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第4章
41.不愉快な言動
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エイクは管理部局の職員に言われたとおり、管理部局本部の建物に回った。
テレサとニコラの姉弟にも付いて来させている。自分の証言の証人になってもらう為だ。
その本部の受付では、ちょっとした騒ぎが起こっていた。誰かが何かを訴えているようである。
「だから、大量の魔物が襲い掛かってきたんだ。俺達はどうにか逃げのびたが、他の冒険者が襲われて、最悪逃げる冒険者を追って、魔物が地上まで出てくるかも知れねえ。
そうなったら、街にも被害が出るかも……」
そんな事を言っているのは、ニコラを放りだして逃げたノーザンだった。
彼は、迷宮の外まで逃げた後、この後どうするか悩んだ。
自分が遭遇した大量の魔物が惨事につながる可能性を思いついていたが、その事を管理部局に伝えれば、自分が仲間を見捨てた事もばれてしまうからだ。
だが、相当の時間思い悩んでしまった末に、やはり事実を伝えるべきだと考え、遅ればせながら管理部局にやって来ていたのである。
ノーザンはやはり、どちらかといえばではあるが、善良といえる男だった。
その姿を認めたニコラが、いきなりノーザンに詰め寄って、大声を上げた。
「おい! おっさん。手前、偉そうな事を言っておいて、ひでぇ事してくれるじゃあねえか!」
「お、お前、無事で?」
突然現れて食って掛かってきたニコラに対して、ノーザンは驚愕の表情を見せながらそう言った。ニコラは自分の行いのせいで死んでしまったと思っていたからだ。
「ああ、そこにいるエイクさんのお陰で助かったんだ。
エイクさんこそ本物の英雄だ、仲間を見捨てて殺しちまうあんたなんかと違ってな!」
大声で発せられたその言葉に、その場に居た冒険者達が注目した。仲間を見殺しにするという行為は、当然ながら冒険者にとって重大な問題だからだ。
ノーザンは言い返す事もできず、苦しげに顔を歪めた。
そのノーザンに向かって、ニコラが更に言い募る。
「あんたみたいな、口だけの臆病者が、偉そうにベテラン冒険者面しやがって…」
「そのくらいで止めてくれ」
エイクが、そう言ってニコラをとめた。
「エイクさん、でもこいつは……」
「不愉快だ」
エイクの方を向いたニコラに対して、エイクは厳しい表情でそう言った。
「え?」
ニコラは、なぜそんな事を言われたのか分からず、疑問の声をあげる。
「俺は、お前達がその人とどういう約束をして迷宮に入ったのか知らない。だから、お前の非難が正当な行為なのかどうかは分からない。
だが、お前が、そのノーザンという人より遥かに弱い若輩者だということは分かる。
俺は、弱者が偉そうに吠えるのを見るのは嫌いだ。だから、そういうのは俺にいないところでやってくれ」
エイクは強い口調でそう告げた。
「……」
ニコラは、エイクの気迫に押されて、何も言えなくなってしまった。
エイクは受付に立っていた女性の職員の方を向いて、言葉を続けた。
「何十体もの魔物が襲って来たのは事実です。その魔物たちは、私ともう1人の冒険者の2人で倒しました。その事を報告するために来ました。
場所は……」
エイクは淡々と報告を行った。ニコラの言動に本当に不快感を覚えていた彼は、この場で自分の功績を誇る気をなくしていた。
やがてエイクは報告を終えた。
ニコラやノーザンたちは、エイクより先にその場を去る気になれなかったのか、まだ建物内に残っている。
エイクは若干躊躇ったが、ニコラに声をかけることにした。
「ニコラ、といったよな。さっきも言ったが、お前は弱い。
弱者が冒険者として生きるなら、相応の覚悟が必要だ。戦う相手を見誤れば、簡単に負けてしまうからだ。
お前1人なら、負けても自分が死ぬだけだ。けれど、お前の姉は、負けた相手次第では死んだ方がましだという目にあう事になるかも知れない。
そういう危険もあることを忘れずに、それでも冒険者をするなら、覚悟を決めてやるべきだ」
「あ、は、はい。すいません」
ニコラはそう答える。
(実際、例えば俺と戦って負けたら、そういうことになるしな)
エイクはそんな事を考えつつ、テレサの方に目を向けてしまっていた。
