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第4章
48.新たに訓練を
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「私からも1つ提案をさせていただいてよろしいでしょうか」
続いてアルターがそう告げる。
「言ってみてくれ」
エイクの返答を受け、アルターが語り始めた。
「もしも今後、“虎使い”とダグダロアの預言者が同一の存在だと分かった場合の話です。
そうなった場合には、レシア王国の冒険者の店のいくつかに、ドゥムラント半島の魔族の動向を調査する依頼を出して、あの国の冒険者達にドゥムラント半島の情勢を探らせてはどうでしょう」
「……まあ、確かにその場合は、預言者の動向や戦力を探る事も重要になるから、それも意味はあると思う。
だが、他国の冒険者である俺が、使者でも送ってそんな依頼を出しても、冒険者の店が受け付けないだろう?」
エイクがそんな懸念を述べた。
冒険者の店は、属する冒険者の安全を守るために、依頼主に対して最低限の裏を取る。
レシア王国内の冒険者の店が、他国の、それも敵国であるアストゥーリア王国に住む冒険者の依頼を受け付けるとは思えなかった。
「シャムロック商会にお願いすればよいと思います。
和平の結果として民間人の行き来は認められていますから、レシア王国とも商人の交流は多少はあります。
シャムロック商会は、レシア王国と直接交易はしていませんが、情報収集の伝手程度は確保している様子です。
それを使えば、依頼を出す事も可能でしょう。
この程度の事ならば、シャムロック商会にお願いしても、さほど大きな借りにはならないはずです」
「それで冒険者の店には受けてもらえたとしても、敵国の大商会からの依頼となれば、やはり目だってしまうんじゃあないか?」
「如何にも、おっしゃるとおりです。そして、それこそが主な目的です」
エイクの重ねての疑問にアルターが答えた。
「敵国の大商会が、自国の何かを探っているとなれば、政府の中にはそれを気にする者も現れるでしょう。大商会を隠れ蓑に、敵国の政府が動いている可能性も考えられるからです。
特に調査対象が、ドゥムラント半島の魔族となればなおさらです。
あの国には、我が国が魔族と組んでいると思っている者もおりますからな」
5年前のボルドー河畔の戦いから撤退する際に、レシア王国軍は妖魔による大規模な襲撃を受け、大きな被害を出した。それをアストゥーリア王国の陰謀だと主張する者も存在したのだ。
それがある意味で事実である可能性も今や低くはないのだが、いずれにしても、そんな疑いがある敵国の者が、魔族領域であるドゥムラント半島に対して何かしていると知れば、注目せざるを得ない。
レシア王国はかなり露骨に戦の準備をしており、停戦開けに自らアストゥーリア王国と戦う気なのは明白と思われている。
そんな情勢だからこそ、背後に当たるドゥムラント半島におけるアストゥーリア王国の動きを無視する事は出来ないはずだ。
アルターは説明を続けた。
「当然、何を調べていたのか、調べた結果を知ろうとするでしょうし、ドゥムラント半島へ自ら探りを入れるかも知れません。
その結果、組織だって動いている妖魔を確認すれば、それを放置する事も出来なくなります。
より本格的な調査をし、場合によっては討伐を検討することになるでしょう。
それは、ドゥムラント半島の妖魔の一部を操っているという預言者への牽制になります」
「なるほど、意味はありそうだな」
エイクはそう述べた。
強大な力を持つらしい預言者への対抗策としては、その脅威を明らかにし、国を超えた連携が必要と思われる。
だが、明確に連携しなくとも、レシア王国が自らその脅威を知り、独自に対処しようとしても、結果として預言者に対する牽制程度にはなる。
アルターは更に説明を続けた。
「ただし、今すぐに行うのは拙速です。
私としては、“虎使い”と預言者が同一の存在であるか、或いは“虎使い”が預言者の部下である可能性は高いという心証を持っています。ですが、確証がある事ではありません。
“虎使い”と預言者が特に関係していないかった場合、下手にこちらから預言者に手を出すと、“虎使い”に加えて預言者とも即座に敵対する事になりかねません。
ですので、動くとしたならば、“虎使い”と預言者の関係がはっきりしてから、という事になります。
