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第4章
68.未知の術②
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エイクは、アズィーダが変身する前から、組技を警戒して常に防御を重視していた。
そして今も、竜と変じたアズィーダの強力な攻撃を避ける事を優先して、全力の攻撃を放っていない。
その結果、アズィーダはエイクの攻撃の威力を見誤っている。
マナを温存するつもりなのか、先ほどから2度攻撃を受けた右翼の傷を神聖魔法で治していないのがその証拠だ。
まだそれほどの傷ではないと思っているのかも知れないが、それは油断である。
そしてエイクは、その右翼に狙いを絞っていた。
エイクはアズィーダの動きを見切ろうと鋭い視線を送った。
再度旋回したアズィーダがエイクに迫る。
牙と鉤爪の攻撃が来る。エイクはそれを、あえて紙一重の間合いで避けようとする。
アズィーダの頭部の角がエイクをかすめ、それだけで無視できないダメージを与えた。
だが、エイクは踏みとどまった。
そして、右の鉤爪をギリギリの距離だけ退いて避ける。
エイクの直ぐ眼前を猛烈な勢いで鉤爪が通過した。
次の瞬間、エイクはアズィーダの右前肢に沿うように全速で前進する。
手にしたクレイモアは頭上に大きく振り上げられていた。
そして、前進の勢いと渾身の力を込めて、右翼に向かって振り下ろす。
「ガアァァ!」
アズィーダは強烈な痛みに耐えかね、叫びをあげる。
エイクのクレイモアはアズィーダの右翼を捉え、その骨まで絶っていた。
最早回復魔法を使って生命力を回復させても、即座に空を飛ぶことは出来ない。
だが、アズィーダは、どうにか下肢を地に着けて着地の態勢をとり、即座に向きかえ、エイク噛み殺さんと首を伸ばす。
エイクもすかさず振り向いていたが、渾身の一撃を放ったためにその体勢は崩れている。クレイモアは下段に下げられたままだ。
懸命に身を傾けて頭部を噛まれることは避けたが、その右肩をアズィーダの牙が貫いた。
「ッ!」
エイクは歯を食いしばって激痛に耐えながら、右足を大きく一歩後退して右半身を退き、下段に構えたままのクレイモアをアズィーダの首めがけて思いきり振り上げる。
そのエイクの一撃は、アズィーダの咢を振り払う。
エイクが受けたダメージも甚大なものだった。だが彼は、既に自己治癒の錬生術を使い始めていた。
アズィーダの攻撃は致命的なものにはなっていない。
エイクはアズィーダの正面に立ち、クレイモアを中段に構える。それは、また守りを重視する構えだった。
アズィーダは上位回復魔法の呪文を唱えつつ、エイクに向かって牙と鉤爪を振るう。
右鉤爪がエイクを捉え、エイクのクレイモアはアズィーダの胸元を刺し貫いた。
今回もやはりエイクの負ったダメージの方が大きい。
だがエイクは、自分の方が優勢になったと考えていた。
アズィーダから飛びながら戦う有利は消えた。
この状況なら、守りを重視すれば多くの攻撃を避けることが出来る。エイクはそんな感覚を掴んでいた。
そして、有効な打撃を与える事も今までよりは容易だ。
また、尻尾による攻撃は正面にまでは届かない。
事実、アズィーダは再度牙と鉤爪による攻撃を繰り出したが、エイクはその全てを避け、そして逆に、絶好の機会を掴んだ。
先ほどエイクが穿った胸元の傷を、攻撃範囲内に捉えたのだ。
エイクはその傷めがけて素早く前進して鋭い突きを繰り出し、狙い過たず刺し貫く。
アズィーダは声も上げずに激痛に堪え、エイクを攻撃する。しかし、甚大なダメージを被ったのは間違いない。
そしてエイクは、更に己が有利になった事を知った。
アズィーダの動きが鈍くなったのである。
