205 / 373
第4章
23.注意すべき者①
しおりを挟む
調査員達を送り出した後、リーリアがエイクに話しかけた。
「先ほどからテティス様がお待ちです。エイク様とお話しをしたい事があるとのことです」
「そうか、俺も彼女に頼みたいことがあった。ちょうどいい直ぐに通してくれ」
エイクは、そう指示した。
部屋に入って来たテティスに、エイクが声をかけた。
「話したい事というのは何についてだ?」
「はい、カテリーナとジュディアについて、エイク様が知っている事を教えて欲しいと思って来ました。
今までの行いとか、人となりとか、そういったことです」
「なぜ今更?」
「仮にも彼女達を束ねるなら、やはりそういった事も知っていた方がいいかと思いまして」
(リーダー役を真面目にするつもりになってくれたのかな?
だとすれば、俺にとってはありがたい話だ。俺が知っていることくらい伝えても問題はない。もっとも、たいしたことは知らないが)
エイクはそんなことを考え、テティスに答えた。
「そうか。まあ、俺も別に彼女達のことに詳しいわけじゃあないが、いいか?」
「構いません、お願いします」
「それじゃあ、そうだな……」
エイクはそう言って語り始めた。
「ありがとうございました」
エイクの話しが一通り終わったところで、テティスがそう告げた。
「ところで、エイク様も私に御用があったと伺っていますが?」
そして、更にそう続ける。
「ああ、お前達に受けて欲しい仕事がある。炎獅子隊の妖魔討伐の補助だ」
そういってエイクはその依頼の概要を説明した。
それをフィントリッドと話したことも、フィントリッドがこれに対応して妖魔の様子をうかがうつもりであることもあわせて伝えた。
「討伐側に参加することで、何らかの情報を得られるかも知れない。それは俺にとってもフィントリッドにとっても有益なことだ。
それに、お前たちの強さに見合った敵と戦える可能性も十分にあるだろう」
そしてエイクはそうまとめた。
「そうですね。おっしゃる通りだと思います」
「それからもう一つ、今回の妖魔討伐作戦は相当に大規模で、チムル村も作戦の範囲に含まれている。俺が前に妖魔から救った辺境の村だ。
せっかく一度救って、今後は拠点にする予定もある村に被害が出てもつまらない。
チムル村を任務地にする形で、この仕事を受けて欲しい。そして出来るだけ村人たちに被害が出ないようにして欲しい」
チムル村は、王都アイラナと迷宮都市サルゴサのおよそ中間地点にある。
一般にチムル村までが王都アイラナの管轄範囲で、その北にある辺境の村はサルゴサの街の管轄範囲とされていた。
今回予定されている妖魔討伐作戦は、炎獅子隊だけではなく王都の衛兵隊も大動員され、更にサルゴサの街の守備隊や冒険者とも連携して行われる。
炎獅子隊及び王都の衛兵隊が管轄する地域の最北端であるチムル村も作戦の範囲に含まれており、拠点の一つとされる予定だった。
エイクはその結果チムル村に被害が生じる事を危惧していた。
「私は全く構いません。その依頼を受けておくことにします」
「そうか。頼んだ」
「……ご用はそれだけですか?」
「ああ、そっちは他に何かあるのか?」
「いいえ。それでは失礼します」
テティスはそう告げて退室した。
(拍子抜けでしたね)
エイクの下を辞したテティスはそう思った。
彼女はエイクが用があると言っていると聞いて、また体を求められるかと思っていたのである。
だが、これは考えすぎだった。
エイクは、今は早く剣の鍛錬をしたいと思っていた。預言者やフィントリッドに比べれば、自分はまだまだ弱小の存在に過ぎないと考え、一刻も早く強くならねばならないと思って、また焦りにも似た感情を持ってしまっていたからだ。
テティスは、気持ちを切り替えて別の事を考え始めた。自分が率いている冒険者パーティ“黄昏の蛇”のメンバーの事だ。
彼女がわざわざエイクの話を聞きに来たのは、その事について考えるためである。
テティスはパーティメンバーを統率することが、最初に考えていたよりも面倒な事になりそうだと思っていた。
(カテリーナは問題ないわ。彼女の行動は理解できる)
テティスはカテリーナと何度か直接話しており、彼女の事情についてエイクよりも詳しくなっていた。
例えば、エイクは、カテリーナは下級貴族の出だが、堅苦しいのを嫌って実家を飛び出したらしいと語った。しかしテティスは、事情はもう少し深刻で、カテリーナの実家に対する反感は相当に強い事を承知していた。
カテリーナは実家に対する強い反発心から、あえて貴族が忌避する古語魔法を学んだ。
そして、実家に対する当てつけのように非行をなし、あえて、冒険者などの恋人となり、自らも冒険者として働くようになった。
その恋人としたテオドリックが、闇信仰にまで手を出す、極悪人と言えるほど人間だとは最初は思っていなかったようだが、結局カテリーナはテオドリックに引きずられるようにして、落ちるところまで落ちてしまったのである。
その行いは愚かとしか言いようがないものだし、結局犯罪組織に馴染んでしまっていたあたり、カテリーナ自身もやはり悪人だと言わざるを得ない。
しかし、それは流された結果であり、確固たる信念があって悪を為していたわけではない。愚かな行いではあるが、異常な行いとまではいえない。
そんなカテリーナは、テティスにとって理解しやすい存在であり、むしろ扱いやすい相手だ。
テティスは他のメンバーの事に考えを進める。
(ルイーザには注意がいるわ)
テティスはルイーザの事を警戒していた。彼女から何か底知れない不気味さを感じる事があったからだ。
しかし、幼いころから闇教団に育てられ、英才教育を受けていたという身の上を考えれば、それはむしろ当然とも思える。
そして、今のルイーザは、エイクに対して従順そのもので、テティスのいう事もよく聞いていた。
闇教団によって、教主に服従するように教育されていたためだろう。エイクのことを教主に代わって服従すべき相手と認識しているようだ。
一応注意を怠るべきではないが、当面問題はない。
(一番の問題は、やっぱりジュディアね)
そして、テティスは最後のメンバーについて考えた。
ジュディアの行動は普通とは思えなかった。
「先ほどからテティス様がお待ちです。エイク様とお話しをしたい事があるとのことです」
「そうか、俺も彼女に頼みたいことがあった。ちょうどいい直ぐに通してくれ」
エイクは、そう指示した。
部屋に入って来たテティスに、エイクが声をかけた。
「話したい事というのは何についてだ?」
「はい、カテリーナとジュディアについて、エイク様が知っている事を教えて欲しいと思って来ました。
今までの行いとか、人となりとか、そういったことです」
「なぜ今更?」
「仮にも彼女達を束ねるなら、やはりそういった事も知っていた方がいいかと思いまして」
(リーダー役を真面目にするつもりになってくれたのかな?
だとすれば、俺にとってはありがたい話だ。俺が知っていることくらい伝えても問題はない。もっとも、たいしたことは知らないが)
エイクはそんなことを考え、テティスに答えた。
「そうか。まあ、俺も別に彼女達のことに詳しいわけじゃあないが、いいか?」
「構いません、お願いします」
「それじゃあ、そうだな……」
エイクはそう言って語り始めた。
「ありがとうございました」
エイクの話しが一通り終わったところで、テティスがそう告げた。
「ところで、エイク様も私に御用があったと伺っていますが?」
そして、更にそう続ける。
「ああ、お前達に受けて欲しい仕事がある。炎獅子隊の妖魔討伐の補助だ」
そういってエイクはその依頼の概要を説明した。
それをフィントリッドと話したことも、フィントリッドがこれに対応して妖魔の様子をうかがうつもりであることもあわせて伝えた。
「討伐側に参加することで、何らかの情報を得られるかも知れない。それは俺にとってもフィントリッドにとっても有益なことだ。
それに、お前たちの強さに見合った敵と戦える可能性も十分にあるだろう」
そしてエイクはそうまとめた。
「そうですね。おっしゃる通りだと思います」
「それからもう一つ、今回の妖魔討伐作戦は相当に大規模で、チムル村も作戦の範囲に含まれている。俺が前に妖魔から救った辺境の村だ。
せっかく一度救って、今後は拠点にする予定もある村に被害が出てもつまらない。