ただ、このような手もある、という事は念頭に置いておいてよいかと考えます」
「分かった。考えに入れておく」
エイクはそう答えた。
「他にはどうだ?」
エイクは更に確認する。
シャルシャーラやロアンから現状報告等があったが、重大なものではなく、会議はまもなく終了となった。
会議を終えたエイクはアルターを先に帰らせ、自身はフィントリッドと話しをすることにした。
明後日以降なら、以前話しを聞いたオーガに対応するの為にヤルミオンの森に行く事が出来る。と、伝える為だ。
今日得られた情報によって、エイクとしてもいろいろと思うところはあった。
だが、今はまだ予定を変えて自分自身が動く時ではないと判断し、とりあえず、予定通りに行動する事にしたのである。
「都合がつくなら、早速お願いしよう。
明後日だな。約束どおり、まずは私の城で配下の者達を紹介しよう」
エイクの話を聞くと、フィントリッドは気軽にそういった。
「簡単に言ってくれるが、ここの料理人としての仕事は大丈夫なのか?」
エイクはそう確認する。料理人の仕事を疎かにしてもらっても困る。
「問題ない。私がここで働き始めた時に、辞めようとしていた老料理人なのだが、私の作った料理を口にするや否や、自分の未熟さを思い知ってな。前言を翻して、私に教えを請いながら今も働いているのだ。
料理の良さというものは、食べる者に分かってもらってこそ意味がある。
だが、やはり、ある程度調理の腕を持っている者の方が、技術の高さや奥深さを知る事が出来る。その意味では、あの老料理人が私の調理に感じ入るのも当然といえるだろう」
フィントリッドは自慢気にそんな事を言った。
「まあ、そういうわけで、彼が気力も向上心にも満ちて仕事をしているから、私がしばらく居なくても、何とかなる。まあ、本当に最上の料理は私がいないと出来ないのだがな」
「支障がないなら結構だ」
自慢気に話しを続けるフィントリッドに、エイクはやや投げ槍に答えた。率直に言って、フィントリッドの料理自慢には興味がなかった。
それに、随分慌しい日程ではあるが、エイクは次々と予定が詰まっていた方が、効率が良いとも思っていた。
こうして、エイクがヤルミオンの森の深部にあるというフィントリッドの城に向かうのは、明後日ということになった。
ロアンの屋敷を出たエイクは、帰宅する前に、再度“イフリートの宴亭”に足を運んだ。
そして、ラテーナ商会と連絡をとるようにガゼックに命じた。
ラテーナ商会というのは、盗賊ギルド“黒翼鳥”との連絡役になっている商会である。
エイクは、改めて“黒翼鳥”にも情報収集の依頼を出す事にしたのだった。
屋敷に戻ったエイクは、中庭で予定通りテティス達“黄昏の蛇”の一行と訓練を行った。
“黄昏の蛇”のメンバー全員が、本気で攻撃してくるのを、エイクが訓練用の木剣で受けるという方式である。
訓練を行うのは予定通りだが、エイクは己の中に生じている動揺や感情の高ぶりを治める為にも、体をしっかりと動かそうと思っていた。
父の仇に関する情報を得たことによる精神的な衝撃を、エイクは未だに完全には解消できていなかったのである。
また、有力な容疑者の存在を知ったのに、自分自身では動くべきではないという現状に苛立ちも募らせていた。
そしてまたエイクは、この訓練に1つの目的を持って臨む事にもしていた。
それは、弱かった頃の自分を模して戦ってみるということだ。
これまでにもエイクが実力を発揮せずに戦った事は何度もある。
訓練の時に手加減をした事もあるし、実戦においても、実力を悟られたくないと思った時にはそうしていた。
だが、エイクは、セレナの指導に従って、弱かった頃の自分の振りをするという感覚で、実力を隠すように立ち振る舞った結果、実力を発揮させずに戦うということに関して、思うところがあった。
弱かった頃の自分の振りをする。そして少しずつ実力を出していく。そんな行いをする事で、自分の剣技の上達を、擬似的に追体験出来るのではないかと思ったのだ。
(俺の上達は余りにも特殊だったからな。オドを奪われていた頃は、どんなに頑張ってもまともに体が動かなくて、本当に少しずつしか上達しなかった。
そして、オドを取り戻した時に、突然それまでの鍛錬の成果を十分に使えるようになって、一気に上達した。
