構いません」
「ありがたい。それでは明日午後また来させてもらう。馬車はこちらで用意させてもらうから、それまでに出発の準備を整えておいてくれ」
「分かりました」
(慌しい話だが、出来るだけ早く済ませたほうが俺にとっても都合がいい)
エイクはそう考えていた。
「ところで、私からも一つ伺いたい事があるのですが、よいでしょうか」
エイクは調査員に向かってそう問いかけた。
「何だろう?」
「私を罠に嵌める為の依頼を出した、ベルヤミン商会への調査はどうなっていますか。
結局彼らは“叡智への光”とグルだったのでしょうか?」
「それについては、ベルヤミン商会は関与を否定している。
全てはヘラルドという男が個人として行った犯行で、商会としてエイク殿に偽依頼など出してはいないとの主張だ。
といっても、ヘラルドという男は姿をくらませてしまっている。そんな状況では、ベルヤミン商会の言い分をそのまま信じることも出来ない。なので、調査中だ」
(シャルシャーラが言っていた事とほぼ変わらないな)
エイクはそんな事を思った。この件に関しても、既にシャルシャーラから話を聞いていたからだ。
シャルシャーラが言うには、エイクを迷宮に誘う具体的な案を考えたのはロウダーだったそうだ。
その案というのが、数年前から秘かに結託していたヘラルドを使って、偽の指名依頼を出すというものだった。
ロウダーが直接連絡を取っていたのはあくまでヘラルド個人であり、ヘラルドはこのことを商会には秘密にしていると述べていたそうだ。
しかし、ロウダーはそのヘラルドの言葉に疑いを持っていたらしい。
ヘラルドの行いが、結果的にベルヤミン商会の利益にもつながっていたからだ。
ヘラルドはロウダーと秘かに結託する事で個人的な利益を得ていたが、同時にベルヤミン商会にも利益を出すように動いて、その結果として商会内での自分の立場を高めていた。
それは、結局はヘラルドの利益になっているのだから不自然な行為ではない。
しかし、ヘラルドがロウダーと結託した事で、ベルヤミン商会も利益を得ていたということもまた事実なのである。
「ロウダーは、実際にはヘラルドはベルヤミン商会の命に従って動いていたのではないかと睨んでいて、ゆくゆくはベルヤミン商会にも喰らいつく事も考えていたようでした。
ただ、はっきりとした証拠をつかんでいたわけでもありません」
シャルシャーラは、エイクにそう告げていた。
(仮にベルヤミン商会が、俺を嵌めるために偽依頼を出したならムカつくが、“虎使い”や“預言者”の調査の方が優先だ。どちらにしろ、偽依頼を出した件の首謀者はロウダーだったんだしな。
少なくとも今の状況で、こちらからベルヤミン商会をどうこうしている時間はない。
とりあえずは、ベルヤミン商会が悪徳商会である可能性も考慮して、注意していればいいだろう)
エイクはそう考えておく事にした。
「そうですか。偽依頼で命が狙われるというのは、冒険者にとっては非常に重大な問題です。真相がはっきりと究明される事を願っています」
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