エイクの視線を受け、テレサは俯いた。
「もしも機会があれば、また会いましょう。今日はこれで失礼します」
エイクはテレサに対しては少し丁寧に、そう言葉をかけた。
「は、はい。本当に、ありがとうございました」
テレサが答える。
エイクは、姉弟の前から去ると、次に建物の入り口近くに立っていたノーザンの方に向かった。
「確認してもらいたいものがあります」
そして、そう声をかける。
「な、何だ」
「こちらですが……」
といいつつ、エイクは魔法の荷物袋から、ジョゼフのエンブレムとフルへイムを取り出した。
「本当は直ぐに見てもらうべきでしたが、あなたのお仲間のもので間違いないですか?」
「これは……。あ、ああ、そうだ。……間違いない」
ノーザンは沈痛な様子でそう告げた。
「それでは、これはお渡しします」
そう言って、エイクはその冒険者の遺品をノーザンに手渡す。
「す、すまん。あ、ありがとう」
「いえ、当然の事をしただけです。それでは失礼します」
エイクはそれだけ告げて、ノーザンの前を去った。
エイクは大きな失敗をして仲間を失ったばかりのこの男に、どう声をかけて良いかわからなかった。
(強さだけなら俺の方が遥かに上だろうが、人生経験って面では俺の方がずっと下だ。下手な事は言わない方が良いだろう。
偉そうなことや、嫌味を言っているように見られても嫌だしな。
そういう意味では、ニコラにも偉そうな事を言うべきじゃあなかったが、まあ、奴よりは俺の方が年上だし、冒険者としての経験も上だ。先達の忠告という事にしておいてもらおう)
エイクはそんな事を思いつつ、管理部局の建物を出た。
時刻は夕刻に近づいていた。
エイクは少し考えたが、今日はこのまま王都に向かう事にした。
(この街ですることはもうない。もう一泊するのは時間の無駄だ。
王都で何か起きていないか気になるし、次はフィントリッドの誘いに乗ってヤルミオンの森に行く予定もある。さっさと帰るべきだ。
道中で野営して早めに動けば、明日の昼前には王都に着くことも可能だろう)
と、そう考えたのである。
何年も森での狩りを1人で行っていたエイクは、街道沿いで野営することを大して危険な行為とは思っていなかった。
そしてエイクは、宿に戻り借りていた部屋を引き払い、預けていた馬を引き取ると、実際そのまま王都へと向かった。
テレサとニコラの姉弟にも付いて来させている。自分の証言の証人になってもらう為だ。
その本部の受付では、ちょっとした騒ぎが起こっていた。誰かが何かを訴えているようである。
「だから、大量の魔物が襲い掛かってきたんだ。俺達はどうにか逃げのびたが、他の冒険者が襲われて、最悪逃げる冒険者を追って、魔物が地上まで出てくるかも知れねえ。
そうなったら、街にも被害が出るかも……」
そんな事を言っているのは、ニコラを放りだして逃げたノーザンだった。
彼は、迷宮の外まで逃げた後、この後どうするか悩んだ。
自分が遭遇した大量の魔物が惨事につながる可能性を思いついていたが、その事を管理部局に伝えれば、自分が仲間を見捨てた事もばれてしまうからだ。
だが、相当の時間思い悩んでしまった末に、やはり事実を伝えるべきだと考え、遅ればせながら管理部局にやって来ていたのである。
ノーザンはやはり、どちらかといえばではあるが、善良といえる男だった。
その姿を認めたニコラが、いきなりノーザンに詰め寄って、大声を上げた。
「おい! おっさん。手前、偉そうな事を言っておいて、ひでぇ事してくれるじゃあねえか!」
「お、お前、無事で?」
突然現れて食って掛かってきたニコラに対して、ノーザンは驚愕の表情を見せながらそう言った。ニコラは自分の行いのせいで死んでしまったと思っていたからだ。
「ああ、そこにいるエイクさんのお陰で助かったんだ。
エイクさんこそ本物の英雄だ、仲間を見捨てて殺しちまうあんたなんかと違ってな!」
大声で発せられたその言葉に、その場に居た冒険者達が注目した。仲間を見殺しにするという行為は、当然ながら冒険者にとって重大な問題だからだ。
ノーザンは言い返す事もできず、苦しげに顔を歪めた。
そのノーザンに向かって、ニコラが更に言い募る。
「あんたみたいな、口だけの臆病者が、偉そうにベテラン冒険者面しやがって…」
「そのくらいで止めてくれ」
エイクが、そう言ってニコラをとめた。