あれはあれで、過酷な状況で頑張ったからこそ、色々と特殊な能力を手に入れられたんだろうから、結果として意味はあったと思う。
けれど、普通の上達過程というものも、擬似的にでも経験しておいた方がいいだろう。
きっとそれも、今後の成長の糧になる)
と、そんな事を考えたのだった。
その結果エイクは、最初はジュディアやルイーザに何度も攻撃を当てられ、そこから徐々に強くなっていくかのように実力を出しつつ戦って、最後には両者を圧倒するという形で訓練を行った。
途中で休憩を入れながら、そんな訓練が何度も繰り返され、ついにジュディアとルイーザ、そして接近戦にも参加したテティスの3人は、疲れ果てて倒れこんでしまった。
女達の中で立っているのは、早々にマナを使い果たして、以後することがなくなっていたカテリーナだけだ。
エイクは今の訓練はやはり有効だったと考えていた。
今後剣技を鍛えるための参考になったし、精神状態も大分落ち着いて来ていた。
そんな事を考えながら、倒れ伏して、荒い呼吸を繰り返している女達をしばらく見ていたエイクだったが、やがてジュディアの近くに歩み寄って声をかけた。
「折角実戦的な訓練をしたんだから、戦いの後に起こる事まで再現してみよう」
そして、板金鎧を着たまま床に伏していたジュディアを軽々と抱えあげた。
「な、や、やめ……」
ジュディアはそんな声をあげて身をよじり、エイクから逃れようとした。
戦いの後に起こる事、とは、陵辱の事だと悟って、ほとんど反射的に抵抗したのだ。
しかし、自分の立場を思い出したジュディアは抵抗をやめて、エイクの腕に身を任せた。だが、耐えるように歯を食いしばり、身を震えさせている。
エイクはそんな様子のジュディアを自分の寝室へと運んだ。
エイクにはジュディアの状況を慮ったりしている様子はまるでない。彼は、未だに完全には治まり切っていない感情の高ぶりや苛立ちを、女の体にぶつけるつもりだった。
だからこそ、女達の中で最も体力と耐久力に優れたジュディアを選んだのである。
テティスは身を起こして、慄然たる思いでエイクに運び去られるジュディアを見た。
(あんな疲れ果てた状態で、エイクさんの相手をさせられるなんて、ほとんど拷問よ)
と、そう思っていた。
カテリーナも顔を青ざめさせている。
「ジュディアさん、大丈夫でしょうか?」
ルイーザが、誰に言うともなくそんな事を口にした。その問いに、気軽に大丈夫だと返せる者はいなかった。
続いてアルターがそう告げる。
「言ってみてくれ」
エイクの返答を受け、アルターが語り始めた。
「もしも今後、“虎使い”とダグダロアの預言者が同一の存在だと分かった場合の話です。
そうなった場合には、レシア王国の冒険者の店のいくつかに、ドゥムラント半島の魔族の動向を調査する依頼を出して、あの国の冒険者達にドゥムラント半島の情勢を探らせてはどうでしょう」
「……まあ、確かにその場合は、預言者の動向や戦力を探る事も重要になるから、それも意味はあると思う。
だが、他国の冒険者である俺が、使者でも送ってそんな依頼を出しても、冒険者の店が受け付けないだろう?」
エイクがそんな懸念を述べた。
冒険者の店は、属する冒険者の安全を守るために、依頼主に対して最低限の裏を取る。
レシア王国内の冒険者の店が、他国の、それも敵国であるアストゥーリア王国に住む冒険者の依頼を受け付けるとは思えなかった。
「シャムロック商会にお願いすればよいと思います。
和平の結果として民間人の行き来は認められていますから、レシア王国とも商人の交流は多少はあります。
シャムロック商会は、レシア王国と直接交易はしていませんが、情報収集の伝手程度は確保している様子です。
それを使えば、依頼を出す事も可能でしょう。
この程度の事ならば、シャムロック商会にお願いしても、さほど大きな借りにはならないはずです」
「それで冒険者の店には受けてもらえたとしても、敵国の大商会からの依頼となれば、やはり目だってしまうんじゃあないか?」
「如何にも、おっしゃるとおりです。そして、それこそが主な目的です」
エイクの重ねての疑問にアルターが答えた。
「敵国の大商会が、自国の何かを探っているとなれば、政府の中にはそれを気にする者も現れるでしょう。大商会を隠れ蓑に、敵国の政府が動いている可能性も考えられるからです。
特に調査対象が、ドゥムラント半島の魔族となればなおさらです。
あの国には、我が国が魔族と組んでいると思っている者もおりますからな」
5年前のボルドー河畔の戦いから撤退する際に、レシア王国軍は妖魔による大規模な襲撃を受け、大きな被害を出した。それをアストゥーリア王国の陰謀だと主張する者も存在したのだ。
それがある意味で事実である可能性も今や低くはないのだが、いずれにしても、そんな疑いがある敵国の者が、魔族領域であるドゥムラント半島に対して何かしていると知れば、注目せざるを得ない。
レシア王国はかなり露骨に戦の準備をしており、停戦開けに自らアストゥーリア王国と戦う気なのは明白と思われている。
そんな情勢だからこそ、背後に当たるドゥムラント半島におけるアストゥーリア王国の動きを無視する事は出来ないはずだ。
アルターは説明を続けた。
「当然、何を調べていたのか、調べた結果を知ろうとするでしょうし、ドゥムラント半島へ自ら探りを入れるかも知れません。
その結果、組織だって動いている妖魔を確認すれば、それを放置する事も出来なくなります。
より本格的な調査をし、場合によっては討伐を検討することになるでしょう。
それは、ドゥムラント半島の妖魔の一部を操っているという預言者への牽制になります」
「なるほど、意味はありそうだな」
エイクはそう述べた。
強大な力を持つらしい預言者への対抗策としては、その脅威を明らかにし、国を超えた連携が必要と思われる。
だが、明確に連携しなくとも、レシア王国が自らその脅威を知り、独自に対処しようとしても、結果として預言者に対する牽制程度にはなる。
アルターは更に説明を続けた。
「ただし、今すぐに行うのは拙速です。
私としては、“虎使い”と預言者が同一の存在であるか、或いは“虎使い”が預言者の部下である可能性は高いという心証を持っています。ですが、確証がある事ではありません。
“虎使い”と預言者が特に関係していないかった場合、下手にこちらから預言者に手を出すと、“虎使い”に加えて預言者とも即座に敵対する事になりかねません。
ですので、動くとしたならば、“虎使い”と預言者の関係がはっきりしてから、という事になります。
ただ、このような手もある、という事は念頭に置いておいてよいかと考えます」
「分かった。考えに入れておく」
エイクはそう答えた。
「他にはどうだ?」
エイクは更に確認する。
シャルシャーラやロアンから現状報告等があったが、重大なものではなく、会議はまもなく終了となった。
会議を終えたエイクはアルターを先に帰らせ、自身はフィントリッドと話しをすることにした。
明後日以降なら、以前話しを聞いたオーガに対応するの為にヤルミオンの森に行く事が出来る。と、伝える為だ。
今日得られた情報によって、エイクとしてもいろいろと思うところはあった。
だが、今はまだ予定を変えて自分自身が動く時ではないと判断し、とりあえず、予定通りに行動する事にしたのである。
「都合がつくなら、早速お願いしよう。
明後日だな。約束どおり、まずは私の城で配下の者達を紹介しよう」
エイクの話を聞くと、フィントリッドは気軽にそういった。
「簡単に言ってくれるが、ここの料理人としての仕事は大丈夫なのか?」
エイクはそう確認する。料理人の仕事を疎かにしてもらっても困る。
「問題ない。私がここで働き始めた時に、辞めようとしていた老料理人なのだが、私の作った料理を口にするや否や、自分の未熟さを思い知ってな。前言を翻して、私に教えを請いながら今も働いているのだ。
料理の良さというものは、食べる者に分かってもらってこそ意味がある。
だが、やはり、ある程度調理の腕を持っている者の方が、技術の高さや奥深さを知る事が出来る。その意味では、あの老料理人が私の調理に感じ入るのも当然といえるだろう」
フィントリッドは自慢気にそんな事を言った。
「まあ、そういうわけで、彼が気力も向上心にも満ちて仕事をしているから、私がしばらく居なくても、何とかなる。まあ、本当に最上の料理は私がいないと出来ないのだがな」
「支障がないなら結構だ」
自慢気に話しを続けるフィントリッドに、エイクはやや投げ槍に答えた。率直に言って、フィントリッドの料理自慢には興味がなかった。
それに、随分慌しい日程ではあるが、エイクは次々と予定が詰まっていた方が、効率が良いとも思っていた。
こうして、エイクがヤルミオンの森の深部にあるというフィントリッドの城に向かうのは、明後日ということになった。