チムル村を任務地にする形で、この仕事を受けて欲しい。そして出来るだけ村人たちに被害が出ないようにして欲しい」
チムル村は、王都アイラナと迷宮都市サルゴサのおよそ中間地点にある。
一般にチムル村までが王都アイラナの管轄範囲で、その北にある辺境の村はサルゴサの街の管轄範囲とされていた。
今回予定されている妖魔討伐作戦は、炎獅子隊だけではなく王都の衛兵隊も大動員され、更にサルゴサの街の守備隊や冒険者とも連携して行われる。
炎獅子隊及び王都の衛兵隊が管轄する地域の最北端であるチムル村も作戦の範囲に含まれており、拠点の一つとされる予定だった。
エイクはその結果チムル村に被害が生じる事を危惧していた。
「私は全く構いません。その依頼を受けておくことにします」
「そうか。頼んだ」
「……ご用はそれだけですか?」
「ああ、そっちは他に何かあるのか?」
「いいえ。それでは失礼します」
テティスはそう告げて退室した。
(拍子抜けでしたね)
エイクの下を辞したテティスはそう思った。
彼女はエイクが用があると言っていると聞いて、また体を求められるかと思っていたのである。
だが、これは考えすぎだった。
エイクは、今は早く剣の鍛錬をしたいと思っていた。預言者やフィントリッドに比べれば、自分はまだまだ弱小の存在に過ぎないと考え、一刻も早く強くならねばならないと思って、また焦りにも似た感情を持ってしまっていたからだ。
テティスは、気持ちを切り替えて別の事を考え始めた。自分が率いている冒険者パーティ“黄昏の蛇”のメンバーの事だ。
彼女がわざわざエイクの話を聞きに来たのは、その事について考えるためである。
テティスはパーティメンバーを統率することが、最初に考えていたよりも面倒な事になりそうだと思っていた。
(カテリーナは問題ないわ。彼女の行動は理解できる)
テティスはカテリーナと何度か直接話しており、彼女の事情についてエイクよりも詳しくなっていた。
例えば、エイクは、カテリーナは下級貴族の出だが、堅苦しいのを嫌って実家を飛び出したらしいと語った。しかしテティスは、事情はもう少し深刻で、カテリーナの実家に対する反感は相当に強い事を承知していた。
カテリーナは実家に対する強い反発心から、あえて貴族が忌避する古語魔法を学んだ。
そして、実家に対する当てつけのように非行をなし、あえて、冒険者などの恋人となり、自らも冒険者として働くようになった。
その恋人としたテオドリックが、闇信仰にまで手を出す、極悪人と言えるほど人間だとは最初は思っていなかったようだが、結局カテリーナはテオドリックに引きずられるようにして、落ちるところまで落ちてしまったのである。
その行いは愚かとしか言いようがないものだし、結局犯罪組織に馴染んでしまっていたあたり、カテリーナ自身もやはり悪人だと言わざるを得ない。
しかし、それは流された結果であり、確固たる信念があって悪を為していたわけではない。愚かな行いではあるが、異常な行いとまではいえない。
そんなカテリーナは、テティスにとって理解しやすい存在であり、むしろ扱いやすい相手だ。
テティスは他のメンバーの事に考えを進める。
(ルイーザには注意がいるわ)
テティスはルイーザの事を警戒していた。彼女から何か底知れない不気味さを感じる事があったからだ。
しかし、幼いころから闇教団に育てられ、英才教育を受けていたという身の上を考えれば、それはむしろ当然とも思える。
そして、今のルイーザは、エイクに対して従順そのもので、テティスのいう事もよく聞いていた。
闇教団によって、教主に服従するように教育されていたためだろう。エイクのことを教主に代わって服従すべき相手と認識しているようだ。
一応注意を怠るべきではないが、当面問題はない。
(一番の問題は、やっぱりジュディアね)
そして、テティスは最後のメンバーについて考えた。
ジュディアの行動は普通とは思えなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
↓
PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる