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第4章
28.サルゴサの迷宮未発見区域へ③
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そうこうしていると、魔術師が振り返って告げた。
「駄目です。直ぐに扱えないように制限がかけられています。これの解除は私の手には負えません。一度戻って、もっと専門の賢者に見てもらう必要があります。
いや、サルゴサの街にいる者では無理かも。場合によっては、王都の大図書館か賢者の学院に協力を頼む必要があるかも知れません」
(そんな馬鹿な。そんなに難解なはずがない)
エイクはそう思った。
古代魔法帝国の迷宮は遊戯の場として作られたものであり、基本的に攻略不可能にはなっていない。攻略不可能では遊戯にならないからだ。
簡単には開けられないようになっている隠し扉はあっても、絶対に開けられない扉は存在しないはずである。
ましてこの隠し扉は、迷宮全体の中間地点程度の場所に設置されているものだ。それほど極端に開け難くされているとは、エイクには思えなかった。
ところが、調査員達は魔術師の言い分を受け入れ「やむを得んな」などと口にしている。
(こんなところで、そんなに時間をとられてたまるか)
そう思ったエイクは、「すみませんが私にも見せてください」と告げて、制御盤の前に進んだ。
制御盤には、夥しい量の細かい古語文字が浮かんでいる。エイクはそれを素早く読んだ。
(やはり、そこまで難しくはないじゃあないか)
そして、そう考えつつ、浮かんでいる古語文字の中の幾つかの単語の場所を特定の順番で触れた。
すると、制御盤の光が強くなり、文字が消える。そこに指を使って特定の古語を順番に書き込む。
しばらくすると、再び夥しい文字が制御盤を埋め尽くす。エイクはそれを読み込み、また解除条件を入力した。
それが、3回繰り返されたところで、エイクが告げる。
「解除できました。いつでも開けられます。どうしますか?」
「ほ、本当か?」
そう言って魔術師が制御盤に向かう。
「た、確かに解除されている」
そして、しばらくしてからそう告げて、エイクのほうに振り向いた。
「素晴らしいエイク殿、無双の戦士である上に、古代魔法帝国の知識にこれほど精通しておられるとは、お見それしました」
「私のような者にとっては、知識は生き残る為にどうしても必要なものです。それなりには学んでいました」
そう答えたエイクだったが、内心では不快感を更に強めていた。エイクは、賞賛の言葉は自分にとって毒である。と、そう思っていたからだ。
(あんたがものを知らないだけだろう)
そして、エイクは内心でそう呟いていた。
だが、この場合どちらかといえば魔術師の評価の方が事実に近い。
エイクの持つ知識はかなり偏っていたが、その中でも魔物や魔法に対するものなど冒険や戦闘に有用なものはかなりの水準に達している。
そして、古代魔法帝国の魔法装置に関する知識も極めて豊富だった。かつて、父の仇は古代魔法帝国の技術で召喚されたアザービーストなのではないかと考えていた頃に、懸命にそれに関する知識を調べていたからだ。
この分野においてエイクは、並みの賢者を優に超える見識を得ていた。
だが、自身の知識を試したり、誰かと知恵比べをしたりする機会など持ったことがないエイクは、自身の知識をあまり客観的に見えていなかったのである。
「それで、速やかに開けるということで良いですか」
エイクはそう話を進める。
「ああ、頼む」
調査員の1人がそう答え、フゼンたちが身構えた。
扉が開いた瞬間に魔物が飛び出してくる可能性を考慮しているからだ。
エイクは、隠し扉の先にオドが存在しない事を感知していたが、オドを持たない魔物がいる可能性もある。エイクもまた十分な注意をしつつ、制御盤に対して開錠を示す単語を打ち込んだ。
ゴン、という音が聞こえ、突然壁に隙間が生じ、上下左右共に3mほどの範囲で、両開きの扉のようになった。そして、奥に向かって動き始める。
幸い、開いた瞬間に魔物が飛び出す事はなく、扉は全開放された。その奥は通路になっていた。
「この扉は開けたままにしておく事も、向こう側から閉めることも出来るようですが、どうしますか」
エイクがそう念を押す。
「閉めてしまって、向こう側からまた開けることは可能なのだろうか」
調査員が確認した。
「もちろん可能です。むしろ向こうからなら、制限なしで今よりずっと簡単に開けることが出来ます。
実際私は、向こう側からこの扉を開けて脱出しました間違いありません」
魔術師が制御盤を改めてみて、エイクの言葉が正しい事を確認する。
「それじゃあ、向こうへ進んだ後で扉は閉めよう」
調査員はそう告げた。当然だろう、未知の隠し扉を開けたまま放置するはずがない。
そうして、エイクたち一向は未発見区域へと足を踏み入れたのだった。
とある分岐点まで進んだところでエイクが告げた。
「右に進むと、私が“叡智への光”と戦った場所に向かいます。
左は、闘技場から脱出した後、私がここに戻って来た時に通った通路です」
調査員がエイクに問いかけた。
「とすると、左の通路の先で下への階段を見かけたのかな?」
「そういうことです。その階段までなら案内できますよ」
「ッ! それは、是非お願いしたい」
調査員はそう答えてしまっていた。
今回の調査の建前上の目的は、エイクと“叡智への光”が戦った場所の確認なのだが、更なる未発見区域への経路を確認する方を優先してしまったのである。
「分かりました」
エイクはそう伝えて、階段まで調査員達を案内した。そして、あっけなくその場所に到達する。
調査員とフゼン達は、興奮した様子で階段に至るまでの経路や周辺の状況を確認したりし始めた。
最早完全に、未発見区域の探索行動になってしまっている。
エイクはそんな様子を見つつ、若干の罪悪感を覚えた。
未発見区域や、更に下の階層へと進む階段などの知識は教えたが、そこに存在する危険については、知っていながら何も語っていなかったからだ。
エイクはシャルシャーラから得た知識により、この階層に関しては罠の存在などかなり詳しい事を知っている。
また、下の階層も含めて数多くのオドが集中している場所が何箇所かあることも感知していた。恐らく、不用意にその場所に近づけば、無数の魔物に襲われる事になってしまうだろう。
だが、エイクはそんな危険を他人に伝えるつもりはなかった。自分には何の利益にもならないし、むしろなぜ知っているのかと不審がられてしまうからだ。
しかし、その結果、危険に陥り死んでしまう冒険者が生じるのも間違いない。エイクはその事を気にしていたのである。
(いや、そんなことは俺が気にすることじゃあない。知っている知識を全部他人に教える必要などない。
そもそも、冒険者が迷宮に入って死ぬかどうかなんて、全て自己責任だ)
エイクはそう思って、その罪悪感を振り払った。
そして、調査員達に言葉をかけた。
「これより先のことは、私も必死に脱出路を探していたので良く分かりません。こちらの案内はここまでにさせてもらって“叡智への光”と戦った場所へ案内しても良いですか」
「ああ、もちろんかまわない。よろしく頼む」
建前上の目的を思い出したらしい調査員はそう答えた。
そして、エイク達は改めてその場所へと向かった。
たどりついた場所には、確かにそこで何者かが倒れた痕跡はあった。
金属製の物を中心に、多くの装備品が転がっていたからである。しかし、死体そのものはなかった。掃除用の魔物によって処理されてしまったからだろう。
古代魔法帝国の迷宮には、ほぼ確実に死体等の汚物を処理する仕掛けが用意されている。不潔な環境では、遊戯の場として相応しくないからだ。
サルゴサの迷宮においては、直径5cmくらいの小型スライムがその役目を担っていた。そのスライムは迷宮内に多数潜んでいて、まともな戦闘能力はほぼなく、生きている者には何の危害も加えないが、死体等の汚物が生じるとどこからともなく現れて、速やかに食い尽くしてしまうのである。
「“叡智への光”のメンバーの持ち物で間違いないな」
付近に散らばっている物品を確認した調査員がそう告げる。
「全員分ある。ここで彼らが全滅したということで間違いなさそうだ」
そして、そう続けた。
確かにエイクにも、“叡智への光”全員の持ち物が転がっている事が分かった。彼らと戦っている時、死亡を確認出来なかった弓使いのフリッツも、結局この場で死んでいたようだ。
調査員がエイクの下に近づいて来て告げた。
「エイク殿、“叡智への光”の面々の持ち物は、エイク殿が戦利品として受け取る権利がある。しかし、それらは今後の調査の為にも必要だ。申し訳ないがこちらに引き渡して欲しい。
代わりに相応の金銭の支払う用意がある」
「私はそれで構いません」
エイクはそう答えた。“叡智への光”の持ち物にエイクにとって魅力的な物は特になかった。
その後エイクは、ゴルブロ達によって罠に嵌められたあの闘技場の入り口まで調査員達を案内した。そこは爆裂の魔石によって崩されたままになっている。
迷宮には自動修復機能があることも多いが、この場所ではまだ発動していないようだ。
そこでようやくエイクの役目は終わり、一同は一旦サルゴサの街へと戻る事になったのだった。
「駄目です。直ぐに扱えないように制限がかけられています。これの解除は私の手には負えません。一度戻って、もっと専門の賢者に見てもらう必要があります。
いや、サルゴサの街にいる者では無理かも。場合によっては、王都の大図書館か賢者の学院に協力を頼む必要があるかも知れません」
(そんな馬鹿な。そんなに難解なはずがない)
エイクはそう思った。
古代魔法帝国の迷宮は遊戯の場として作られたものであり、基本的に攻略不可能にはなっていない。攻略不可能では遊戯にならないからだ。
簡単には開けられないようになっている隠し扉はあっても、絶対に開けられない扉は存在しないはずである。
ましてこの隠し扉は、迷宮全体の中間地点程度の場所に設置されているものだ。それほど極端に開け難くされているとは、エイクには思えなかった。
ところが、調査員達は魔術師の言い分を受け入れ「やむを得んな」などと口にしている。
(こんなところで、そんなに時間をとられてたまるか)
そう思ったエイクは、「すみませんが私にも見せてください」と告げて、制御盤の前に進んだ。
制御盤には、夥しい量の細かい古語文字が浮かんでいる。エイクはそれを素早く読んだ。
(やはり、そこまで難しくはないじゃあないか)
そして、そう考えつつ、浮かんでいる古語文字の中の幾つかの単語の場所を特定の順番で触れた。
すると、制御盤の光が強くなり、文字が消える。そこに指を使って特定の古語を順番に書き込む。
しばらくすると、再び夥しい文字が制御盤を埋め尽くす。エイクはそれを読み込み、また解除条件を入力した。
それが、3回繰り返されたところで、エイクが告げる。
「解除できました。いつでも開けられます。どうしますか?」
「ほ、本当か?」
そう言って魔術師が制御盤に向かう。
「た、確かに解除されている」
そして、しばらくしてからそう告げて、エイクのほうに振り向いた。
「素晴らしいエイク殿、無双の戦士である上に、古代魔法帝国の知識にこれほど精通しておられるとは、お見それしました」
「私のような者にとっては、知識は生き残る為にどうしても必要なものです。それなりには学んでいました」
そう答えたエイクだったが、内心では不快感を更に強めていた。エイクは、賞賛の言葉は自分にとって毒である。と、そう思っていたからだ。
(あんたがものを知らないだけだろう)
そして、エイクは内心でそう呟いていた。
だが、この場合どちらかといえば魔術師の評価の方が事実に近い。
エイクの持つ知識はかなり偏っていたが、その中でも魔物や魔法に対するものなど冒険や戦闘に有用なものはかなりの水準に達している。
そして、古代魔法帝国の魔法装置に関する知識も極めて豊富だった。かつて、父の仇は古代魔法帝国の技術で召喚されたアザービーストなのではないかと考えていた頃に、懸命にそれに関する知識を調べていたからだ。
この分野においてエイクは、並みの賢者を優に超える見識を得ていた。
だが、自身の知識を試したり、誰かと知恵比べをしたりする機会など持ったことがないエイクは、自身の知識をあまり客観的に見えていなかったのである。
「それで、速やかに開けるということで良いですか」
エイクはそう話を進める。
「ああ、頼む」
調査員の1人がそう答え、フゼンたちが身構えた。
扉が開いた瞬間に魔物が飛び出してくる可能性を考慮しているからだ。
エイクは、隠し扉の先にオドが存在しない事を感知していたが、オドを持たない魔物がいる可能性もある。エイクもまた十分な注意をしつつ、制御盤に対して開錠を示す単語を打ち込んだ。
ゴン、という音が聞こえ、突然壁に隙間が生じ、上下左右共に3mほどの範囲で、両開きの扉のようになった。そして、奥に向かって動き始める。
幸い、開いた瞬間に魔物が飛び出す事はなく、扉は全開放された。その奥は通路になっていた。
「この扉は開けたままにしておく事も、向こう側から閉めることも出来るようですが、どうしますか」
エイクがそう念を押す。
「閉めてしまって、向こう側からまた開けることは可能なのだろうか」
調査員が確認した。
「もちろん可能です。むしろ向こうからなら、制限なしで今よりずっと簡単に開けることが出来ます。
実際私は、向こう側からこの扉を開けて脱出しました間違いありません」
魔術師が制御盤を改めてみて、エイクの言葉が正しい事を確認する。
「それじゃあ、向こうへ進んだ後で扉は閉めよう」