(錬生術が切れた。かけ直さないということは、マナはもう尽きている)
エイクはそう見てとった。それはつまり、アズィーダは最早回復魔法を使う事も出来ないということを示している。
対してエイクのマナにはまだ余裕があった。そして、エイクは自己治癒の錬生術を継続して使ってもいる。
更にエイクは油断なく守りを重視した構えを崩さない。
アズィーダの攻撃は空を切り、逆にエイクはその首に一撃を加える。
アズィーダは怯まず、エイクを噛み殺そうと首を伸ばした。
エイクは身体を右に動かしその攻撃を避ける。そこにすかさずアズィーダの左前肢が伸び、その爪がエイクの右脇腹を切り裂いた。
エイクもまた怯むことなく、アズィーダの頭部にクレイモアを振り下ろす。
その一撃は、過たずアズィーダを打った。
エイクが渾身の力を込めなかったこともあり、その攻撃は頭蓋を砕く事はなかった。しかし、大きな衝撃を与えている。
既に大量の出血をしていたアズィーダは、その打撃に耐える事ができなかった。
その身体は音を立てて地に倒れ伏す。アズィーダは意識を失っていた。
エイクは追撃を加えなかった。
だが、クレイモアを構えて油断なくアズィーダの様子を伺う。そして自己治癒の錬生術を継続して使い、その身の傷を癒した。
アズィーダは死んではいない。だが、意識を取り戻す様子はない。
やがて、その体が縮み始め、見る見るうちに元の人型の姿に戻った。身に付けていた服は全てはじけ飛んでしまっている。
(竜の姿が本性というわけではなかったようだな)
エイクはそう判断した。
そして、それでもアズィーダが意識を取り戻さない事を確認し、大きく息を吐いた。
(勝つには勝った。だが、相手の失敗に助けられた面が大きかった)
エイクはそのように考えた。
最初から竜に変身して戦われた方が、今よりも苦戦しただろうと思ったからである。
アズィーダは、竜の姿よりも弱い人型の姿のままで錬生術を用いて戦った。更に、傷を負って神聖魔法を用いてそれを癒した。
おそらく、練生術の奥義や竜に変ずる術を隠したいと考えたからだろう。だが、その結果、マナを無為に消費してしまった。
もしも、マナが万全の状態で竜の姿になって戦っていたなら、今よりも有利に戦えたはずだ。
エイクはそれでも自分に勝ち目はあったと思っていたが、今より苦戦したのは間違いない。
しかしエイクは、アズィーダを嘲笑う気にはなれなかった。
彼もまた、自分の能力を出来るだけ隠して戦いたいと思っていたからだ。それはつまり、エイクもアズィーダと同じ失敗を犯す危険性があるという事を意味している。
そしてエイクは、そのような危険性を負った上で戦うのもやむを得ないと思っていた。
全力を出さずに戦って負けるなど愚かとしか言いようがない。だが、常に全力を出せばよいというものでもない。
常に全力で戦うと言えば聞こえはいいが、それは自身の全力を多くの者に知られることを意味する。
必然的に、敵に全力を知られる可能性も上がる。そうなれば、当然敵はエイクの全力を以ってしても対抗できない策を弄した上で攻撃して来るだろう。そうなれば敗北は免れない。
自分の全力の力を知られてしまい、その結果次の戦いで必敗の状況に陥るのも、避けなければならないのである。
(まあ、敵に襲われる前に成長して、更に強くなっていれば良いんだが、そこまで都合よく事が進むと事はないだろう。実力を知られないようにすることはやはり必要だ。
だが、その結果、このオーガのように負けてしまっていては本末転倒だ。全力を出すべき時には出さなければならない。
結局は敵の力量を的確に見極めて、適切な戦い方を図る必要がある。
難しい事だが、そういう技術も磨いていかなければならない)
エイクはそのように自戒した。
(だが、とりあえず、今日は俺が勝った。いろいろな意味で、この勝利は最大限に利用したいところだな)
エイクは、未だ意識を取り戻す様子がないアズィーダの身体を見ながらそんな事も考えたのだった。
そして今も、竜と変じたアズィーダの強力な攻撃を避ける事を優先して、全力の攻撃を放っていない。
その結果、アズィーダはエイクの攻撃の威力を見誤っている。
マナを温存するつもりなのか、先ほどから2度攻撃を受けた右翼の傷を神聖魔法で治していないのがその証拠だ。
まだそれほどの傷ではないと思っているのかも知れないが、それは油断である。
そしてエイクは、その右翼に狙いを絞っていた。
エイクはアズィーダの動きを見切ろうと鋭い視線を送った。
再度旋回したアズィーダがエイクに迫る。
牙と鉤爪の攻撃が来る。エイクはそれを、あえて紙一重の間合いで避けようとする。
アズィーダの頭部の角がエイクをかすめ、それだけで無視できないダメージを与えた。
だが、エイクは踏みとどまった。
そして、右の鉤爪をギリギリの距離だけ退いて避ける。
エイクの直ぐ眼前を猛烈な勢いで鉤爪が通過した。
次の瞬間、エイクはアズィーダの右前肢に沿うように全速で前進する。
手にしたクレイモアは頭上に大きく振り上げられていた。
そして、前進の勢いと渾身の力を込めて、右翼に向かって振り下ろす。
「ガアァァ!」
アズィーダは強烈な痛みに耐えかね、叫びをあげる。
エイクのクレイモアはアズィーダの右翼を捉え、その骨まで絶っていた。
最早回復魔法を使って生命力を回復させても、即座に空を飛ぶことは出来ない。
だが、アズィーダは、どうにか下肢を地に着けて着地の態勢をとり、即座に向きかえ、エイク噛み殺さんと首を伸ばす。
エイクもすかさず振り向いていたが、渾身の一撃を放ったためにその体勢は崩れている。クレイモアは下段に下げられたままだ。
懸命に身を傾けて頭部を噛まれることは避けたが、その右肩をアズィーダの牙が貫いた。
「ッ!」
エイクは歯を食いしばって激痛に耐えながら、右足を大きく一歩後退して右半身を退き、下段に構えたままのクレイモアをアズィーダの首めがけて思いきり振り上げる。
そのエイクの一撃は、アズィーダの咢を振り払う。
エイクが受けたダメージも甚大なものだった。だが彼は、既に自己治癒の錬生術を使い始めていた。
アズィーダの攻撃は致命的なものにはなっていない。
エイクはアズィーダの正面に立ち、クレイモアを中段に構える。それは、また守りを重視する構えだった。
アズィーダは上位回復魔法の呪文を唱えつつ、エイクに向かって牙と鉤爪を振るう。
右鉤爪がエイクを捉え、エイクのクレイモアはアズィーダの胸元を刺し貫いた。
今回もやはりエイクの負ったダメージの方が大きい。
だがエイクは、自分の方が優勢になったと考えていた。
アズィーダから飛びながら戦う有利は消えた。
この状況なら、守りを重視すれば多くの攻撃を避けることが出来る。エイクはそんな感覚を掴んでいた。
そして、有効な打撃を与える事も今までよりは容易だ。
また、尻尾による攻撃は正面にまでは届かない。
事実、アズィーダは再度牙と鉤爪による攻撃を繰り出したが、エイクはその全てを避け、そして逆に、絶好の機会を掴んだ。
先ほどエイクが穿った胸元の傷を、攻撃範囲内に捉えたのだ。
エイクはその傷めがけて素早く前進して鋭い突きを繰り出し、狙い過たず刺し貫く。
アズィーダは声も上げずに激痛に堪え、エイクを攻撃する。しかし、甚大なダメージを被ったのは間違いない。
そしてエイクは、更に己が有利になった事を知った。
アズィーダの動きが鈍くなったのである。
(錬生術が切れた。かけ直さないということは、マナはもう尽きている)
エイクはそう見てとった。それはつまり、アズィーダは最早回復魔法を使う事も出来ないということを示している。
対してエイクのマナにはまだ余裕があった。そして、エイクは自己治癒の錬生術を継続して使ってもいる。
更にエイクは油断なく守りを重視した構えを崩さない。
アズィーダの攻撃は空を切り、逆にエイクはその首に一撃を加える。
アズィーダは怯まず、エイクを噛み殺そうと首を伸ばした。
エイクは身体を右に動かしその攻撃を避ける。そこにすかさずアズィーダの左前肢が伸び、その爪がエイクの右脇腹を切り裂いた。
エイクもまた怯むことなく、アズィーダの頭部にクレイモアを振り下ろす。
その一撃は、過たずアズィーダを打った。
エイクが渾身の力を込めなかったこともあり、その攻撃は頭蓋を砕く事はなかった。しかし、大きな衝撃を与えている。
既に大量の出血をしていたアズィーダは、その打撃に耐える事ができなかった。
その身体は音を立てて地に倒れ伏す。アズィーダは意識を失っていた。
エイクは追撃を加えなかった。
だが、クレイモアを構えて油断なくアズィーダの様子を伺う。そして自己治癒の錬生術を継続して使い、その身の傷を癒した。
アズィーダは死んではいない。だが、意識を取り戻す様子はない。
やがて、その体が縮み始め、見る見るうちに元の人型の姿に戻った。身に付けていた服は全てはじけ飛んでしまっている。
(竜の姿が本性というわけではなかったようだな)
エイクはそう判断した。
そして、それでもアズィーダが意識を取り戻さない事を確認し、大きく息を吐いた。
(勝つには勝った。だが、相手の失敗に助けられた面が大きかった)
エイクはそのように考えた。
最初から竜に変身して戦われた方が、今よりも苦戦しただろうと思ったからである。
アズィーダは、竜の姿よりも弱い人型の姿のままで錬生術を用いて戦った。更に、傷を負って神聖魔法を用いてそれを癒した。
おそらく、練生術の奥義や竜に変ずる術を隠したいと考えたからだろう。だが、その結果、マナを無為に消費してしまった。
もしも、マナが万全の状態で竜の姿になって戦っていたなら、今よりも有利に戦えたはずだ。
エイクはそれでも自分に勝ち目はあったと思っていたが、今より苦戦したのは間違いない。
しかしエイクは、アズィーダを嘲笑う気にはなれなかった。
彼もまた、自分の能力を出来るだけ隠して戦いたいと思っていたからだ。それはつまり、エイクもアズィーダと同じ失敗を犯す危険性があるという事を意味している。
そしてエイクは、そのような危険性を負った上で戦うのもやむを得ないと思っていた。
全力を出さずに戦って負けるなど愚かとしか言いようがない。だが、常に全力を出せばよいというものでもない。
常に全力で戦うと言えば聞こえはいいが、それは自身の全力を多くの者に知られることを意味する。
必然的に、敵に全力を知られる可能性も上がる。そうなれば、当然敵はエイクの全力を以ってしても対抗できない策を弄した上で攻撃して来るだろう。そうなれば敗北は免れない。
自分の全力の力を知られてしまい、その結果次の戦いで必敗の状況に陥るのも、避けなければならないのである。
(まあ、敵に襲われる前に成長して、更に強くなっていれば良いんだが、そこまで都合よく事が進むと事はないだろう。実力を知られないようにすることはやはり必要だ。
だが、その結果、このオーガのように負けてしまっていては本末転倒だ。全力を出すべき時には出さなければならない。
結局は敵の力量を的確に見極めて、適切な戦い方を図る必要がある。
難しい事だが、そういう技術も磨いていかなければならない)
エイクはそのように自戒した。
(だが、とりあえず、今日は俺が勝った。いろいろな意味で、この勝利は最大限に利用したいところだな)
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