ロアンの屋敷を出たエイクは、帰宅する前に、再度“イフリートの宴亭”に足を運んだ。
そして、ラテーナ商会と連絡をとるようにガゼックに命じた。
ラテーナ商会というのは、盗賊ギルド“黒翼鳥”との連絡役になっている商会である。
エイクは、改めて“黒翼鳥”にも情報収集の依頼を出す事にしたのだった。
屋敷に戻ったエイクは、中庭で予定通りテティス達“黄昏の蛇”の一行と訓練を行った。
“黄昏の蛇”のメンバー全員が、本気で攻撃してくるのを、エイクが訓練用の木剣で受けるという方式である。
訓練を行うのは予定通りだが、エイクは己の中に生じている動揺や感情の高ぶりを治める為にも、体をしっかりと動かそうと思っていた。
父の仇に関する情報を得たことによる精神的な衝撃を、エイクは未だに完全には解消できていなかったのである。
また、有力な容疑者の存在を知ったのに、自分自身では動くべきではないという現状に苛立ちも募らせていた。
そしてまたエイクは、この訓練に1つの目的を持って臨む事にもしていた。
それは、弱かった頃の自分を模して戦ってみるということだ。
これまでにもエイクが実力を発揮せずに戦った事は何度もある。
訓練の時に手加減をした事もあるし、実戦においても、実力を悟られたくないと思った時にはそうしていた。
だが、エイクは、セレナの指導に従って、弱かった頃の自分の振りをするという感覚で、実力を隠すように立ち振る舞った結果、実力を発揮させずに戦うということに関して、思うところがあった。
弱かった頃の自分の振りをする。そして少しずつ実力を出していく。そんな行いをする事で、自分の剣技の上達を、擬似的に追体験出来るのではないかと思ったのだ。
(俺の上達は余りにも特殊だったからな。オドを奪われていた頃は、どんなに頑張ってもまともに体が動かなくて、本当に少しずつしか上達しなかった。
そして、オドを取り戻した時に、突然それまでの鍛錬の成果を十分に使えるようになって、一気に上達した。
あれはあれで、過酷な状況で頑張ったからこそ、色々と特殊な能力を手に入れられたんだろうから、結果として意味はあったと思う。
けれど、普通の上達過程というものも、擬似的にでも経験しておいた方がいいだろう。
きっとそれも、今後の成長の糧になる)
と、そんな事を考えたのだった。
その結果エイクは、最初はジュディアやルイーザに何度も攻撃を当てられ、そこから徐々に強くなっていくかのように実力を出しつつ戦って、最後には両者を圧倒するという形で訓練を行った。
途中で休憩を入れながら、そんな訓練が何度も繰り返され、ついにジュディアとルイーザ、そして接近戦にも参加したテティスの3人は、疲れ果てて倒れこんでしまった。
女達の中で立っているのは、早々にマナを使い果たして、以後することがなくなっていたカテリーナだけだ。
エイクは今の訓練はやはり有効だったと考えていた。
今後剣技を鍛えるための参考になったし、精神状態も大分落ち着いて来ていた。
そんな事を考えながら、倒れ伏して、荒い呼吸を繰り返している女達をしばらく見ていたエイクだったが、やがてジュディアの近くに歩み寄って声をかけた。
「折角実戦的な訓練をしたんだから、戦いの後に起こる事まで再現してみよう」
そして、板金鎧を着たまま床に伏していたジュディアを軽々と抱えあげた。
「な、や、やめ……」
ジュディアはそんな声をあげて身をよじり、エイクから逃れようとした。
戦いの後に起こる事、とは、陵辱の事だと悟って、ほとんど反射的に抵抗したのだ。
しかし、自分の立場を思い出したジュディアは抵抗をやめて、エイクの腕に身を任せた。だが、耐えるように歯を食いしばり、身を震えさせている。
エイクはそんな様子のジュディアを自分の寝室へと運んだ。
エイクにはジュディアの状況を慮ったりしている様子はまるでない。彼は、未だに完全には治まり切っていない感情の高ぶりや苛立ちを、女の体にぶつけるつもりだった。
だからこそ、女達の中で最も体力と耐久力に優れたジュディアを選んだのである。
テティスは身を起こして、慄然たる思いでエイクに運び去られるジュディアを見た。
(あんな疲れ果てた状態で、エイクさんの相手をさせられるなんて、ほとんど拷問よ)
と、そう思っていた。
カテリーナも顔を青ざめさせている。
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