剣魔神の記

ギルマン

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第4章

40.救護所へ

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 数分ほど身体を休めていると、回復薬の効果によりエイクの体力はすっかり回復した。
 そうなると、エイクはただ待っているのが苛立たしく感じるようになってしまい、結局自分でも魔石等の回収作業に参加することにした。
 そして、比較的短時間で作業は終了した。

 低級の魔物であるスライムの中には魔石を宿していないものもいたし、運悪く戦いの中で魔石が破損してしまったものもあったが、最終的に42個の魔石を回収する事ができた。
 その中には、ミノタウロスから回収したものなど、かなり高品質のものも含まれている。

 他に、呪いの力を宿したバイコーンの角と、アイアンゴーレムに核として埋め込まれていた、一握りほどの大きさのミスリル銀も回収している。
 ミノタウロスの角も、その大きさや形は特徴的で、飾り物にする好事家もいるので、切り取って持ち帰る事にした。
 他に、ダイナウルフの毛皮も剥ぎ取れば売り物になるが、これは剥ぎ取りに時間がかかるのでやめておいた。

 エイクはそれらの戦利品を魔法の荷物袋に入れた。
 そして最後に、バイコーンに殺されたジョゼフという冒険者の死体を確認し、冒険者である事を証明するエンブレムと、フルへイムを外して、遺品として持ち帰ることにした。
 
 テレサとニコラの姉弟も、当然ながらこれ以上迷宮に挑む気にはなれなかったようで、エイクの帰途に同行したいと申し出た。
 エイクは、意識を失ったままの女剣士をニコラに背負わせ、その代わりに魔物が現れた際には自分が戦うという条件で同行を認めた。
 エイクとしても、この女剣士をそのまま放置するつもりはなかったが、自分で背負っていくのでは、さすがに戦闘に支障を来たすと思っていた。だから、姉弟の申出は渡りに船というものだった。

(本当は、助けた美女を自ら抱きかかえて帰還した方が絵になるし、感触を楽しむ程度の役得にもなったんだが、そんなことの為に戦闘を不利にするわけには行かないからな。
 他に担いでくれる者がいるなら、そいつにやらせるのが妥当だ)
 エイクは、そんな益体もない事も考えていた。

(代わりに、これを持ち帰れるかな)
 エイクはそう考え、ミノタウロスが使っていた大斧を両手で持ち上げた。
 それは、人間がそのまま使えるような品物ではない。並みはずれた膂力を持つエイクで、やっと振るうことが出来るくらいだった。
 しかし、優に千年以上迷宮内にあったそれは、最上質の硬鉄鋼へと変質している。上質の武器の材料として相応の値で売れるはずだ。

(アーマード・スライムの鎧も硬鉄鋼になっているが、流石に持ち帰るのは無理だな。
 もっと上質の魔法の荷物袋があれば話は別だが、ないものは仕方がない)
 エイクはそう判断した。
 エイクが持つ魔法の荷物袋には、鎧を収容するほどの容量はなかった。
(もう、これ以上回収できるものはない)
 そう判断したエイクは、姉弟に向かって「帰ろう」と声をかけ、実際帰途についたのだった。



「あの、エイクさん、エイクさんでよかったですよね」
 迷宮の出口に向かって歩き始めたから直ぐに、ニコラがエイクに向かってそう声をかけていた。
 ニコラは、女剣士を背負ったままエイクの直ぐ後ろを歩いている。
 どうやら、エイクのことを先日武器屋であった相手だと気付いていたようだ。

「ああ、冒険者のエイクで間違いないよ。昨日武器屋で少し話しをしたな」
 エイクもそう返した。
「あ、あの時は、失礼な事を言いました。すみません。エイクさんがこんなに強いなんて思わなくて。
 す、凄い戦いでした。何体もの魔物を一撃で切り捨てて、最後にはミノタウロスまで倒しちまうなんて。
 あ、俺はニコラと言って、15歳になったところで、今年から冒険者を始めたところで……」

 ニコラは、興奮気味にそう話し始めた。そして、エイクに惜しみない賞賛の声をかけ続ける。
 エイクは、それに適当に答えた。
 エイクは賞賛されること自体を不快に思っていたし、ニコラという若者の手のひらを返すような言動も気に入らなかった。
 だが、自分に好印象を持たせておいた方が良いという判断から、邪険には扱わない事にしたのだ。

 帰途においても、多少の魔物と遭遇する事はあったが、どれも大した敵ではなかった。
 エイクが、手にしたミノタウロスの大斧を振るうだけで一撃で仕留められるものばかりだ。
 大斧の一撃には剣を振るう時ほどの鋭さはない。しかし、それでも訳もなく当てることが出来る魔物ばかりだった。
 一度に多くの魔物に襲われることもなく、一向は無事に迷宮から外に抜け出せた。
 エイクが魔物を倒すたびにニコラがそれを絶賛し、エイクが機嫌を悪くしたりしたものの、それ以外に特に問題は生じなかった。

 そうして、エイクたち一向はサルゴサの街まで帰還し、とりあえず、迷宮管理部局の建物へと向かった。女剣士を保護してもらう為だ。
 女剣士は意識を失っているが外傷はないので、しばらく安静にすれば目覚めるはずだ。その間の面倒を迷宮管理部門でみてもらおうというわけである。
 迷宮管理部局では、各神殿と連携して冒険者の治療も行っている。その一環としてまず間違いなく安全に保護してくれるはずだ。

 

 エイクは、テレサとニコラと共に、迷宮管理部局の救護所の建物に女剣士を運んだ。
 ちなみに、ミノタウロスの大斧は救護所に入る前に、入口にいた職員に預けている。
 冒険者御用達のこの救護所は、武器を持って入る事も認められているが、流石に余りにも剣呑なミノタウロスの大斧を持ち込むのは拒まれた。エイクは素直にそれに従った。

 そして、救護所内を管理している職員を呼び出してもらい、とりあえず、女剣士を寝台に寝かせてから、その職員に事情を説明した。
 この女剣士とは迷宮内で出会って臨時に協力しただけで、素性も知らないし、この街に知り合いがいるのか、家があるのか宿を取っているのかも分からない。などということを伝え、目覚めるまで療養させて欲しいと依頼したのである。

「もちろん、こちらでお休みになっていただいてかまいません。寝台も空いていますから」
 その職員の男はそう答えた。
「ただ、無償でという訳にはいかないんです」
 そして、申し訳なさそうにそう続ける。

「それも問題ありません。彼女の取り分の戦利品があります。
 それを預けますので、そこから費用を取って、残りを彼女に渡してください。
 結構な量になっていますから、もしも何日間か寝込む事になっても、費用が捻出できないということはないでしょう」
 エイクが、そう説明した。
「そうですか。戦利品のお預かりも、もちろん責任を持って行わせてもらいます」
 職員の男はそう答える。

 その言葉は基本的には信じて良いはずである。
 迷宮管理部局は冒険者を支援する事で、迷宮に挑む冒険者を増やし、それによって自分たちの収入を増やす事を目的にしており、冒険者の身体や財産を守るのは当然の職務だからだ。
 まあ、世の中には悪徳役人をいう者もいるので、そんなものにあたってしまうと、その限りではないが、その場合は運が悪かったと諦めてもらうしかない。

「預り品の目録を作りますので、こちらで一緒に確認してください」
 職員の男は、そう告げてエイクたちを事務室に招いた。
 エイクは職員について行き、魔法の荷物袋から、全ての戦利品を取り出し机の上に並べる。

「こ、これは!? ……す、凄いですね」
 職員はその戦利品を見て驚いたようだった。
「ミ、ミノタウロスの角。こちらはバイコーンの。ミスリル銀に、魔石もかなり上質の物があるし、数も多い。
 これを全て今日一日で?」

「ええ、これの他に、入り口でミノタウロスの大斧も預けてあります。それも私たちの戦利品です。
 どうやら、誰かが大量の魔物に襲われる罠を発動してしまったようで、私達はそれに巻き込まれたんです。
 上手い事魔物が分散して進んで来ていたこともあって、私と先ほどの女性の二人で全て倒す事ができました。ですので、この戦利品は折半にしたいと思っています。
 具体的には、バイコーンの角と魔石の半分を私の物とさせてもらい、残りをそちらの女性に残しておきたいと思います。
 詳しい取り決めもせずに臨時で協力したので、戦利品は半分ずつとするのが妥当でしょう」
 エイクはそう告げた。

 もちろん、実際に倒した魔物はエイクの方が遥かに多いのだから、客観的に言えば、これは女剣士の取り分を多くしすぎだ。
 しかしエイクは、戦利品の大多数を自分のものすることで、それを見た管理部局の職員から、相手の意識がないのを良いことに、不当に自分の取り分を多くしていると疑われてしまう事を危惧した。
 そうすると、自分の名声に傷が付いてしまう。
 女剣士が目覚めるのを待って、合意の上で分け前を決まればいいのだが、エイクはそれを待つ時間を惜しんだ。なので、文句が出ないように半分を渡すことにしたのである。

「この量を、2人で……。
 い、いえ、まあ、そういうことなら戦利品の分配は妥当な判断と思います。
 それで目録を作らせていただきます」
 職員はそう告げた。

 厳密には、魔物のほとんどを女剣士が倒した可能性もあるし、女剣士が魔物と相打ちになって倒れたところに、エイクが通りかかっただけという可能性すらある。
 しかし、エイクがそういう状況で戦利品を横領しようとするような者なら、そもそも女剣士の取り分があることすら告げないはずだ。職員はそのように判断したらしい。

 また、そもそも迷宮管理部門は冒険者間のいざこざにほとんど関わらない。
 目を覚ました女剣士が分け前に不服があったなら、自分達は関知しないので、エイクと直接話をつけるように言うだけだろう。

 職員は、戦利品の分け前についてはそれ以上何も言わなかったが、別のことをエイクに依頼した。
「ですが、これほどの戦利品を落とす規模の魔物に襲われるというのは、かなりの事件です。
 今後の迷宮攻略にとっても重要な情報になるので、ご面倒ですが、本部の受付の方に回ってもらって、詳しい状況を説明してください。お願いします」
「構いません」
 エイクはそう答えた。状況を説明するということは、自分が多数の魔物を倒した事を伝えるということであり、名声につながる。エイクとしては好都合だった。
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