221 / 373
第4章
39.許容範囲の我が侭
しおりを挟む
エイクは、しばらくそのまま周りの様子を伺った。
広間には不審なオドも気配もない。四方に伸びる通路にも、感知出来る範囲には異常はなかった。
その事を確認した上で、エイクはアイアンゴーレムの残骸から降りた。
そして、通路の中で身を縮めていたテレサとニコラの方に近づいて声をかける。
「取引をしたい」
「は、はい」
テレサが上ずった声で、そう答えた。その様子は怯えているように見える。
ニコラは先ほどからずっと言葉を発していない。
「回復薬を渡すから、代わりに、魔石や戦利品を回収してくれ」
エイクはそんな提案をした。
今倒した魔物たちの多くは、その身体に魔石を宿しているはずである。他にも金に換えられそうな戦利品が得られるかも知れない。それをふいにするのは惜しい。
だが、疲労困憊の今の状況で、そんな作業をするのはエイクにとってもさすがに面倒だった。
エイクが見たところ、ニコラの足の傷は大分酷く、確かに歩く事は出来ないだろう。
だが、今なら回復薬で回復させれば、支障なく歩けるようになるはずだ。
自力で歩けるようにならなければ帰還もおぼつかないのだから、多少の作業を行う代わりに足を治してもらうのは、割のいい取引のはずである。
「……そ、それは、あ、ありがとうございます」
少し考えてからテレサがそう答える。
「あ、ありがとう、ございます」
苦痛に耐えながら、ニコラもそう告げた。
同意を得たエイクは、早速回復薬をテレサに渡す。
テレサは、直ぐにそれをニコラに飲ませた。回復薬は問題なく効果を発揮し、ニコラは直ぐに自ら立ち上がれるようになった。
「あ、ありがとうございます。そ、その」
回復したニコラは、エイクに向かって感謝の言葉を述べ、更に何かを言いたそうにしている。
「早く、約束を守ってくれ」
だが、エイクはそう告げて、さっさと魔石などの回収作業を行うように促した。エイクには、ニコラと話したいと思うことは特にはなかった。
「わ、分かりました」
ニコラはそう言って、姉と共に魔石などの回収作業を始めた。
エイクは、姉弟が作業をし始めると、通路の直ぐ際の壁面に背をつけて、もたれかかった。姉弟の前では見栄を張っていたが、立っているのも苦しいほどの状況だったからだ。
それでも、何とか座りこまないようにはしている。
そんな姿勢で息を整えながら、エイクはしばらく作業をしている姉弟を見ていたが、やがて通路に少し入ったところに横たわったままの女剣士に目を向けた。
(我ながら優柔不断だ)
そして、そんな事を思った。他人など関係ないと思って戦いに臨んだのに、結局は、“呪いの破壊者”なる能力まで使ってこの女剣士を助け、その後も姉弟ともども守るような行動をとってしまっていたからだ。
(いい女だったから、死なせるのは惜しいと思ってしまったんだな)
エイクはそう自己分析した。
確かに女剣士は美しかった。
長く美しい黒髪を背中で束ねただけの簡単な髪型だが、それが秀麗な容貌を際立たせている。良く見ると歳はかなり若く、エイクは自分とさほど違わない年齢なのではないかと思った。
そして、女剣士の衣服は、胸元や袖が酸攻撃により溶け、右肩のあたりもシェイプチェンジャー・ゴーストによって破られて破損している。そのため肌が大きく露出しており、艶かしい姿になっていた。
エイクはその美しい肌に目をやりながら更に思った。
(もっと露骨な言い方をすれば、抱きたいという欲望に駆られてしまったから、死なせないように立ち回ったんだ。
あっちの女についてもそうだ)
そして、作業を続けているテレサという娘の方に目をやった。
(戦いの最中に性欲に駆られるとは、褒められた事じゃあない。
だが、少なくとも今回に関しては、猛省しなければならないほどの大失態ではないはずだ。俺には、それでも勝つだけの強さがあったんだからな。
伝道師さんも、強者はその強さに応じて、我が侭に振舞っていいと言っていた。
俺は女達を守りながらでも勝てる見込みをもっていたし、事実勝ちきった。俺にはそれだけの強さがあった。
抱きたいと思った女が死なないように振舞ったのは、その強さに裏打ちされた、許容範囲内の我が侭だったと思っていいだろう。