「エイクさん、でもこいつは……」
「不愉快だ」
エイクの方を向いたニコラに対して、エイクは厳しい表情でそう言った。
「え?」
ニコラは、なぜそんな事を言われたのか分からず、疑問の声をあげる。
「俺は、お前達がその人とどういう約束をして迷宮に入ったのか知らない。だから、お前の非難が正当な行為なのかどうかは分からない。
だが、お前が、そのノーザンという人より遥かに弱い若輩者だということは分かる。
俺は、弱者が偉そうに吠えるのを見るのは嫌いだ。だから、そういうのは俺にいないところでやってくれ」
エイクは強い口調でそう告げた。
「……」
ニコラは、エイクの気迫に押されて、何も言えなくなってしまった。
エイクは受付に立っていた女性の職員の方を向いて、言葉を続けた。
「何十体もの魔物が襲って来たのは事実です。その魔物たちは、私ともう1人の冒険者の2人で倒しました。その事を報告するために来ました。
場所は……」
エイクは淡々と報告を行った。ニコラの言動に本当に不快感を覚えていた彼は、この場で自分の功績を誇る気をなくしていた。
やがてエイクは報告を終えた。
ニコラやノーザンたちは、エイクより先にその場を去る気になれなかったのか、まだ建物内に残っている。
エイクは若干躊躇ったが、ニコラに声をかけることにした。
「ニコラ、といったよな。さっきも言ったが、お前は弱い。
弱者が冒険者として生きるなら、相応の覚悟が必要だ。戦う相手を見誤れば、簡単に負けてしまうからだ。
お前1人なら、負けても自分が死ぬだけだ。けれど、お前の姉は、負けた相手次第では死んだ方がましだという目にあう事になるかも知れない。
そういう危険もあることを忘れずに、それでも冒険者をするなら、覚悟を決めてやるべきだ」
「あ、は、はい。すいません」
ニコラはそう答える。
(実際、例えば俺と戦って負けたら、そういうことになるしな)
エイクはそんな事を考えつつ、テレサの方に目を向けてしまっていた。
エイクの視線を受け、テレサは俯いた。
「もしも機会があれば、また会いましょう。今日はこれで失礼します」
エイクはテレサに対しては少し丁寧に、そう言葉をかけた。
「は、はい。本当に、ありがとうございました」
テレサが答える。
エイクは、姉弟の前から去ると、次に建物の入り口近くに立っていたノーザンの方に向かった。
「確認してもらいたいものがあります」
そして、そう声をかける。
「な、何だ」
「こちらですが……」
といいつつ、エイクは魔法の荷物袋から、ジョゼフのエンブレムとフルへイムを取り出した。
「本当は直ぐに見てもらうべきでしたが、あなたのお仲間のもので間違いないですか?」
「これは……。あ、ああ、そうだ。……間違いない」
ノーザンは沈痛な様子でそう告げた。
「それでは、これはお渡しします」
そう言って、エイクはその冒険者の遺品をノーザンに手渡す。
「す、すまん。あ、ありがとう」
「いえ、当然の事をしただけです。それでは失礼します」
エイクはそれだけ告げて、ノーザンの前を去った。
エイクは大きな失敗をして仲間を失ったばかりのこの男に、どう声をかけて良いかわからなかった。
(強さだけなら俺の方が遥かに上だろうが、人生経験って面では俺の方がずっと下だ。下手な事は言わない方が良いだろう。
偉そうなことや、嫌味を言っているように見られても嫌だしな。
そういう意味では、ニコラにも偉そうな事を言うべきじゃあなかったが、まあ、奴よりは俺の方が年上だし、冒険者としての経験も上だ。先達の忠告という事にしておいてもらおう)
エイクはそんな事を思いつつ、管理部局の建物を出た。
時刻は夕刻に近づいていた。
エイクは少し考えたが、今日はこのまま王都に向かう事にした。
(この街ですることはもうない。もう一泊するのは時間の無駄だ。
王都で何か起きていないか気になるし、次はフィントリッドの誘いに乗ってヤルミオンの森に行く予定もある。さっさと帰るべきだ。
道中で野営して早めに動けば、明日の昼前には王都に着くことも可能だろう)
と、そう考えたのである。
何年も森での狩りを1人で行っていたエイクは、街道沿いで野営することを大して危険な行為とは思っていなかった。
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