調査員はそう告げた。当然だろう、未知の隠し扉を開けたまま放置するはずがない。
そうして、エイクたち一向は未発見区域へと足を踏み入れたのだった。
とある分岐点まで進んだところでエイクが告げた。
「右に進むと、私が“叡智への光”と戦った場所に向かいます。
左は、闘技場から脱出した後、私がここに戻って来た時に通った通路です」
調査員がエイクに問いかけた。
「とすると、左の通路の先で下への階段を見かけたのかな?」
「そういうことです。その階段までなら案内できますよ」
「ッ! それは、是非お願いしたい」
調査員はそう答えてしまっていた。
今回の調査の建前上の目的は、エイクと“叡智への光”が戦った場所の確認なのだが、更なる未発見区域への経路を確認する方を優先してしまったのである。
「分かりました」
エイクはそう伝えて、階段まで調査員達を案内した。そして、あっけなくその場所に到達する。
調査員とフゼン達は、興奮した様子で階段に至るまでの経路や周辺の状況を確認したりし始めた。
最早完全に、未発見区域の探索行動になってしまっている。
エイクはそんな様子を見つつ、若干の罪悪感を覚えた。
未発見区域や、更に下の階層へと進む階段などの知識は教えたが、そこに存在する危険については、知っていながら何も語っていなかったからだ。
エイクはシャルシャーラから得た知識により、この階層に関しては罠の存在などかなり詳しい事を知っている。
また、下の階層も含めて数多くのオドが集中している場所が何箇所かあることも感知していた。恐らく、不用意にその場所に近づけば、無数の魔物に襲われる事になってしまうだろう。
だが、エイクはそんな危険を他人に伝えるつもりはなかった。自分には何の利益にもならないし、むしろなぜ知っているのかと不審がられてしまうからだ。
しかし、その結果、危険に陥り死んでしまう冒険者が生じるのも間違いない。エイクはその事を気にしていたのである。
(いや、そんなことは俺が気にすることじゃあない。知っている知識を全部他人に教える必要などない。
そもそも、冒険者が迷宮に入って死ぬかどうかなんて、全て自己責任だ)
エイクはそう思って、その罪悪感を振り払った。
そして、調査員達に言葉をかけた。
「これより先のことは、私も必死に脱出路を探していたので良く分かりません。こちらの案内はここまでにさせてもらって“叡智への光”と戦った場所へ案内しても良いですか」
「ああ、もちろんかまわない。よろしく頼む」
建前上の目的を思い出したらしい調査員はそう答えた。
そして、エイク達は改めてその場所へと向かった。
たどりついた場所には、確かにそこで何者かが倒れた痕跡はあった。
金属製の物を中心に、多くの装備品が転がっていたからである。しかし、死体そのものはなかった。掃除用の魔物によって処理されてしまったからだろう。
古代魔法帝国の迷宮には、ほぼ確実に死体等の汚物を処理する仕掛けが用意されている。不潔な環境では、遊戯の場として相応しくないからだ。
サルゴサの迷宮においては、直径5cmくらいの小型スライムがその役目を担っていた。そのスライムは迷宮内に多数潜んでいて、まともな戦闘能力はほぼなく、生きている者には何の危害も加えないが、死体等の汚物が生じるとどこからともなく現れて、速やかに食い尽くしてしまうのである。
「“叡智への光”のメンバーの持ち物で間違いないな」
付近に散らばっている物品を確認した調査員がそう告げる。
「全員分ある。ここで彼らが全滅したということで間違いなさそうだ」
そして、そう続けた。
確かにエイクにも、“叡智への光”全員の持ち物が転がっている事が分かった。彼らと戦っている時、死亡を確認出来なかった弓使いのフリッツも、結局この場で死んでいたようだ。
調査員がエイクの下に近づいて来て告げた。
「エイク殿、“叡智への光”の面々の持ち物は、エイク殿が戦利品として受け取る権利がある。しかし、それらは今後の調査の為にも必要だ。申し訳ないがこちらに引き渡して欲しい。
代わりに相応の金銭の支払う用意がある」
「私はそれで構いません」
エイクはそう答えた。“叡智への光”の持ち物にエイクにとって魅力的な物は特になかった。
その後エイクは、ゴルブロ達によって罠に嵌められたあの闘技場の入り口まで調査員達を案内した。そこは爆裂の魔石によって崩されたままになっている。
迷宮には自動修復機能があることも多いが、この場所ではまだ発動していないようだ。
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