特殊能力を披露してしまったのは良くなかったが、それもやむを得ない。
憑依したゴーストは生前の能力を使えるようになる。もしもあのゴーストが腕利きだった場合、憑依されたままだと不味い事になっていたかも知れない。
特殊能力といっても、俺にゴーストの憑依を解く能力があるとばれたとことで、俺にとって致命的な被害はないだろう。これも許容範囲と考えていいはずだ)
エイクはそんな風に自分の行いを評価した。
そして更に、自分がこの女達を抱きたいと思っているのだと自覚した結果、不埒な事を考えてしまった。
(俺が戦って命を助けてやったんだから、見返りに抱かせろと要求してもいいような気もするが……)
エイクは、自分の中で勝手にそんな基準を持っていた。
だが、本当にその基準どおりに行動すれば、自分が異常な性犯罪者と扱われてしまうことも弁えていた。
(強引に迫るわけには行かないな。
それでも、感謝されるべき事をしたのは事実だから、話の持って行きようでは、どうこう出来るかも知れないが……。まあ、そんなことに費やしている時間がない。
それに、こいつらには俺が多数の魔物を倒した事を証言してもらって、俺が名声を得る為に一役かってもらうべきだ。
だから、印象も良くしておいたほうがいい。不埒な要求なんかをしたら台無しだ。
どちらにしても、この女達に手を出そうとするのは現実的じゃあない。
無駄な事を考えずに、もっと現実的な事を考えるべきだ)
エイクはそう思って、自分の中に生じ始めていた欲望を振り払った。
(例えば、亡霊の存在を考慮していなかったのは失態だった。
亡霊はオドの感知に引っかからない上に、姿を消せる。俺にとっても最も発見しにくい魔物だ。その存在を日頃から意識していなかったとは大失敗だった。我ながら、本当に至らない事が多いな……。
いずれにしろ、今後はもっと注意深くならなければな)
エイクはそう思って、姿を消したゴーストの気配を察知した時の事を思い出して、あの感覚を忘れないようにしようと、自分に言い聞かせた。
広間には不審なオドも気配もない。四方に伸びる通路にも、感知出来る範囲には異常はなかった。
その事を確認した上で、エイクはアイアンゴーレムの残骸から降りた。
そして、通路の中で身を縮めていたテレサとニコラの方に近づいて声をかける。
「取引をしたい」
「は、はい」
テレサが上ずった声で、そう答えた。その様子は怯えているように見える。
ニコラは先ほどからずっと言葉を発していない。
「回復薬を渡すから、代わりに、魔石や戦利品を回収してくれ」
エイクはそんな提案をした。
今倒した魔物たちの多くは、その身体に魔石を宿しているはずである。他にも金に換えられそうな戦利品が得られるかも知れない。それをふいにするのは惜しい。
だが、疲労困憊の今の状況で、そんな作業をするのはエイクにとってもさすがに面倒だった。
エイクが見たところ、ニコラの足の傷は大分酷く、確かに歩く事は出来ないだろう。
だが、今なら回復薬で回復させれば、支障なく歩けるようになるはずだ。
自力で歩けるようにならなければ帰還もおぼつかないのだから、多少の作業を行う代わりに足を治してもらうのは、割のいい取引のはずである。
「……そ、それは、あ、ありがとうございます」
少し考えてからテレサがそう答える。
「あ、ありがとう、ございます」
苦痛に耐えながら、ニコラもそう告げた。
同意を得たエイクは、早速回復薬をテレサに渡す。
テレサは、直ぐにそれをニコラに飲ませた。回復薬は問題なく効果を発揮し、ニコラは直ぐに自ら立ち上がれるようになった。
「あ、ありがとうございます。そ、その」
回復したニコラは、エイクに向かって感謝の言葉を述べ、更に何かを言いたそうにしている。
「早く、約束を守ってくれ」
だが、エイクはそう告げて、さっさと魔石などの回収作業を行うように促した。エイクには、ニコラと話したいと思うことは特にはなかった。
「わ、分かりました」
ニコラはそう言って、姉と共に魔石などの回収作業を始めた。
エイクは、姉弟が作業をし始めると、通路の直ぐ際の壁面に背をつけて、もたれかかった。姉弟の前では見栄を張っていたが、立っているのも苦しいほどの状況だったからだ。
それでも、何とか座りこまないようにはしている。
そんな姿勢で息を整えながら、エイクはしばらく作業をしている姉弟を見ていたが、やがて通路に少し入ったところに横たわったままの女剣士に目を向けた。
(我ながら優柔不断だ)
そして、そんな事を思った。他人など関係ないと思って戦いに臨んだのに、結局は、“呪いの破壊者”なる能力まで使ってこの女剣士を助け、その後も姉弟ともども守るような行動をとってしまっていたからだ。
(いい女だったから、死なせるのは惜しいと思ってしまったんだな)
エイクはそう自己分析した。
確かに女剣士は美しかった。
長く美しい黒髪を背中で束ねただけの簡単な髪型だが、それが秀麗な容貌を際立たせている。良く見ると歳はかなり若く、エイクは自分とさほど違わない年齢なのではないかと思った。
そして、女剣士の衣服は、胸元や袖が酸攻撃により溶け、右肩のあたりもシェイプチェンジャー・ゴーストによって破られて破損している。そのため肌が大きく露出しており、艶かしい姿になっていた。
エイクはその美しい肌に目をやりながら更に思った。
(もっと露骨な言い方をすれば、抱きたいという欲望に駆られてしまったから、死なせないように立ち回ったんだ。
あっちの女についてもそうだ)
そして、作業を続けているテレサという娘の方に目をやった。
(戦いの最中に性欲に駆られるとは、褒められた事じゃあない。
だが、少なくとも今回に関しては、猛省しなければならないほどの大失態ではないはずだ。俺には、それでも勝つだけの強さがあったんだからな。
伝道師さんも、強者はその強さに応じて、我が侭に振舞っていいと言っていた。
俺は女達を守りながらでも勝てる見込みをもっていたし、事実勝ちきった。俺にはそれだけの強さがあった。
抱きたいと思った女が死なないように振舞ったのは、その強さに裏打ちされた、許容範囲内の我が侭だったと思っていいだろう。
特殊能力を披露してしまったのは良くなかったが、それもやむを得ない。
憑依したゴーストは生前の能力を使えるようになる。もしもあのゴーストが腕利きだった場合、憑依されたままだと不味い事になっていたかも知れない。
特殊能力といっても、俺にゴーストの憑依を解く能力があるとばれたとことで、俺にとって致命的な被害はないだろう。これも許容範囲と考えていいはずだ)
エイクはそんな風に自分の行いを評価した。
そして更に、自分がこの女達を抱きたいと思っているのだと自覚した結果、不埒な事を考えてしまった。
(俺が戦って命を助けてやったんだから、見返りに抱かせろと要求してもいいような気もするが……)
エイクは、自分の中で勝手にそんな基準を持っていた。
だが、本当にその基準どおりに行動すれば、自分が異常な性犯罪者と扱われてしまうことも弁えていた。
(強引に迫るわけには行かないな。
それでも、感謝されるべき事をしたのは事実だから、話の持って行きようでは、どうこう出来るかも知れないが……。まあ、そんなことに費やしている時間がない。
それに、こいつらには俺が多数の魔物を倒した事を証言してもらって、俺が名声を得る為に一役かってもらうべきだ。
だから、印象も良くしておいたほうがいい。不埒な要求なんかをしたら台無しだ。
どちらにしても、この女達に手を出そうとするのは現実的じゃあない。
無駄な事を考えずに、もっと現実的な事を考えるべきだ)
エイクはそう思って、自分の中に生じ始めていた欲望を振り払った。
(例えば、亡霊の存在を考慮していなかったのは失態だった。
亡霊はオドの感知に引っかからない上に、姿を消せる。俺にとっても最も発見しにくい魔物だ。その存在を日頃から意識していなかったとは大失敗だった。我ながら、本当に至らない事が多いな……。
いずれにしろ、今後はもっと注意深くならなければな)
エイクはそう思って、姿を消したゴーストの気配を察知した時の事を思い出して、あの感覚を忘れないようにしようと、自分に言い聞かせた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
↓
PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる