彼女の理想に近づく為に、僕は何度でも繰返す

トン之助

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第19話 彼女と家族

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  僕は一体どうしたのだろう。頭が重い……思考が定まらない。そんな時でも意識は覚醒していく。


「……おねぇやりすぎだよ」
「折羽、起きたら謝るのよ」

 だれかの声が聞こえる。

「……わかってるよ」

 近くで僕の好きな人の声が聞こえる。そして頭には人の温もりが感じられる。

 こ、これは……もしかして……ウワサに聞く好きな人のひざ枕。僕は意識がハッキリしない中急いで目を開ける。

藤宮さん!

「…………」


「やぁ!  君が黒江君かい?」

 僕が目を開けた先には……僕を覗き込むような体勢で見つめる……知らないオッサンがいた。


「グボォア……」

 僕は再び意識を手放した……人生初の膝枕が知らないオッサンだったなんて。

 今日はもうずっと寝ていよう。これは夢だったんだ……



「……人の顔を見て気絶するとはなかなか失礼な人だ」

「お父さん……流石にないわ~」

「おねぇもそう思うよね」

「あらあら、さっきまで折羽がしてたのにね~」


 その会話が僕の耳に入る事は無かった……




「ちょっといい加減起きなさいよ!」
「むにゃ……あと1時間~」

「ご飯できたわよ?」
「藤宮しゃ~ん……好きだ~」

「……」

「おはようのチューを……」
「あんた起きてるんでしょ!」

 ドゴッ

「ぐはっ……」


 バレたか……あわよくばキスをしたかったのだが……しかし藤宮さん、寝ている人のお腹をエルボーするのはどうかと思うよ。


「痛いよ藤宮さん……」
「あんたが変な事言うからでしょ?  てか寝すぎよ、 もう8時30分なんだけど?」

「えぇー!  そんな時間?」

 どうやら僕は2時間近く藤宮さん家のソファで眠っていたらしい。いつの間にかブランケットが掛けてあった。

 どうやら藤宮さんが掛けてくれたみたいだ。

  んもぅ!  藤宮さんてば優しい。

「良く寝られたかね?」

 リビングの椅子に座り僕に尋ねてくる人物は……僕の意識を刈り取ったダンディな口髭が似合う膝枕の君だった。


「あ、はい……ありがとうございます?」

 僕は膝枕をしてくれてお礼?を含んだ変な言い方になってしまった。

「ははは!  さっきはすまなかったねえ。つい出来心で」
「い、いえ、僕の方こそ顔を見て意識を失ってすみません」

 僕の返しに女性陣の笑いのツボが限界にきたようだ。


「ブハハッ!  クロエ最高!」
「おねぇ……ふひ……あはははは」
「ふふふふふ……ダメね……その返しは反則よ渚くん……あはは」

 3人共笑いのツボは浅いみたいだ。一方発言した僕の傷は深くなりそうだ。

「いやはや、妻達がこんなに笑うなんてな。君には笑いの才能がある」

 僕の心配とは裏腹にお父さんも笑っている。それなら良かった。

「あの、改めて自己紹介を。藤宮折羽さんと同じクラスの黒江渚です」

 そして……

「僕は藤宮さんが大好きです。一生をかけて……いや僕の命に替えてもお守りします。だから交際を認めてください」


 僕は土下座をしていた。


 そんな僕を見て藤宮さんの父親は……


「まぁ落ち着きたまえ……君にも事情があるだろうが……とりあえず寝起きで汗もかいてるだろう。お風呂で汗を流してきなさい」

「えっ?」


 おじさんの言葉に僕は驚愕する。そして自分の体を改めて見る。すると制服がじっとりと湿っていた。


(夢の中で藤宮さんとキャッキャウフフしてたのかな?……思い出せない)


「あ、はい……でも」

「私達は先に済ませたから気兼ねなく入るといい」


(藤宮さんの入浴後のお風呂!)


 しかし僕はその事について深く考えないようにした。なぜなら……藤宮さんのお父さんがあまりにも優しかったから。大きくて暖かな手をしていた。

 僕はその優しい声と肩に置かれた手に従うしかなかった。


 藤宮さんに洗面所に案内された時、藤宮さんから声をかけられた。


「……クロエ……お前……」


 どこか歯切れの悪い藤宮さんの言葉。


「えっ?何、藤宮さん?」

「いやなんでもねぇ……」


 藤宮さんは僕を案内した後、首をぶんぶん振ってリビングに駆けていった。



 一方、僕がお風呂に入った後の藤宮家の面々は……


「あの子……」

「あぁ……」

「泣いてた……よね」

「……」


 4人は僕が寝ていた時の事を話している。


「おねぇ……黒江さんってどんな人なの?」


 彩羽ちゃんが尋ねる。それに倣うようにパパとママも見てくる。


「……学校ではいつも私に話しかけてくる」

「他には?」

「定食屋でバイトしてる」

「じゃあ……さなって子は?」


 パパは話の確信に触れる。


「あいつの妹だって話だ」

「会ったことあるの?」

「いや……話だけだ。あいつはだいぶんシスコンらしい」

「……う~ん」


 色羽さんはどこか納得いかないみたいに唸っている。


「それに黒江さん……私を見てさなって言ったよね?」

「うん……」

「そうなのか?」


 コクリと頷く彩羽ちゃん。ますます謎が深まってきた。

 だって寝ている時の彼は異常だったからだ……

『さな!……行かないでくれ!』

『お願いします……神様』

『さな……さな……さなっ!』


 これを永遠と……まるで悪夢を見ているように何度も繰り返していた。


「直接は……聞けないわね」

「あぁ」


 両親はお互いに理解し合い、頷いている。


「おねぇ……今度写真とか見せてもらったら?」

「あ、あぁ……でもあいつスマホもってないんだよ」

「えぇ!!そうなの?」

「だから交換日記してるんだ」

「な、なるほどぉ……」


 姉の言葉に納得する彩羽ちゃん。

 そんなタイミングでリビングの扉がガチャりと開く。


「あの!ありがとうございました!とっても広いお風呂ですね!僕あんな広いお風呂初めてですよ~」


 上機嫌な彼が帰ってきた。


一般家庭では普通サイズのはずなんだが。


 この疑問は誰のものだったか……そして彼と藤宮家の関わりがここから本格的にスタートする。


 そして、藤宮さんも知ることになる。なぜ彼が彼女にこだわるのか……なぜ彼があの時泣いていたのかを。
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